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「キン肉マン」超人図鑑が話題 当時のファンが次代に“継承”

「キン肉マン」超人図鑑が話題 当時のファンが次代に“継承”

学研の辞典編集室室長の芳賀靖彦氏(左)と図鑑チームの杉田祐樹氏(右)

 2020年に創刊50周年を迎える『学研の図鑑』シリーズが、人気漫画『キン肉マン』とタッグを組んだ『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』を発売。情報が解禁されるとSNSで反響を呼び、予約が殺到、Amazon売れ筋ランキング「本」総合で、1位を10日連続達成する大ヒットとなった。今年で連載開始40周年となる『キン肉マン』だが、何故今なお人気なのか。同図鑑担当者に『キン肉マン』の魅力を聞いた。

「キン消し」ブームから36年を経ても、番組で“けやき坂46”が超人名を絶叫

 『キン肉マン』が『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載をスタートさせたのは1979年。漫画ユニット「ゆでたまご」による作品で、原作担当の嶋田隆司氏は当時18歳、作画担当の中井義則氏は当時17歳という若さだった。ストーリーは「ダメ超人」と呼ばれていた主人公のキン肉マンが、地球の平和を守るために敵と戦いながら成長していく物語。残虐超人や悪魔超人ら強敵とプロレスのリング上で戦い、そこで繰り広げられる死闘と友情物語が当時の少年たちの心を鷲掴みにした。テレビアニメも制作され、キャラクターをかたどった「キン消し」は、社会現象になるほどの大ヒットを見せた。

 一時ブームは下火になったものの、1997年に『週刊プレイボーイ』がその続編『キン肉マンII世 伝説の序章〜1〜「血を受け継ぐ男・万太郎!」』を掲載。1998年から本格的に連載がスタートし、2002年にアニメ化。今なおWEBコミックとして連載中である。その人気は、漫画、アニメに留まらず、バラエティ番組でも度々題材として取り上げられており、2014年12月『水曜日のダウンタウン』(TBS系)では「レオパルドンよりも一瞬で殺されたものなどいない説」を放送。また2019年2月『ひらがな推し』(テレビ東京系)でも「キン肉マン」特集が放送され、お笑いコンビ・オードリーの春日俊彰が真似する超人に、けやき坂46(現・日向坂46)メンバーが超人名でツッコミを繰り広げ話題に。2016年10月『アメトーーク!』(テレビ朝日系)でも「キン肉マン芸人」が高視聴率を記録している。

 今年1月から2月にかけてJR東日本が「キン肉マンスタンプラリー」を開催。JRの各駅に一人ずつ人気の超人を配置したスタンプラリーが親子の間で人気を呼び、ゆでまたごの嶋田氏本人が全63駅を制覇したことでも話題となった。また、2018年には新宿の歌舞伎町に「キン肉マン酒場」が期間限定でオープン、さらに「キン消し」も定期的に復活・販売を繰り返しており、『キン肉マン』は非常に息の長い、“懐かしさ”と“現役”が入り混じった稀有なコンテンツということができる。

セルフパロディに徹底的にこだわった「超人図鑑」

 同図鑑を編纂した学研の図鑑・辞典編集室室長の芳賀靖彦氏も実はキン肉マンの大ファン。「25年前に学研に入社したのですが、当時から学研の図鑑シリーズの『動物』『植物』などの並びの中で『超人』というのがあったら受けるんじゃないかと思っていたのです」(芳賀氏)

 そんなある日、芳賀氏にチャンスが訪れる。数年前、芳賀氏はすべての用例を映画『スター・ウォーズ』の台詞から引用した『スター・ウォーズ英和辞典』を手がけていたが、それをゆでたまごの嶋田氏にプレゼントしたところ嶋田氏から、「こういうもので『キン肉マン』も作って欲しいな」との言葉が。「『図鑑だったらどうですか』とお話をし、企画書をお送りしたところ『やりましょうよ』との快諾を頂けたのです」(芳賀氏)

 芳賀氏は図鑑チームの杉田祐樹氏に声を掛け、学研の図鑑シリーズのノウハウを活かして制作。「図鑑の役割は、基本的には対象を分類していくことにあります。キャラクターブックにはしたくありませんでしたので、『正義超人』『悪魔超人』という属性ではなく、“もし『超人』という生き物がリアルにこの世界に存在したら”という仮定のもと、分析・分類していきました」(杉田氏)

 まずは超人を大きく「有機物」と「無機物」に分類。「有機物」はまず植物(「ザ・ダンシャク」など)と動物に別れて、動物の1例では魚類(「アトランティス」など)、両生類(「キン親子」など)、爬虫類(「スニゲーター」など)、哺乳類(「バッファローマンなど)、そしてヒト型(「テリーマン」など)へと進化。無機物では岩石・鉱物(「サンシャイン」など)から加工物を経て、その最終形であるロボット(「ウォーズマン」など)へ進化したとチャート化。これらは図鑑製作時の進化系統樹も一部参考にしており、いわば徹底的なセルフパロディ。イラストも中井氏のタッチを元に、通常の図鑑のようにリアルな色塗りが行われている。

「キン肉マン」世代が新たなコンテンツを提示、若い世代へと継承

 この図鑑作りを通して芳賀氏は「『キン肉マン』連載当時、少年だったファンたちが40代・50代になり責任ある立場になった。実際、私がそうですし、イラストレーター、デザイナー、写真加工会社、フィギュアをお貸しいただいた会社、それぞれに『キン肉マン』好きがおり、この図鑑もその人たちが一肌脱いでくれたから実現したものなのです」と話す。

 同図鑑のAmazon売れ筋ランキング「本」総合1位を10日連続という大反響については、「やはり『キン肉マン』という作品の人気が大きい」と芳賀氏。

 「普遍的な“友情パワー”という設定がいつの時代にも受けるのではないでしょうか。汗をかいて、歯を食いしばって友のために頑張るという感覚が“下火”の時代ですが、キン肉マン世代はそれで育ってきましたし、厳しい現実で生きる中、ピュアだった当時の気持ちを取り戻して楽しめているのかもしれません」(芳賀氏)

 また『キン肉マンII世』世代の杉田氏は、「僕ら世代はどこかシニカルな方向へ行きがちですが、本当は“友情”という普遍的なものをどこかで求めているのではないか。そしてそれは世代ではないもっと若い世代にもいえるのではないか」と分析する。さらには「実際に、子どもが同図鑑を食い入るように見ていたという話も聞いており、『キン肉マン』人気を継承する役割にもなっているかもしれない」(芳賀氏)との見方も示してくれた。

 ちなみに『キン肉マン』には、「空を飛べるはずの超人が、柱の上へ行くためにわざわざよじ登る」「100万パワー×両腕×2倍の高さのジャンプ×3倍の回転で1200万パワーになる」といった、“矛盾”とも“トンデモ”ともいえる通称「ゆで理論」が多々、作中に登場する。

 これについて杉田氏は、「その『なんでも許される世界観』が魅力なのではないでしょうか。超人の形にしても動物、道具、玩具など、様々な形のものがリングで戦っていても違和感がなく、かつ根底にある軸がブレない。その“なんでもあり”の世界観が読者にも自然と受け入れられてしまっているのが『キン肉マン』の面白いところでもあると思います」と解説。芳賀氏は、「登場する超人たちは、人間同士の差異どころではない、それぞれがまったく違う姿をしている。そんな『まったく違う』彼らが、お互いを分かり合うために戦うという姿は現在のダイバーシティにもつながる」と分析する。

 本屋ではおそらくコミック部門に置かれることになるだろう同図鑑だが、「可能であれば児童書のコーナーに、ほかの図鑑と同様に並べてほしい」と芳賀氏。この図鑑のヒットを皮切りに、『キン肉マン』人気が、どの様な形で次代に継承されていくか楽しみだ。

(取材・文/衣輪晋一)

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