ORICON NEWS
【BLUE FRONT SHIBAURA】芝浦の再開発、目指すは「サウナと水風呂」? 人間が「疎外」されない街づくりとは
デベロッパーが作ったものを「はい、どうぞ」と渡されるのではなく…
「通常、プライベートの対義語はパブリックですが、今後はコモンズ、つまりみんなが使っていい“共有地”と捉えるような認識の仕方もあり得ると思います。デベロッパーが作ったものを『はい、どうぞ』と渡されて、ある意味、受動的に体験するのでなく、コモンズとして自分たちが主体的に関わっていく。これは広島県庁の方から聞いた話ですが、広島市は川辺の活用がとても上手。市民は川を自分たちの庭としてルールメイクをし、きちんと使っている。これは街づくりの有り様としてはとても重要だと考えます」
そんなふうに地元と連携していく際には、密なコミュニケーションも不可欠となる。そこで本プロジェクトの企画課長・内田賢吾さんは、プロジェクトに参加してからの苦労とやりがいを明かしてくれた。
「漁業組合、行政、コンサルティング、アート、デジタル、エネルギーなど、さまざまな分野の皆さまとコミュニケーションを取りました。同じ日本語であっても専門性や価値観が異なればコミュニケーションの取り方が違いますが、それらを全部理解した上で開発を進めないといけません。とはいえ、『今こうなっている』ということに縛られすぎても新しいことができなくなる。『自分たちはこういう街を目指したい』という考えを述べ、それを共有して一緒に作ることが大切だと心がけています」(内田さん)
「BLUE FRONT SHIBAURA」完成予想図
過密化する東京に水上交通が与える影響は? 提供するのは施設ではなく“選択肢”
「現在、日の出―晴海をつなぐ水上ルートも通じていますが、定量の観点だけで見ると、満員電車はそれほど緩和できないと思います。ですが、乗った人のストレスは大きく変わります。電車の代わりに船を選択したり、ダブルデッカーの上が空いたバスに乗ったり、あるいは自転車に乗ったり…そうやって通勤手段を選択するきっかけになる効果はあるのかなと。あえて一駅前で降りて『歩いて会社に行くと気持ちいいよね』とか、多くの人々がいろいろな想像力を健全に持つことができればより良いのかなと思います」(四居さん/以下同)
こうした“選択”もまた本プロジェクトにとっては大きな意味を持つ。以前、プロジェクトに対するメディアセミナーが行われた際、ある記者から「芝浦地区に来ると何が楽しいと思えるのか? 表参道ヒルズ、六本木ヒルズなどは目的がわかりやすいが、この芝浦地区の魅力が曖昧に感じる」「テーマはなにか?」というストレートな意見も飛んだ。それに対し、四居さんは、サウナ後の水風呂のようにクールダウンできる場所こそが一番の価値であり、昨今「チルアウト」を重視する若者世代にも合致するという。
「コロナ禍の時、外出するのが怖くても、多くの人々が日の出桟橋の『Hi-NODE』の芝生の広場にいたのを見ました。そんな感覚で、普段丸の内に勤めている人が在宅勤務の際に『BLUE FRONT SHIBAURA』の緑道で過ごしてもいいし、運河沿いをそぞろ歩きしてもいい。そういう選択肢を東京の人々に与えたいんです。結局、再開発で人々に提供できるものって、新しい建物や施設ではなく“選択肢”だと思います」