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【話題のマンガ試し読み】マンガも配信ドラマも「ハラハラ」展開はもう古い? 映画『キングダム』やNetflixドラマ監督が所属するスタジオが明かす変化

 ドラマもマンガも、スマホで楽しむことが普通になった昨今。配信やアプリで隙間時間に鑑賞するようになったユーザーは、コスパやタイパを重視し、“心地よさ”を求める。当然、作り手側も対応することになり、これが作品内容にまで影響しているようだ。以前は「主人公がピンチ! どうなる!?」とハラハラさせ、次回に誘導するのが定石だったが、今では変化しつつある。Netflix『今際の国のアリス』や映画『キングダム 運命の炎』の監督が所属し、現在はLINEマンガで連載中のwebtoon(縦読みマンガ)『英雄代理忍』を制作するミリアゴンスタジオに話を聞いた。

なぜ映像の会社や芸能プロダクションのアミューズが? 他業種が続々参戦する理由

 Netflixで世界的にヒットした『今際の国のアリス』や映画『キングダム 運命の炎』などの監督も所属するミリアゴンスタジオ。同社は、映像プロダクションのAOIPro.、芸能プロダクションのアミューズと協働する『AAO Project』を2021年に立ち上げた。

 このように現在のwebtoon業界は、従来の出版社のみならず、テレビ局やIT企業、ゲーム会社など他業種からの参入が相次いでいる。ミリアゴンスタジオのような映像に強い会社が参加している理由は、webtoon制作と映像制作の親和性の高さにある。また、芸能プロダクションであるアミューズや映像プロダクションのAOI Pro.は、マスメディアやキャスティング、クリエイターなどへの幅広いパイプを生かして作品を総合的にプロデュースしていくことになるようだ。

これまでは、韓国で生まれた作品に人気も量も押され気味だったwebtoonだが、今では国内でもさまざまなチャレンジが進んでいる。『英雄代理忍』も、そのような試みから生まれた作品だ。

画力がありすぎてもダメ? webtoonとマンガの意外な差異

 同作は、現代を舞台に、劣等感だらけの高校生が親友を救うべく"忍者"としての才能を開花させていくバトルアクション。作画はマンガ『放課後カタストロフィ』やテレビアニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』などを手掛ける平尾リョウ氏が手掛けている。

「本作は平尾先生とAAO Projectで企画した原案がもとになっており、世界を見据えて"忍者"というキーワードを設定しました。さらにバトルアクションがwebtoonで主要ジャンルとなっていること、そしてグローバル展開の可能性が高いことからLINEマンガさんでwebtoon連載をするという判断に至りました」(ミリアゴンスタジオ・森崎洸貴氏 ※崎はたつさき)

 本作の脚本を手掛けている森崎氏の前職はマンガ編集者。そのほか主要スタッフの多くが"マンガ畑出身"で、平尾氏をはじめ本作が初めて手掛けるwebtoon作品となった。

「当初、原案では群像劇のテイストが色濃かったのですが、LINEマンガさんから『メインキャラが複数登場すると、視点が散漫になりがち。見開きに情報を詰め込める横読みマンガならそれでもいいんだけど、webtoonでは読者がストーリーに乗りづらい』とご指摘をいただき、一人称視点に変更した経緯がありました」

 1画面あたりの情報量の整理は、webtoon化にあたっての必須テクだと実感しているという。

「平尾先生は画力がおありなので、ともすればキャラも背景も魅力的に描かれます。しかし、webtoonではパッと見たときに何が起こっているかがわかりやすいことも重要。そのため、画面のどこに最も視線を集中させたいかを意識して描いていただいています」

 また、平尾氏、森崎氏を含む主要スタッフの多くは、マンガ畑だけでなく、映像作品にもなんらかの形でかかわった経験があり、日本のマンガのいいところを生かしつつ、映像で培った知識と技術を本作に生かしている。

「webtoonはマンガではありつつ『ページをめくる』という能動的な行為がなく、ストーリーの流れを受動的に受け取るという意味では映像に近いものを感じます。映像とマンガ、どちらの視点やノウハウも持ったスタッフが多く関わっているのは本作のアドバンテージだと思っています」

コスパもタイパも重んじる現代人、「ハラハラ」の“苦痛”には耐えられない

 古き良き日本のマンガのノウハウと、webtoonとの親和性が高い映像作品で培ったノウハウを生かしている本作。一方で、新たに連載コンテンツをスタートする際には、いかにユーザーを次話に誘導し、離脱させないかが勝負となる。そうした"引き"の要素が、昔と現代ではやや変化しているようだ。

「一昔前のマンガは主人公がピンチに陥ったところで、『次回はどうなるか?』といったハラハラ展開が"引き"になっていました。しかし本作ではたとえピンチでも『次回はもっと主人公が活躍します』といった、どこか光明が差すような"引き"を盛り込むように意識しています」

 特にwebtoonにおいては「ハラハラで(引っ張って)、次話に誘導する展開は好まれなくなっている」と森崎氏は言う。

「webtoonを読むのはスキマ時間であり、映画館のような"箱"の中で完全にその世界観に浸れる環境ではありません。疲れていてリラックスしたい、カタルシスを味わいたいときに苦しい展開を見せられると『もういいかな』と離脱・脱落してしまう読者も多いと思います。もちろんピンチというのは物語のフックになりますが、その上で『次はもっといい展開になる』といった次話を読む価値をきちんと明示することで、安心して読み進められる読者心理があるように感じます」

 webtoonを読むためのスマホには膨大なコンテンツがあふれており、現代人はコスパもタイパも重んじる。少しでも「つまらない」「読むのが苦痛」と感じさせたら即座に別のコンテンツに移動されてしまうわけで、webtoonに限らずコンテンツ業界は可処分時間の奪い合いだという。

「かつては主人公がコツコツ努力を積んで強くなるプロセスも楽しめましたが、分かりきっている展開をダラダラ見せられるのはおそらく現代のユーザーにとって時間の無駄。これは配信ドラマなども同じで、努力する様子を見せるにしてもそこに付随する意味などがないと飽きられてしまいます。かと言って、ひねりすぎるとwebtoonならではのテンポ感が削がれてしまう。スマホでコンテンツを楽しむ習慣が定着したことで、ストーリーの組み立て方は大きく変化したと思います」

日本でもwebtoon原作は増える?「実写化には膨大な予算がかかる」

 ミリアゴンスタジオをはじめ、AAO Projectには映像作品に実績の高い会社が参画している。昨今、韓国では『今、私たちの学校は…』『マスクガール』といったwebtoon原作のドラマがヒットしているが、日本の映像業界はwebtoonをどのように見ているのか。

「韓国のコンテンツ業界ではwebtoonがメインストリームとなっているため、ドラマ化も自然な流れなのだと思います。ただ日本の映像業界が"原作としてのwebtoon"の発掘に積極的に乗り出しているかというと、まだまだ注視している段階という印象です。その理由の1つにはwebtoonの王道ジャンルであるバトルアクションや異世界ファンタジーは、実写化に膨大な予算がかかるのも理由かと思われます」

 その上で森崎氏が注目していると語るのが、人気webtoonのテレビアニメ化だ。

「アニメ化によって日本でもコアなwebtoon読者だけでないライト層にも届き、ひいてはwebtoon全体の読者も一気に増えるのではないかと思います。(日本でも)映像業界がwebtoonに注目する1つの分岐点となることに期待しています」

 なお、ミリアゴンスタジオに所属するクリエイターが監督したNetflixドラマ『今際の国のアリス』や映画『キングダム 運命の炎』は、それぞれマンガ原作作品だが、森崎氏は「日本ではマンガに比べてwebtoonはまだ完全に市民権を得ていない」と現在地を語る。

「市民権を得るためには、とことんマスにこだわる気合いの入った作品が登場することが必要です。たとえば『鬼滅の刃』(集英社)のメガヒットには、『どこに行っても目に入る』ような多メディア同時展開の成果も大きかったと思われます。『どこに行っても目に入る』ようになると、ユーザーの年齢層が下がり、さらにその親も見るようになり、全世代へと広がっていくという流れができていきます」

 ユーザーの嗜好が多様化する現代。万人ウケするコンテンツは難しいとされるものの、森崎氏は、マスの希望と可能性を強調する。

「『鬼滅の刃』もそうですし、新海誠監督の作品など、今もなおマスヒットする作品は生まれています。そうした作品の多くはかつての"万人ウケ"のイメージとは異なり、どこかニッチでフェティッシュな要素を含んでいるからこそ現代人に広く深く刺さっているのを感じます。『英雄代理忍』もまた少年バトルの姿を借りて強くフェティズムを意識しています。本作にはwebtoonが市民権を得る一助となる力があると信じていますし、またそうなれるよう全力で取り組んでいきたいですね」

取材・文/児玉澄子

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