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なぜ『アルジャーノンに花束を』は日本でヒット繰り返す? “日本語の特異性”が世界観の解釈に寄与

ひらがな、カタカナ、漢字…日本語の持つ特異性が物語の理解に大きく貢献

 また、文章表現において、日本語という言語が同作の世界観にマッチしていることも挙げられる。同作は幼児なみの知能を持つチャーリイの報告書といった構成から物語が進んでいくため、冒頭は非常に言葉がたどたどしい。原文でも「write」が「rit」と表記されているなど、あえてスペルミスすることで稚拙なチャーリイのキャラクターが表現されている。

「日本語というのはひらがな、カタカナ、漢字からなる特異な言語。小尾芙佐さんの名訳で、知的障害を持ったチャーリイのたどたどしさを、ひらがなだけで表現しています。そこから、複雑な言語を用いた表現や、カタカナ、漢字など織り交ぜることで、天才に変化していく様子を文章のビジュアルだけで垣間見せていくことができる。そういう意味では、物語と日本語の相性の良さも広く読まれた一つかもしれません」

 同時に“文章”という枷から外れることも許される作品なのもこれだけ繰り返しブームが起こる要因かもしれない。

「同作が発表された当時、影響を受けたかつての読者がクリエイターとなり、氷室京介さんやヨルシカのように作品にインスパイアされた楽曲を発表するような流れがあるのも『アルジャーノン〜』ならではないかと考えます」

 かつて本は、“かっこつけるために読む”本という側面もあった。しかし、SNSが普及し、サブスク動画や電子書籍など、エンタメコンテンツが多様化する現代では、より“わかりやすさを楽しむ”傾向は高まってきているという。

「現代はエンタメコンテンツの選択肢が増えた分、すべてが横並びになっている印象があります。面白そうであれば、どのメディアであるかということ関係なく、手に取るという選び方をされている印象を受けます。ゆえに、『アルジャーノン〜』のような、ジャンルを超えて読み継がれる作品は強いのかもしれません」
(取材・文/衣輪晋一)

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