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廃業増加する街のベーカリー、広がる“冷凍パン×サブスク”が救世主に?

 高齢化や高価格化などにより、パン市場は増加傾向にあるものの、後継者不足により、全国的にベーカリーの廃業が相次いでいる。そんな中、地域のパン屋さんの商品を全国に届けるサブスクを展開している「パンスク」がじわじわと人気を伸ばしている。全国90店舗と提携し、月額3990円で選りすぐりの冷凍パン8個前後が届くサービスで、会員数は3年で3万人を突破。単純計算で1個当たり500円ほどと決して安くはないが、“冷凍パン×サブスク”が消えゆく街のパン屋さんの救世主となるのだろうか。

全国行脚し“隠れ名店”を自ら発掘、ベーカリー業の“不安定さ”を逆手に取った交渉術

 日本各地のパン屋さんの焼き立てのおいしさを独自の冷凍技術で閉じ込め、全国のパン好きに毎月届ける。“おいしいパンを、旅しよう”をコンセプトに「パンスク」が誕生したのは、同サービスを手掛けるパンスク社長の矢野氏とパン屋さんとの出会いが始まりだった。

「それまで外食ばかりだった僕が、26歳くらいの時に偶然出会ったパンがあまりに美味しくて、衝撃を受けたんです。同じように、パン屋さんのパンがこんなに美味しいことを知らない方って結構いるんじゃないかなと思ったんです。もともと地元から地方を元気にしたいという思いがあった中で、地方に美味しいパン屋さんがたくさんあることを知り、地方発だからこそ喜んでいただける商材なんじゃないかなと考えました」(パンフォーユー代表取締役・矢野健太氏/以下同)
 そこから矢野氏は、全国の人気ベーカリーを月に数十件のペースで訪問し、直談判で提携先を増やしていった。

「当初はこちらの身分は明かさずに、パンを食べさせてもらってからお声がけすることが多かったです。基準は純粋においしいと感じるかという点と、エピソードや思いをお伺いして、人に話したくなるようなお店かどうか。手に入りにくいパンを提供したいという思いから、個人経営の小規模のベーカリーさんとの提携が多いですね」

 ベーカリーは1店舗経営が多く、全国に“隠れ名店”が多い業種だ。ネットやSNSでもリサーチを重ね、時には地方の秘境にある店にも足を運んだ。しかし、ベーカリーは代々受け継がれてきた歴史あるところも多く、新規事業や冷凍パンへの抵抗感が強い店は少なくなかった。
「『冷凍だと美味しくないんじゃないか?』とか、『自分のパンがどこでどうやって食べられるの?』という疑念を持たれたり、製造や納期について心配される方が多くいらっしゃいました。ただ、繰り返しご説明するうちに納得してくれるベーカリーさんも多く、中には2年越しで提携が実現したり、一度お断りされたベーカリーさんからご連絡を頂いたりすることもあって、サービスの認知拡大と共にベーカリーさんの方からお声がけいただくことも増えました」

 店舗ありきのベーカリーは天候や立地によって売上が左右されやすく、エリア外の商圏を広げることが難しいビジネス業態の中で、パンスクへの加入は全国にファンを増やせるメリットがある。各地で地道に交渉を重ね、現在の提携数は90店舗を突破した。

「提携のメリットについて『売上がアップします』という説明ではなく、『売上が安定する』とお伝えすることで、受け入れてくださるベーカリーさんも増えていきました。また、原料ラベルの作成や箱の提供など、可能な限りこちらで手厚くサポートさせていただいています」

“街のパン屋さん”との出会いを自宅で追体験、あえて選べない「ランダム形式」が好評

 かくして全国屈指の“おいしいパン”が揃ったパンスク。肝心のユーザーの反応も上々で、一時は3ヵ月待ちになるほどの反響が。奇しくもローンチのタイミングがコロナ禍と重なったことも大きかったが、自粛モードが明けた後も継続率が非常に高く、サービス開始から3年で会員数3万人に達した。

「当初は『冷凍パンってこんなに美味しいんだ!』という声を予想以上に多くいただきましたが、最近は純粋に『楽しい』というお声が増えた印象があります。実際にパン屋さんに訪れた時の、ドアを開けた瞬間のワクワク感を自宅でも味わえるように、商品をランダムでお届けしているのですが、意外にもその思いに共感してくれる方が多くいらっしゃるというのは新たな発見でした」
 そこに行かなければ食べられない、手に入りにくい人気メニューが毎月届く楽しみが、パン好きの心を掴んでいるようだ。一方で、“街のパン屋さん”の数は、この10年減少し続けている。

「80、90年代に大手パンメーカーさんが台頭してきたことにより、街のベーカリーさんが価格競争に晒されて苦戦したという経緯から、00年代からは嗜好品としての独自路線でパンを作り始めるようになりました。その中で、特に高級食パンがしっかり“パンって高くてもおいしい”という土壌を整えてくれたことで、パンにとってはプラスに働いているところがあるんじゃないかなと思います。我々は“パン屋さんのパンの価値を向上させる”というのが裏ミッションでして、美味しいパンって“手頃で美味しい”じゃなくて、今提供している価格帯のパンが認められることに意味があると思っているんです」
 8個前後で3990円(税/送料込)という価格には、ベーカリー業界が抱える問題に対する思いも込められていた。

「パン屋さんは今でも、小学生のなりたい職業に選ばれる憧れの職業ですが、実際には他の職業が選択されてしまう現状があります。そこに対して、我々もパン屋さんになりやすい、開業しやすい環境づくりができればと思っています。まずは“嗜好品”としてパン屋さんのパンの魅力が広まり、いろんなところで受け入れてもらえたら良いなと思っています」
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