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デジタル巫女で“死をデザイン” 人型ロボットに故人を宿す新たな“弔い”の形

 もし大切な人が亡くなった際、その人と、仏教でいうところの“49日”の間だけ一緒にいられるとしたら──? そんな“妄想”を叶えてくれるコンセプチャル・アートが『デジタルシャーマン・プロジェクト』だ。媒体=巫女(イタコ)として使用されるのはソフトバンクのロボット・Pepperなどの人型ロボット。3Dプリントで創られた顔を被せ、アプリケーションで故人の声、仕草、癖を再現しようとするプロジェクトで、『第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門』の優秀賞を受賞。同プロジェクトを主催する市原えつこ氏に、同プロジェクトが誕生した経緯や想いについて伺ってみた。

きっかけは“祖母の死” 身近な人を亡くした際のPTSDへの対処など、医療分野での応用も

 「『デジタルシャーマン・プロジェクト』は、誰かが亡くなる前にその人の体のデータ、顔や口癖や体の癖などのデータを取れる範囲で収集し、Pepperなどを憑依型ロボットとして疑似会話ができるようにするプロジェクト。ただ永遠に話し続けられるのではなく、その期間は仏教でいう49日だけ。49日が通過したらその人の魂=プログラミングされた“ゴースト”はロボットから離れていき、最終的にアプリケーションが終了してロボットに戻っていくという作品です」(市原えつこ氏/以下同)

 声や仕草もその人のものなので、Pepper感もそれほどない。このプロジェクトを思いついたきっかけは“祖母の死”だと市原氏。「それまでは“触るとあえぎ声を出す大根”=『セクハラ・インターフェース』など、どちらかと言えば日本の性文化をテーマに笑える作品を作っていたのですが、仏教葬儀を体験してそのプロセスに興味を抱きました。あれは、誰かが死んでしまったことを“認知させる”“腑に落とさせる”儀式なんだな」。文化庁のメディア芸術クリエイター育成支援事業や総務省の「独創的な人向け特別枠」異能vationプログラムにも選ばれた本プロジェクトは、身近な人を亡くした際の精神的な助力、PTSDへの対処など、医療分野での応用も期待されている。

 こだわりの一つは“今ある技術で行うこと”。「いかにローテクでその人の気配を再現できるか。“今あるもの”で“すぐにできる”最大のものを狙っています」

 例えば一般的なアンドロイドのように一から作成すると少なくともウン千万円が必要。だが、このプロジェクトではミニマムなものであれば30万円以下で実現可能だ。さらに言えば、量産して拡散・頒布もできる。AIなどの発展に伴い、いかにこのシステムが汎用化されるか、どう商業的に転嫁されていくのか、楽しみにしていると言う。

行き過ぎたコンプライアンスで表現が萎縮 倫理的にギリギリの問題提起は海外で

 「死をデザインする」――そんな市原氏は早稲田大学文化構想学部出身。ここで彼女の核となる部分が成形される。「授業でテクノロジーがどのように人間を変えていくか議論するのが楽しかった。そこで出てきた問題意識が今も核になっています」

 劇作家・宮沢章夫氏の授業では様々な都市空間へフィールドワークに出た。市原氏は歌舞伎町を担当。当時の都知事・石原慎太郎が歌舞伎町の浄化政策を行っていた頃で、街からホームレスを排除したり、歌舞伎町を清潔な街にしようとしたりしている最中だった。

 「人間は当たり前に様々な汚い感情や欲望も持っている生き物なのに、社会の中から排除してクリーンで安全なユートピアにしようとしていた。酒鬼薔薇聖斗事件がクリーンで穏やかなニュータウンで起きたことも象徴的ですが、人間の“汚い部分”を神経質に排除しようとすると、鬱屈したものが膨れ上がってさらなる惨劇が起きる印象があったのです。“死”は恐ろしく感じられ、目を背けがちですが、逆に『デジタルシャーマン・プロジェクト』のように“死”を意識させることで、例えば“死”から逆算して自身が何をするべきか考えるきっかけにもなるはずです」

 これは、昨今の日本の行き過ぎた自粛ブームやコンプライアンス、さらに、アーティストの表現にしても、極度のクリーン化に向かっているように感じられる。

 「最近の炎上は、#MeToo運動のようにこれまで黙殺されてきた社会の膿を出すような良いものもありますが、炎上やバッシングを恐れてクリエーターの表現が萎縮していく感覚もあります。今は倫理的にギリギリの問題提起は海外の方がやりやすく、私自身もアーティストとしての純粋な作品発表は主に海外で行っていこうと思っている。日本ではエンタメに特化して安心して誰もが体験できる楽しいものを、と活動を国内外で分けようとしています」

 ただし、この状況を決して悲観的にだけ見ているわけではない。「際どいテーマやセンシティブな素材をいかにポップにコーティングするか。そのやり方は日本的であり、ローカルな特産品になるような気がします」

秋元康、『シン・ゴジラ』、『PokemonGO』に嫉妬 「メディア・アーティストとしてひと噛みしたい」

 同プロジェクトはメディア・アートにも分類することができ、メディア・アートとエンターテインメントは相性が良いとされている。「それもあるのですが私はエンタメへの憧れが強い。だからあまり他アーティストの才能には嫉妬しませんが、秋元康さんとか、映画『シン・ゴジラ』、スマホゲーム『PokemonGO』などに嫉妬していました(笑)」

 「秋元さんは現代の大衆のニーズが分かってそこに刺さるものを絶妙なディレクションで行っている。例えば、欅坂46は無表情なアイドルが“大人たちに支配されるな”などの皮肉な歌詞をポップカルチャーに載せているのがもはや現代アートだと思いますが、ヒットチャートにのり商業的な利益も得ている。『PokemonGO』も社会現象として人々の記憶に結びついた。これはメディア・アートの業界でも話題になっていましたね。これらは捉えようにしてはアートともとれるようなプロジェクトですが、あくまで商業としてやっているのが面白いなと感じます」

 現在の音楽シーンについても聞いてみた。

 「非常に面白い。私も大好きなのですが、あいみょんや米津玄師、星野源は20年前ならチャートに上がらなかったタイプのミュージシャンだと思います。これまでの王道のザ・メジャーアーティストではなくマイノリティ感、サブカルチャー感が強い。ドラマにしても『逃げるは恥だが役に立つ』など、『東京ラブストーリー』のような王道ラブストーリーではなく、新たな結婚観や社会の変革を象徴する作品が多くなっている。皆、これまでのお仕着せの潮流に辟易しているのでしょうか。“エンターテインメントの変わり目”を感じます」

 メディア界が「籠城の門戸を開き始めていると感じる」とも分析する。「寡占状態から他文化との融合へ。SNSやYouTuberの台頭もそうですが、一部の主要なメディアしか大衆に発信ができないヒエラルキー的状況から誰もが発信できる状態になった今、城壁は曖昧になった。ポップミュージックは今後、他文化と融合して面白くなっていくのではないか。そして私はそこに、メディア・アーティストとしてひと噛みしていきたい」

 現在は仮想通貨で世界中からお賽銭を投じられる「奇祭」を計画中だ。「セクハラインターフェイス=“性”、デジタル・シャーマン=“死”と来て、今は“祝祭奇祭”へとマイブームが移行しました。伝統とは違う、まったくオリジナルな奇祭を東京に根付かせられたら面白いですよね」

(取材・文:衣輪晋一/メディア研究家)
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