ORICON NEWS
「彼らが遺した“原爆”の資料に託されたものを感じた」NHKスペシャル取材班が明かすジャーナリストとしての苦悩と矜持
戦後80年を前に“戦争”を報道し続ける意義
一方で、驚きもあった。
「調査に関わった科学者や医師の多くが核は人類が考えるべき問題だと感じていたためか、生前の研究資料を残すケースが多くみられました。特に驚いたのは、核科学者のレベンソール氏。彼が亡くなった後、遺族が遺品整理をしていたところ、膨大な量の「原爆」に関する資料が出てきたのです。このとき、レベンソール氏が生前どんな仕事をしていたのかを、遺族も初めて知ったそうです。
最初に見つかった資料には、原爆投下直後の調査だけでなく、その後も継続的に、人体への影響や、残留放射線と結び付けながら、長期的に調査をしていることがわかりました。また、これまで行っていた西山地区での取材と結びつく資料もあり、過去の点と今の点が結びついたような気がしてすごく驚きました」
情報が制限されていた厳しい中でも、科学者や医師は資料を残す形で後世に本当の事実を伝えようとしていた。それが垣間見えた時、たとえ制限される環境の中にいたとしても、人として何が伝えられるかを意識しながら行動することの大切さを痛感した。
戦後80年が近くなってもなお、戦争を、原爆を報道し続ける意義。それは国家権力だけでなく、メディアも一般市民も、核のある世界では誰もが共犯者になり得る人類普遍の課題だからだ。
「彼らが資料を遺したことは、何かしら託されてるものがあるんだなという思いにもなりました。今の報道を見ていても――残留放射線に限ったことではありませんが――公式見解として出されているものが、どういった思惑から作られていて、その根拠はどこから出てきてるのか、本当にそこが正しい歴史の中で作られたものなのか。今回の取材を通して、それが隠蔽の中で作られた“事実”になってしまったのなら、問題提起をすべきときもあるんじゃないかと感じました。託されたファクトを自分たちがどう咀嚼をして、検証していくか。自分自身も考えながら、今後もやっていかなきゃいけない、と。
過去の資料を読み込み、いまの現場の声を聞いて、これまでの報道をどう捉えるべきか、取材で感じた苦しさやモヤモヤも含めて、書籍にしました。番組だけでは伝えきれない思いも、書籍で表現することができたと思っています」
(取材・文/児玉澄子)
原爆初動調査 隠された真実 (ハヤカワ新書)
https://amzn.asia/d/18YHsZd