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拡大する無人ジム、女性や高齢者の不安を払拭するDX推進 アプリがパーソナルトレーナーの時代に
AIカメラで死角のない危険感知 有人監視との二軸で“無人”でも安心できる施設設計に
前田壮人さん RIZAPは、トレーナーによるお客さまとのコミュニケーションが基本的な設計になるサービスですので、当時は社内にシステム開発やDXを担う部署はなく、外注する文化の会社でした。しかし、システムが全面的に必要になる無人ジムのchocoZAPを立ち上げるには、自社で内製化しないと実現しない。そこで新しくDX組織を設けるところから始まりました。
――それまでになかった無人ジム運営のためのシステム設計になりました。
前田壮人さん 無人ジムなので、基本的にすべてデジタル化してユーザー情報を取得しないと何も提供できない。ユーザー情報を取得する機器とシステムをどう設計するのか、というところからスタートしました。施設インフラ部分では、QRコードによる入退館管理で誰がいつどこの店舗に入ってどのくらい滞在したかを把握し、AIカメラを1店舗につき10台程度設置することで、死角のない危険感知を実現しています。運営上必要なデータをどう取得するかが、一番重要なところでした。
前田壮人さん AIカメラが常時作動しています。例えば、お客さまが一定の時間動かない状態などを検知してアラートが上がります。AIと有人監視の両面で24時間モニタリングしており、何か問題が起きた時には、運営側から動ける体制を整えています。実際にトレーニング中に倒れた利用者を検知し、監視室から救急を呼んだこともあります。
――更衣室のほか、エステや脱毛などの個室の監視はありません。その対応はどうしているのでしょうか?
前田壮人さん 基本的に個室は予約を取っていただいており、次のお客さまが個室を使用できない状況の時に、お客さまから連絡が入ります。これからは熱感知システムなどによる検知等、お客さまにより安心してご利用いただけるよう、より高度な検知システムの導入も考えております。
1人ひとりにあったアドバイス アプリがパーソナルトレーナーに
前田壮人さん お客さまの多くは無人運営であることの快適さに付加価値を感じていただいているので、不安の声はほぼ聞きません。店舗は人通りの多い視認性の良い場所にあり、外からも中が見えるガラス張りの店舗が多いです。会員比率は女性の方が高いので、安心してご利用いただいています。ちなみに、けんかや痴漢などのトラブルは、これまで起きていません。
――システム設計で重点を置いたのはどういったところですか?
前田壮人さん セキュリティなどのリスク管理はもちろんですが、それ以外では、AIカメラを通じて利用者やマシンの利用状況をデータとして取得し、すべてデータ上で管理しています。それによって店舗ごとのマシンの入れ替えや、個室サービス(エステ、脱毛、ネイル、ホワイトニングなどの美容関連)の組み合わせを調整しています。この先、新たなマシンを導入する場合は、マシン自体がシステムと連携することも考えられます。
――利用者はアプリを使って入退館するほか、トレーニング指導なども行うコミュニケーションツールになっています。アプリ開発で重点を置いていることを教えてください。
前田壮人さん もしシステム障害が起きると100万人に近い会員がジムに入れなくなります。まず徹底したインフラ整備と、システムが落ちてもすぐに検知して復旧できるサポート体制の構築を第一に整えました。次がユーザーエクスペリエンスです。わかりやすく、目的にすぐに辿り着ける使いやすい画面設計が必須。この2つがベースにあり、お客さまの声を聞きつつ、日々バージョンアップを重ねています。
前田壮人さん 入退館、サービス予約、マシンの利用説明やトレーニング動画の視聴のほか、お客さまそれぞれで目標の体重および体脂肪率をセットし、ヘルスウォッチと体組成計からのデータログが記録されていきます。そのデータをもとに、運営側からコミュニケーションをすることもあります。現在開発中のバージョンでは、アプリがお客さまのパーソナルトレーナーになり、体調管理やトレーニングのアドバイスをしていくようになります。また、幽霊会員を作らないために、来館から足が遠ざかっている方へのサポートもアプリで行っています。
――新しくなるアプリはどう変わるのでしょうか。
前田壮人さん 現状の活動ログに加えて、食事や睡眠をデバイスから取得します。食事管理では料理の写真を撮ると栄養素を解析して、カロリーと糖質がわかります。そうしたデータログが見えるだけでなく、それがどういう意味を持っているのか、そこから目標に向けてどうしていけばいいかが、AIによってフィードバックされます。
――アプリがトレーナーの役割を担うようになる。
前田壮人さん フィードバックのもとになるのは、RIZAPで蓄積したトレーニングのノウハウに関する膨大なデータベース。日々の体調と運動データを掛け合わせて、1人ひとりにあったアドバイスをアプリがパーソナルトレーナーの代わりになって行います。RIZAPで人が寄り添ってきたことをより多くの人に届けるために、chocoZAPをスタートしましたが、まさにその実現への第一歩になります。現在は開発中ですが、今年度中のリリースを目指しております。
RIZAPのトレーニングメソッドとchocoZAPのアプリから取得した美容・健康情報データを多角的に活用
前田壮人さん ジムを利用するためにアプリで入退館できれば良いと考える会員がほとんどです。そういった方々に、それ以上の付加価値をどう感じてもらうのか手探りでした。アプリ開発では、実装してユーザーの反応を見るのが一般的ですが、弊社ではアプリ機能でABテストをマーケティングのように行い、ユーザーのヒアリングを経て本実装を判断する地道な作業を積み重ねてきました。そのアプリ内テストは、なかなか難しく手間もかかり大変でした。
――アプリがトレーナーやスタッフに置き換わることに対して、RIZAPで成長してきた社内に不安や動揺はありませんでしたか?
前田壮人さん 企画立ち上げ当初はあったかもしれません。デジタルに明るいスタッフも少なく、専門部署もありませんでした。しかし、トレーナーにしかできないことはたくさんあります。一方、AIやシステムにはスタッフやトレーナーをサポートできることが圧倒的に多くあります。その思想がうまく融合していきました。いまではchocoZAPの成功を受けて、RIZAP事業からもシステム導入の要望があります。DXはシステムだけのことではなく、人のマインドや働き方を変える方が重要です。
――RIZAPのベースにあるのは、パーソナルトレーニングによる人から人への寄り添い。アプリというシステムで寄り添っていくサービスはその真逆でありながら、RIZAPもデジタル導入に積極的になっているところが興味深いです。
前田壮人さん 人に寄り添うことにもっと時間をかけられるように、そうではないところをシステム化し、データによってよりエビデンスを強めてコミュニケーションすることに活用しています。パーソナルジムが増えている中、RIZAPでもAIなどのデジタル活用を積極的に進めようとしています。
前田壮人さん 利用者1人ひとりのパーソナルトレーナーになって、寄り添いながら生活も体調管理も見守り、日々アドバイスしていくパートナーになること。同時にデータを蓄積していき、そこからわかった情報を還元して、多くの方により良い生活を送ってもらうことです。
――それはいつを目指していますか?
前田壮人さん chocoZAPのサービス自体がどんどん増えていき、お客さまのニーズや時代の流れによってアプリもどんどん形を変えて進化していきます。完成形はまだまだ見えていません。
――RIZAPで蓄積したデータにchocoZAPで取得するデータが加わると、膨大な健康・美容情報のデータベースになります。その活用はどう考えていますか?
前田壮人さんもともとはパーソナルトレーニングからの統計的な情報をもとにRIZAPメソッドを確立してきましたが、chocoZAPでは美容領域のサービスも増えていくので、美容要素のデータが加わります。例えば、食事と美容のデータをかけあわせた肌の診断など、フィットネスと親和性の高い新たなサービスも考えられます。RIZAPメソッドをさらに進化させ、将来的には精神的なメンテナンスにも広げていけると思います。
(文/武井保之)
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