即位パレードで話題も絶滅寸前 「サイドカー」の厳しい現実とは?
“サイドカー=滑稽なもの”から一気に高貴なものへ
日本では、日中戦争前後から導入されたが、悪路が多くあまり実用的ではなかったため戦時中はあまり普及せず、むしろ第二次世界大戦後、4輪の普通自動車の生産が規制されたため、比較的ルールがゆるかったサイドカーが庶民の足として活躍した。
70年代以降、『人造人間キカイダー』など特撮ヒーローが乗るバイクに取り付けられ、子どもたちの憧れになったものの、バラエティー番組ではタレントを乗せたサイドカーが途中でバイクと切り離されて、どこへ行くかわからない様子を見て笑うなど、「サイドカー」はどこかコミカルで滑稽な存在として認知されるようになっていった。
池田氏うちの会員やお客さんの中にも、『キカイダー』に憧れて、サイドカーのオーナーになったという人はいますよ。小さいころに抱いた憧れをずっと心の中にしまって、大人になってその憧れを叶えたという。でも、バラエティー番組には本当に頭に来るよね。今も問い合わせ来ますよ、『サイドカー貸してください』って。内容聞くと芸人を乗せて、『段ボールの山に突っ込みます』って。頭にくるよね。でもあのパレードで少しはイメージが変わったかなと思います。
天皇皇后両陛下が乗るオープンカーを取り囲むように、皇宮警察の6台のサイドカー付きのバイクが護衛にあたる様子はまさに壮観。バラエティー番組で段ボールの山に突っ込ませようとしていたものと同じなんて誰も思わないだろう。
池田氏実際に見たわけじゃないから推測だけど、(パレードで)サイドカーを使用した理由の一つは機動性。もう1つは、パッセンジャー(サイドカー側に乗る人)がすぐに飛び出せるから。車だとドア開けたり、すぐにパッと飛び出せないからね。サイドカーが注目を集めたことはすごくうれしかったんだけど…。
問い合わせはわずか1件…風前の灯 バイク人口減&価格帯もネックに
池田氏見て興味を持つことと、乗ることはやっぱり別なんですよ。認識はするけど、乗れるかというとそれは別。そもそも、バイク自体が今、注目されていませんから。
池田氏そもそも、サイドカーをバイクに取り付けるハードルがなかなか高い。持ってきたバイクに取り付けてほしいということが多いのですが、(バイク代なしで)サイドカーと取り付け費用、塗装費用など全部入れると250ccで80〜90万円が一番最低ライン。大型だと170万〜180万円。高いのだと300万以上で、税金入れて700万円なんていうものも。高級車が余裕で買えますよね。さらに、今は規制も厳しくなってきて、特に2011年ころからの生産車は、公式の制動能力テストを受けないといけなかったり。そうするとその費用や時間もかさむ。乗るには厳しい現状なんです。
池田氏昔は10メーカーくらい出していたんですけど、今はホントに片手で数えられるくらい。需要がないし、供給元にも力がないから開発できていないし、輸入元も数が少ないと輸送費が高くなるのでなかなか輸入できない。そんな状況だから、取り付けの技術を持っている人も高齢化が進んで、新しい人がなかなか入ってこない。販売店もこれだけじゃ勝負できないから大変です。うちも販売は年に2〜3台。あとは中古車の転売だけど、ほとんどこの文化をつなぐためにやっているようなもの。まさに氷河期ですよ。
「バイクとは別の乗り物。これほど操作性が面白い乗り物はない」
と、半ばあきらめモードの池田氏だが、サイドカーの魅力について聞くと目を輝かせる。
池田氏私の場合は、地上を走る乗り物の中でこれほど面白いものはないと思います。みなさん、バイクの横にちょこっとついてるだけだと思っている方が多いと思いますけど、動力源がバイクなだけで、まったく違う乗り物になります。サイドカーにはエンジンが付いていないので、惰性という力が働く。そうするとハンドル切らずにアクセルの強弱だけでカーブを曲がり切ることもできる。それくらい操作性の楽しい乗り物になるんです。私なんて、一番最初にサイドカーに乗った日、誰も操作なんて教えてくれないから、バイクと同じ感覚で運転して、橋の欄干に激突しました(笑)。でも慣れるとほんとに楽しいんですよ。
池田氏今乗っている方は、熱がある人が多いですね。クラブ員で70〜80人くらい。年齢は徐々に上がっているけど、人数はここ数年あまり変わっていないです。2か月に1回ぐらいツーリングやっています。11月末にも下田に行ってきました。45人くらい参加して25台くらいサイドカーが集まります。皇宮警察より多いですよ(笑)。