• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
  • ホーム
  • ライフ
  • 発売わずか2週間で「10万円」の中古本出品も…NFT電子書籍は「第三の出版物」となるか?
ORICON NEWS

発売わずか2週間で「10万円」の中古本出品も…NFT電子書籍は「第三の出版物」となるか?

 先月20日に「NFT化された電子書籍」を紙書籍とセットで発売し話題となったハヤカワ新書。今回の取り組みに、SNSでは「電子書籍の本でも古本屋ができる可能性が出てきて楽しみ」「所有できる電子書籍は初めて見たかも」「NFTの使い方としても素晴らしいと思う」など、好意的な反響が見られた。このNFT電子書籍は、すでに市場に動きがあり、刊行から約2週間で定価以上の本の売買が成立しているケースもみられるという。幸先のいいスタートを切った印象を受けるが、当事者としてこの状況をどのように見つめているのか。早川書房と同サービスを提供する株式会社メディアドゥ両社に話を聞いた。

他社の出版社や編集者からはポジティブな反応 作家の9割以上が「やってみたい」

 今回、早川書房の新レーベル「ハヤカワ新書」にてリリースしたNFT電子書籍付き新書は、新書の本編と同じ内容が収録された「NFT電子書籍」のほかに、書籍によっては「特典」がついているのが特徴だ。価格は特典のない新書より400円ほど高いが、紙書籍と同時に同じ内容の電子書籍がついてくるのでお得であることは間違いない。この電子書籍は、メディアドゥによるNFTサービス「FanTop」で利用することができ、スマートフォンのビューアで読めるのに加え、ブロックチェーンによってどのユーザーが入手したかをNFTとして証明・追跡することができる。また、ユーザー間の二次流通(売買)や譲渡が可能で、ユーザー間での売買が行われるたび権利者へ収益を分配し続けられる。

 とはいえ、「何がいいのか理解に苦しむ」方も多いだろう。

「実際、『ニュースを見たがどういうことなのか説明して欲しい』という意見を他社の出版社、編集者からいただきました。まだ皆さん、これが何なのか理解するところまで至っていなくて、『こんなことが出来るんだよ』と話すと『面白そうだね』とポジティブな反応でした。現在、社内でもいろいろとレクチャーをし、新書を超えて別の形態の書籍についてもNFT付きの企画が出てきたりしています」(早川書房事業本部本部長執行役員・山口晶氏)

「メリットの一つは、本の売買でも印税が発生し、出版業界の活性化につながるということ。かつては古本屋を通して二次流通で売買されても出版社や作家には還元されなかった。だがこのシステムでは誰が何を売ったかを管理できるため、その都度、版元や著者への分配が発生する。書店さんも通常より高い価格の本を販売できる。そうした仕組みで出版界に貢献しようと考えています」(株式会社メディアドゥ取締役副社長COO・新名新氏)

 電子書籍を売ることができるということ自体に驚く声も多かったようだが、肝心の著者の反応はどうだったのか。

「著者さんにとっては古本店や図書館で本を読んでもらうことはもちろんありがたいことでしょうが、NFT版だったらしっかり印税も発生しますし、読者は推しの作家さんを応援することにもつながります。作家さんにお話したところ、実に9割以上が『面白そうだからやってみたい』との回答でした」(山口氏)

刊行から約2週間で二次流通の萌芽…NFT電子書籍を定価の2倍以上で売買されるケースも

 作家たちの「面白そう」にはNFT限定「特典」もある。例えば現行の越前敏弥氏による『名作ミステリで学ぶ英文読解【NFT電子書籍付】』にはNFT版限定で、著者とエラリイ・クイーン研究家の飯城勇三氏の対談がついており、より理解が深められる内容となっている。実はこの書籍の定価は1,496円(税込み)だが、「FanTop」内ではすでに3,480円で売買が成立している。つまり、わずか2週間ほどで“市場”が生まれ始めたのだ。あくまでも可能性だが、初期のものを長く持っているだけでプレミア価値がつくという未来も考えられる。そもそも今回の取り組みの目標の一つが“市場創出”。その萌芽がすでに見えている。

「ほかにも『現実とは? 脳と意識とテクノロジーの未来』が定価の約1.2倍の価格で売買されていたり、『古生物出現!空想トラベルガイド』は10万円以上で出品されていたりと市場の動きが活発です。当初は、穏やかな値段で皆がハッピーになれたらいいかなと思っていましたが、意外とみんな高く売りたいんだなと(笑)。つまり自分の書籍がどれぐらいの市場価値があり、どんな人に読まれているのかが分かる。リアルタイムで可視化できるのは紙の本ではありえない話ですし、読者の傾向などからマーケティングが出来、より効率の良いビジネスができるという側面もあります」(山口氏)

「紙の本と電子書籍を両方購入し、外では電子書籍で、家では紙で使い分ける読者もいる」という両氏。従来は、そうすると2倍お金がかかるが、今回の商品は紙と電子のセットで1.4倍程度だ。さらに紙の本は売った際に買取額が安い場合がある一方で、NFT電子書籍なら、出品価格によっては買い手が付けば多く返ってくる可能性もある。そういった部分はメリットだと考えられるだろう。

 先述の「特典」には、さまざまなコンテンツをつけることができる。例えば美術書の画集についてくるNFTを美術館のチケットとして使えるようにしたり、ミュージシャンやタレント本であればコンサートやライブ、イベントのチケットをつける構想もある。雑誌にNFT特典をつけて、1年分コンプリートするとプレゼントがもらえるなどの可能性も考えられるという。

「書店さんからも『自分の店限定でNFTに特典をつけたい』という声をいただきます。これらが広がれば、書店ごとに特典が違う同タイトルのNFT電子書籍ができ、それをコンプリートする楽しさも提案できるかもしれません」(新名氏)

 新名氏はKADOKAWA在籍時代、ライトノベルとそのコミカライズ、アニメ化されたBlu-rayをセットで商品化する企画をAmazonに提案したことがあったが、当時はシステム上の都合で実現が難しかったという。しかし、NFT特典付き書籍ではそれが一般の街の書店で可能になった。

 さらには著者が、著作を朗読したり、歌を歌ったりするなど動画を特典として付けることも出来るため、“マルチに活躍できる作家”という新たなクリエイターが誕生する可能性や作家の新しい一面を引き出すこともできる。書籍のコンテクストだけでなく、特典でより本の理解を深め、楽しむことができるのがNFT電子書籍の良さでもあるのだ。

世界初の試みであるがゆえの課題「多くの出版社が参入し、市場の拡大していくことが最重要」

 このように可能性は無限大だが、まだまだ発展途上でもある。

「取り組みから2カ月で新レーベル刊行という超速で進行したため、読者に需要と興味、お金を払っていただけるようなNFT版のアイデアをまだ施行できていない。それが今後の課題」(山口氏)

「また、NFT付き書籍がそもそも一体どういうものなのか。世界初の新しい試みであるがゆえに、どういうことが出来るのか理解が進んでいません。また売買するにはウォレットを作成するという少し手間な作業もあります。これも改善し、入手する、読む、売るという一連の流れをより簡単に変えていく必要があります。例えばメルカリさんのように、売買のシステムがパッと想像してもらえるところまで至っていないのが課題」(新名氏)

 将来的には「NFT電子書籍」を使ったファンのコミュニティ化も狙っているという両社。技術はすでにある。これが机上の空論となってしまうのか、それとも新たな出版形態=「第三の出版物」になるのか。

「こうした未来への道を開くためには、まずはNFT電子書籍の数自体をもっと増やす必要があります。やっぱり市場ができてはじめて面白くなっていくし、そこをいかにボリュームアップするかが大切なことなので。それは我々1社ではなかなかできないし、多くの出版社――もしかしたら出版社じゃなくてもいいかもしれないですけど――が参入してくれたほうが、面白いかもしれません。まずはある程度、市場の規模を大きくすることが今回の取り組みで最も重要なことだと考えます」(山口氏)
(取材・文/衣輪晋一)
ハヤカワ新書 https://www.hayakawabooks.com/m/mcd937b3c2824
FanTophttps://fantop.jp/

あなたにおすすめの記事

 を検索