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保護猫生活10年、やっと人馴れして幸せ見つけるも…家族に看取られた猫の最期の時間
声の出ない老婆が救った黒猫、人馴れせずに10年の保護猫生活
「そのおばあさんは、ある公園でボイスにゴハンをあげていて。当時ボイスは5ヵ月くらいの子猫で、1匹だけでいたそうです。このおばあさんは、声がかすれてしまいまったく声が出せず、電車に乗るのも大変そうなくらい足腰が悪いなかでも、ボイスにゴハンをあげに通ってくれていました」
そのおばあさんから、ある日『ねこけん』にボイスの保護依頼が届いた。
「おばあさんの話によると、猫は触れるくらい慣れている、捕獲もこちらでやるからオペをしてほしいとのことでした。ただ、実際に行ってみたら、全然慣れてなくて(笑)。でも、1匹のために毎日おばあさんが餌やりするのは大変だろうということで、なんとか保護をすることになって。おばあさんの声が出るようにという願いを込めて『ボイス』と仮名を付けました」
こうして、『ねこけん』にやってきたボイス。それから、長い長い保護猫生活が始まった。人間にお世話され、清潔な部屋でゴハンをもらい、病気になれば診察もしてもらえる。だが、ボイスがなかなか人に慣れることはなかった。
「ボイスは最初、私の家にいたんです。ですが、『ねこけん』には多くの猫たちがいて、日々の案件に忙しく、なかなかボイスに構ってあげることができなくて。ボイスがなかなか人馴れしなかったのは、そのせいだと思います。ただ、ボランティアメンバーたちが毎日朝晩、献身的にお世話してくれるシェルターに移ると、だんだんと慣れていきました。メンバーたちが愛情をかけてくれたおかげだと思うので、本当に感謝しています」
やっと家族を見つけて幸せに…、その矢先に見つかった病
ところが、この4月初旬。ボイスの家族から、「ボイスの具合が悪い、おそらく悪性リンパ腫では」との連絡があった。
「せっかく慣れたのに、病気が見つかるなんて…と、里親さんもすごくショックを受けていて。ボイスはもう10歳超の猫ですから、年齢的にもそうした病気になってもおかしくはないんです。ただ、やっと幸せに暮らし始めてところなのに…。もう少し早く人馴れさせることができて譲渡に出せていたら、もっと家族として長く暮らせたのに…と悔やむことは多いです」
その家族は「最善を尽くす」と言ってくれていたが、すでに手術はできない状態。そんなつらい状況でも、少しでもボイスが楽しく、好きなように過ごせるようにと考えてくれた。日に日に食欲が落ちるなか、「ゴハンを食べてくれました!」と、喜びのメッセージが送られてくることもあった。だが、5月に入って届いた連絡は、「ボイスが旅立った」との内容だった。
たとえ、一緒に暮らした時間は短くとも、その家族はボイスを幸せにしてくれた。ボイスもきっと、本当の家族の愛情を感じながら、お別れをしたのだろう。どんなに猫の健康に気を付けていても、愛情を注いでいても、いつ病気が発覚するかは誰にもわからない。動物は言葉で異変を告げることはできないからなおさらだ。『ねこけん』のブログでは、この報について、以下のようなメッセージを綴っている。
「命ある限り、必ず別れの時は訪れます。別れの悲しさを恐れるよりも、大好きな一緒にいる時間をたくさん感じてほしい」
「別れがつらいから動物は飼わない」という人もいるが、大事なのは一緒に過ごした時間の密度と、動物も人間も幸せを感じられたかどうかではないだろうか。10年の保護猫生活と、少しの間の家族との時間。人馴れに時間がかかったボイスはきっと、最期は人間を大好きになれただろう。
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