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「マーガリン=体に悪い」はもう古い? 大手メーカーが明かす令和マーガリンの現在地

 「マーガリンは体に悪い」。そんなイメージを持つ人は今も少なくない。その背景にあるのが、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸だ。摂りすぎると心臓病などのリスクを高めるとされ、かつては健康への影響が懸念されてきた。以前のマーガリンは、原料として使う油脂の影響でトランス脂肪酸を多く含んでいたが、現在は大幅な低減が進んでいる。「体に悪い」とされたマーガリンは、どう変わったのか。業界大手の雪印メグミルクへの取材を通じて、令和のマーガリンの現在地と、逆風を乗り越えてきた食品の進化、消費者ニーズの変化を追った。

報道をきっかけに広がった「体に悪い」イメージ

 マーガリンに「体に悪い」というイメージが広がった背景には、トランス脂肪酸をめぐる報道がある。きっかけの一つは1990年、トランス脂肪酸が血中のLDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らすとしたオランダの研究者の論文が報じられたことだ。92年には米紙ニューヨーク・タイムズなどが心臓病との関係を報じ、国際的な関心が高まった。日本でも報道が増え、植物油やマーガリンの安全性を疑問視する内容も見られるようになった。

 その後、欧米では規制が進んだ。WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)は摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告し、米国では2006年から含有量の表示が義務化された。日本の食品安全委員会は2012年3月の評価書で、日本人の大多数は摂取量がWHOの目標を下回っており、通常の食生活での健康への影響は小さいとした。
 転機は2015年。米FDA(食品医薬品局)が、トランス脂肪酸を多く含むことで知られている部分水素添加油脂を「一般に安全と認められる物質」ではないと最終決定を公表した。これにより、食品に使うにはFDAの承認が必要となり、3年の猶予期間を経て2018年6月に規制が始まった。ただ、対象はあくまで部分水素添加油脂であり、乳製品や肉に含まれる天然のものも含め、トランス脂肪酸そのものを禁止したわけではない。それでも日本では「禁止された」と誤解を招く報道がみられ、安全性への疑問が再燃したという。

 雪印メグミルクの担当者は、当時をこう振り返る。 

「当時のマーガリンには部分水素添加油脂を使った商品があり、100gあたりでみるとトランス脂肪酸を比較的多く含む食品の一つでした。そのため代表的な食品として取り上げられ、『マーガリン=体に悪い』というイメージが広がったととらえています」

市場は3年で約3割縮小、健康・安全性に関する問い合わせも増加

 イメージの広がりは、市場にも影を落とした。2014年度以降縮小が続き、2013年度から16年度の3年間で市場全体が容量ベースで約3割減った。雪印メグミルクにも、2016年にはトランス脂肪酸に関する問い合わせが年間約600件寄せられ、「マーガリンは体に悪いと聞いたが本当か」「海外では規制されていると聞いたが、日本の商品は大丈夫なのか」といった声のほか、「バターに替えた方がよいのか」などの相談もあったという。

「市場縮小にはさまざまな要因があり、すべてをトランス脂肪酸への懸念によるものと切り分けることはできません。ただ、当時お客様の関心が高まっていたことは、お問い合わせからもうかがえます」

なぜマーガリンにトランス脂肪酸が含まれたのか

 そもそもトランス脂肪酸とは何か。担当者によると、トランス型二重結合という特有の構造を持つ不飽和脂肪酸の総称だ。生成の過程は、油脂への部分水素添加、油脂の脱臭工程、そして牛など反すう動物の胃内でバクテリアの働きによって生まれる天然のものの三つがある。天然のものは冠動脈性疾患などのリスクにはならないことが多くの研究で示され、脱臭工程での生成もごく微量だ。

「健康リスクがあるとされる工業的トランス脂肪酸は、大部分が部分水素添加工程によって生成される、と考えていただいて問題ありません」

 マーガリンに部分水素添加油脂が使われてきたのは、その性質ゆえだ。固体状でありながらナイフですくいやすく、温かいパンに塗ると溶ける。大豆油などの液状の油やヤシ油などの固体状の油脂だけでは再現が難しく、加工で硬さを調整した油脂を組み合わせてきた。
「部分水素添加油脂は硬さの調整が最も容易で、マーガリン独特の性質をつくるうえで貢献してきた歴史があります。ただ、トランス脂肪酸が多く含まれるため、結果としてマーガリンはトランス脂肪酸を多く含む食品になっていました」

「ネオソフト」は約16分の1に、課題は「おいしさ」の維持

 同社では、1990年からファットスプレッドの『ネオソフト』を中心に部分水素添加油脂の使用量を減らしてきた。2010年9月には『ネオソフト』で部分水素添加油脂を使用しない配合を実現し、他のマーガリン類にも広げて、2018年にはすべての家庭用マーガリン類で使用を終了した。『ネオソフト』のトランス脂肪酸量は、2004年時点の10gあたり0.8gから、現在は0.05gへと約16分の1まで減っている。

 ただ、減らせばよいという話ではなかった。部分水素添加油脂には、冷蔵庫から出してすぐでも塗りやすい柔らかさや、口に入れるとすっと溶けて風味を感じやすいという特性があったからだ。
  • 雪印メグミルク公式ホームページより

    雪印メグミルク公式ホームページより

「単にトランス脂肪酸を減らすだけでなく、『口どけ』『風味』『塗りやすさ』といったおいしさや使いやすさを維持することを重視してきました。使わずに実現するのは大きな技術課題でした」

 現在はエステル交換油脂などを中心に使うが、部分水素添加油脂に比べて硬さを調整できる幅が狭く、開発の難易度は高い。同社はトランス脂肪酸含有量の少ないさまざまな油脂を組み合わせ、独自の乳化技術、油脂加工技術、結晶化制御技術などで品質を両立させた。

マーガリンとバター、何が違う?

 では、バターとの違いは何か。バターは牛乳から分離した乳脂肪分を練り上げたもので、乳脂肪を80%以上含み、豊かな風味が特徴だ。一方、冷やすと硬くなりやすい。マーガリン類は主に植物由来の油脂と水などを乳化させ、冷やし固めてつくる。油脂含有率80%以上が「マーガリン」、80%未満は「ファットスプレッド」と呼ばれる。

「マーガリンは使う油脂や原材料の組み合わせで、冷蔵庫から出した直後でも塗りやすいといった使いやすさを実現できます。バター風味や甘味系など味わいの設計も幅広く、脂肪分やコレステロールに配慮した商品もつくれます。バターに比べて日常的に買い求めやすいのも魅力です」

令和のマーガリンに求められる価値

雪印メグミルク公式HPより

雪印メグミルク公式HPより

「マーガリン=体に悪い」というイメージは今も残るが、同社の消費者調査では、年々強まっている状況ではない。ホームページで低減の取り組みを知り、理解したうえで購入したという声も届く。

 販売面では、市場は長期的に縮小傾向にあるものの、2025年は家計調査で購入数量・支出金額ともに前年を上回った。物価高による節約志向に加え、バター価格の上昇でマーガリンの値頃感が高まったことなどが背景とみられる。

 求められる価値も、健康面だけではなくなった。直近の調査では「価格が安い」に加え、「バターの風味が強い」「コクがある」といった味わいへのニーズが前回から増えている。開発ではトランス脂肪酸の低減に加え、塗りやすい配合や開けやすい容器、コレステロール値の記載、原材料を確認しやすい裏面表示など、使いやすさと分かりやすさを重視する。今後は少人数世帯の増加を見据え、使い切りやすい容量も検討していく。

 最後に、今も「現在のマーガリンについて知ってほしいこと」について雪印メグミルクの担当者はこう呼びかける。

「現在のマーガリンは、トランス脂肪酸が大きく話題になった当時から大きく変わっています。こうした取り組みは業界全体でも進み、国内で流通するマーガリン類のトランス脂肪酸含有量も以前より低下しています。過去のイメージが残っていることは、メーカーとして向き合うべき課題です。私たちとしては、これまで進めてきた取り組みを分かりやすくお伝えするとともに、現在のマーガリンのおいしさや使いやすさについても知っていただきたいと考えています。そのうえで、それぞれの食生活に合った選択肢の一つとして、マーガリンを選んでいただければと思います。そのうえで、それぞれの食生活に合った選択肢の一つとして、マーガリンを選んでいただければと思います」

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