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「彼らが遺した“原爆”の資料に託されたものを感じた」NHKスペシャル取材班が明かすジャーナリストとしての苦悩と矜持

 アメリカの大ヒット映画に端を発する「原爆のエンタメ消費」に批判の声が上がっている。日本人がこれほどまでに憤るのは唯一の被爆国であることはもちろん、原爆の罪深さをたゆまず伝え続けてきたメディアの功績も大きい。戦後78年が経ち、原爆を巡る調査報道はますます困難になっているが、綿密な取材で掘り起こされる事実は今もなおある。2021年8月9日に放送され、多くのメディア賞を受賞したNHKスペシャル『原爆初動調査 隠された真実』が早川書房から「ハヤカワ新書」として8月22日に刊行されるのを機に、取材班に2年にわたる取材を振り返ってもらった。

「70年以上前に国家によって隠蔽された事実を掘り起こすことが、いかに困難であるか」苦闘の日々

 原爆が投下された1945年8月、日本を占領していた連合国軍は、その被害や影響の詳細なデータを収集するため、広島、長崎に調査団を派遣。調査対象地区で「残留放射線」の測定やの被爆者の身体検査などを行った。日本、アメリカ、ロシアで収集した資料は数千点。取材した関係者は100人を超えた。それでも放送では割愛せざるを得ない膨大な資料や証言も残ったという。このたび、書籍化された『原爆初動調査 隠された真実』(ハヤカワ新書)では、放送で提示できなかった資料や証言を含め、取材を通して知りえた事実を大幅に加筆。映像とはまた新たなベクトルで取材班による執念の調査の軌跡が垣間見える。

「Nスペでは例えば1000くらい取材しても伝えられる情報は限られてしまいます。書籍のほうでは、取材過程でわかった驚き、発見を、1つ1つ、素直に丁寧に伝えていくということを、心がけました」
 今回の調査報道では、見つかった報告書に載っている人の名前から、遺族がいるのかどうか、遺族がどれだけその調査を知っているかを1つ1つ、アメリカのほうから検証していったという。途方もない地道な作業の中で見えてきたのは、国家の隠蔽の体質だった。報告書に書かれていた「残留放射線による人体への影響は無視できる程度」は、都合の悪い事実を国家機密として隠蔽された結果によるものだったのだ。

「原爆初動調査には医者や科学者も携わっており、中には残留放射線による人体への影響を指摘した専門家もいたことが取材を通してわかりました」

 被害を受けたと訴える人たちがいる一方で、残留放射線の真実が覆い隠されたきたことで、自分が当事者であると認識することすら奪われた人もいた。

「時間も経っていますしね。『なんで原爆のことを話さなきゃいけないの』とか、『原爆に関係している、被爆者として見られることに抵抗がある』という人もいらっしゃいました。

 放送に至るまでの2年にわたる取材は『70年以上前に国家によって隠蔽された事実を掘り起こすことが、いかに困難であるか』を痛感する日々でもありました」

今なお苦しむ調査対象地区住民からの“重い”一言「私たちの調査報道が地域の分断を助長してしまうのでは」

 原爆初動調査が行われた長崎県長崎市西山地区では、戦後、原因不明の死が相次いでいることもわかった。しかし調査対象となった住民たちには当時はさることながら、現在もなお調査の目的や結果は十分には知らされていない。

「今回、私たちが突き止めたことを告げたところ『聞きたくなかった。だけど事実は教えてくれないと』と厳しく言い放った方も。残留放射線の隠蔽は国家だけでなく当時のメディアも加担していたことであり、ジャーナリストとして重く受け止めなければいけない言葉でした」

 また、島原市では、78年前の残留放射線のデータと血液検査のみだったため、科学者から、これをもって健康被害があったかを結論づけるのは不可能だと判断されてしまう。取材班にとっては、忸怩たる思いが残った。
「島原の取材をする中で、隠蔽の体質をしっかりと、怒りとして伝えながらも、一方で、まだ救われていない“黒い雨”訴訟(広島への原爆投下後、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた住民が「被爆者」認定と被爆者健康手帳の交付を求めた裁判)の真っ只中だったので、そういった方々に何かしらデータを提供できないか、というふうにも考えていました。

 実際に血液検査で異常値を示した方々の、戦後の人生を調べることによって――もちろんこの因果関係は突き詰めることはできませんが――例えばガン、白血病など放射線の影響とみられる病気を発症しているならば、何かしらの可能性ということを伝えられるんじゃないかと、島原の取材を続けました。

 しかし、結果的に、調査がされてなかった場所、調査が継続されなかった場所は、答えが出せなくなってしまった。それこそが罪深いことだ、と思いました」

 たとえば、西山地区では、農業主体であるために、残留放射線について口にしたら生計が閉ざされ、村八分になる恐れから口をつぐんでいった歴史がある。また、政治的事情によって「原爆被爆地域」対象外となってしまった間の瀬地区は、「戦後間もないころの地元自治体の役員たちがもっと陳情していれば…」と地域内で不協和音を生んでいった。初動調査の隠蔽が落とした影は大きい。

「私たちの調査報道が地域の分断を助長してしまうのではないか。調査対象地域の取材はそうした迷いとの戦いでもありました。しかし、怒りを向けるべきは地域の内側ではない。残留放射線の存在が覆い隠され、現代もなお固定化されてしまったことそのものではないか。それが『原爆初動調査 隠された真実』で私たちが伝えたかったことです」

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