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“萌え研究”続けるプロ漫画家語る「二次元ヒロイン像の変遷」 昭和・平成・令和で異なる“理想の女性像”が浮き彫りに

  • 渡辺潤(@Junwatanabe1968)の「#オッさん漫画家の萌え探索」より

    渡辺潤(@Junwatanabe1968)の「#オッさん漫画家の萌え探索」より

 これまで漫画やアニメ作品から多くの人気ヒロインが誕生してきた。「たっちゃん、南を甲子園に連れてって」と主人公の原動力となる浅倉南、「裏切りは女のアクセサリーよ」と男を惑わす峰不二子、「あなたは死なないわ…。私が守るもの」とヒーローのピンチを救う綾波レイなど、その個性は様々だが、漫画ヒロインが初恋、理想のタイプがアニメヒロイン…なんていう人も少なくないだろう。その時代時代で支持されるキャラクターは世相を反映するが、二次元ヒロインは、昭和、平成、令和と、どのように変化を辿ってきたのだろうか。

圧倒的美貌→同性の共感も呼ぶ等身大スタイルに 平成期に求められたのは「親近感」

  • 渡辺潤『ゴールデン・ガイ』(日本文芸社)

    渡辺潤『ゴールデン・ガイ』(日本文芸社)

 代表作『代紋TAKE2』をはじめ、極道や反社な物語を硬派に描くベテラン漫画家・渡辺潤氏は、あらゆるジャンルの作品に登場する美少女キャラの「萌え」研究をしており、X上で自身の考察や模写を公開している。これまで数多くの漫画・アニメヒロインも独自で分析してきた渡辺氏に、プロ視点から見た外見的・内面的変遷を聞いた。
「ヒロイン像は当然、時代の反映されたキャラが多いですよね。外見で言うと、70年代は外ハネや姫カットな髪型。カチューシャやスカーフなどのアイテム。例を挙げると、『サイボーグ009』のフランソワーズ・アルヌール、『宇宙戦艦ヤマト』の森雪、『キューティーハニー』の如月ハニー、『ルパン三世』の峰不二子などでしょうか。
 80年代はアイドル全盛期ですよね。『魔法の天使クリィミーマミ』のマミ、『きまぐれオレンジ☆ロード』の鮎川まどかなど、聖子ちゃんカットや明菜ちゃんカットのキャラが多く生まれました。90年代になると、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイやアスカ、『美少女戦士セーラームーン』のちびうさなど、外見は青や赤、ピンクなどのカラフルなアニメ特有の髪色が増えたように感じます」
 そもそも、漫画やアニメはハイ・ファンタジーな世界観が多いこともあり、外見で現実とリンクしないものも多いものの、渡辺氏は「以前は欧米人のような並外れたスタイルが良いキャラが目立ってた気がしますが、00年代以降、キャラのスタイルがリアルになってきてるように思います」との持論を述べた。
 『氷菓』の千反田える、『謎の彼女X』卜部美琴、『BLOOD+』音無小夜、『君に届け』黒沼爽子、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』黒木智子など、一見地味で、影を感じるようなキャラクターがヒロインの作品も多数登場した。三次元のアイドル界でも、AKB48が台頭し、一世を風靡した。平成期はより“親近感”が求められた時代だったのかもしれない。
「『けいおん!』の各メンバー、『とある魔術の禁書目録』の御坂美琴、『SSSS.GRIDMAN』の宝多六花などは、手足がさほど長いわけでもなく、自身の体型を気にしてたりします。同性からは共感を受け、異性から見ると、二次元でありながらリアルさを感じるのかもしれません」

 プロから見たタッチの特徴も、時代によって変化は感じるのだろうか。

「作画やキャラデザに関しては、皆がお気づきのように目が明らかに大きくなり、鼻は点のように小さくなりました。多数の人が愛しやすく、好き嫌いの分かれる特徴を消していくと必然的にこうなるんじゃないでしょうか。

 でも、『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイなどは目が特別に大きいわけではなくて、模写してびっくりしました。あと、ジブリキャラは、幼さを残すためか、ちょっとデコっぱちで鼻の下が長いのが特徴的なのですが、綾波レイは逆に鼻から口が近いんですよね」
「興味のない人からは『萌え絵はどれもこれも同じよう』と揶揄される事もありますが…しかし、違うんです!目だけ取っても、輪郭・まつ毛・虹彩・光などなど、全く違うので、研究していて面白いなと感じるところです」

ヒロイン像の転換点は“ラムちゃん”? 主人公との関係性変化「視聴者のナビゲーターに」

 性格面で言えば、昭和時代は『巨人の星』の星明子、『タッチ』の浅倉南、『あしたのジョー』の林紀子など、“一歩引いて主人公を支える”的なヒロインが目立っていたが、80年代以降は作品の世界観が多様化するとともに、ヒロイン像も個性合戦が激化していったと渡辺氏は分析する。

「昭和におけるヒロインには、当時の女性に対する理想像は確かにあったように思います。ですが、女子向け作品だと、『はいからさんが通る』の花村紅緒、『キャンディ■キャンディ(■=ハート)』のキャンディス・ホワイトなど、快活で男勝り。食欲旺盛で自分の意思をはっきり持っているような力強いヒロインも当時から多かったですね。
 そして80年代あたりからは、「男子向け・女子向け」と言う垣根が無くなったように思います。どちらかと言えば、『風の谷のナウシカ』『Dr.スランプ』『マクロス』など、ジャンルや世界観が選ぶ基準になったのかと思います」

 平成期に支持されたヒロインの一人に、『ちはやふる』の綾瀬千早が挙げられる。同作は2009年に『マンガ大賞』を受賞し、22年まで『BE・LOVE』で連載され、アニメ・映画化もされた同作のキャラクターは、男女ともに広く支持された。

「僕もスポ根ものの ザ・主人公!って感じが好きです。彼女のはつらつさ、そして努力・才能。気持ち良く応援できるって強いですよね。少女漫画に距離がある男性でも素直に楽しめるのは、千早のキャラあってのものじゃないでしょうか」
 令和の代表的なキャラクターと言えば、『鬼滅の刃』の竈門禰豆子、『SPY×FAMILY』のアーニャだろうか。

「『SPY×FAMILY』のアーニャは、本当にかわいい。嫌いな人なんています?(笑)。一歩間違えれば“狙いすぎ”になる可能性もあるのに、コメディということもあり、決して嫌味なく受け取れる。多彩な表情に口調など、理由はいくらでもありますが…なんなんでしょうね?やはり仔犬や仔猫的な可愛さでしょうか!?最強です!」

 ともに可愛らしく、主人公に“守られる”シーンも多々あるが、自身も高い戦闘能力や特殊能力を持ち、自ら物語を大きく突き動かしていく。決して、“主人公を支える”だけの存在ではない。どこかで“ヒロイン像”を大きく変えるような転換点はあったのだろうか。
「あくまでも個人的見解ですが、『うる星やつら』のラムちゃんではないでしょうか。同作以降、女性キャラの“イキイキ度”が確実に上がりました。なんなら、物語における重要度は男主人公に勝っちゃう。そして男主人公は視聴者のナビゲーターに。男子視聴者からすれば、“普通”の男主人公にライドしやすいですからね。『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒとキョンの関係性はまさにそれじゃないかな」
 「萌え」が死語になりつつあるが、禰豆子やアーニャには、「萌え」要素があるように感じる。やはり、昨今のヒロインにも変わらず「萌え」は求められているのだろうか。

「“萌え”は普遍的な感情で、『推し』などと言い方は変わっても、無くなりはしないと思います。とにかく、時代時代で愛され、求められるのは“共感性”だと思います。日本の漫画やアニメは、自由でボーダーレス。現代的な“多様性”をとっくの昔から持っていたのです。本当に素晴らしいですよね。ただ、これだけ語っておきながら、僕はいまだに女性キャラを描くのが苦手です(笑)」
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