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30年間で約半減、苦境のガソリンスタンド 光明が差した“新しい価値”の創出とは?

 現在、自動車産業は、半導体不足による新車の減産の影響により中古車市場以外は、停滞気味。なかでもガソリンスタンドは、原油高騰に加え、車の低燃費・EV化の流れを受け、この30年ほどでその数が半減するなど苦境に立たされている。そんな状況下において、“洗車/コーティング”という、もともとあったサービスを独自に進化させ、ガソリンスタンドに新たな付加価値を与えて、創業以来37年間増収増益と業績を伸ばしている企業がある。市場がシュリンクしていくなか、どういった戦略を持ってここまで展開してきたのか。KeePer技研創業者で同社会長の谷好通氏にガソリンスタンドの栄枯盛衰と、この先、生き残っていくために何が必要か話を聞いた。

80年代の好景気が一転…苦境に立たされるガソリンスタンドの現状

 谷氏が、ガソリンスタンドを創業した1985年から90年代前半にかけて、業界は空前の好景気。ガソリンスタンドは全国で6万店を超え、事業者数も3万社以上(出展:経産省「給油所数の推移」)もあった。だが現在は3万店足らずで、事業者数も約13,000社と半数以下に。この要因を、谷氏は「需要競争の激化」だと解説する。

「当時は業界全体が守られており、競争の状態にはありませんでした。『特別石油製品暫定措置法』により、国に認められている元売りしか輸入が出来ず、とにかく儲かったため、地主やその土地の名士らが、自分たちの陣地を広げるように次々と参入。農地を持つ人々を勧誘するなどして次々とガソリンスタンドを作っていったんです。ゆえに業界は急拡大した。つまり利権商売ですね。それが(10年間の時限立法のため)1996年に廃止になってしまったんですよ。“もうどこからでも輸入していいですよ”となったため、自由競争に。結果、競争力のない店舗を次々と切り捨てられていった。燃料油は付加価値が規格で決まっているため、安く出す店のほうがいいに決まってますから」

 守られていた業界に押し寄せた自由化の波。廃止前は50円あたり12〜13円の利益があったが、その利幅もどんどん削られ、現在は160円あたりで10円あるかないか。利益率が10%を切ったうえに、クレジットカードでの支払いが当たり前になり、そこから手数料が2〜3%引かれてしまう。もはや燃料油のみでは利益が出ず、撤退業者が相次ぐことになった。

「2000年代以降特に、車の低燃料化もきいています。EV化の波も目の前に来ていると皆さんひしひしと感じられている。今は、新車販売台数は落ちているが保有台数は落ちてないですが、少子化のうえに都会の人は、車は不必要だと考えている人も増えている。また、2010年代にはガソリンスタンドの地下のタンクを二重殻タンクにしなければならい法律もできた。これにまた数千万円かけて取り替えなければならなくなったことも大きい。大出費です。これの猶予期間を経て廃業を考えるところはもっと出てくる。(ガソリンスタンドの減少も)今が下げ止まりではなく、ここからが本番ですよ」

新たな価値の“創出”「コーティングを車好きのための嗜好品から一般の人が使える実用品へ」

 利権に守られ、燃料油で利益が出ていた時代から、そこでは勝負できない時代へ。当然、多くのガソリンスタンドが廃業を余儀なくされていくなか、そんな時代を見越したかのように、谷氏は早々に燃料油外収益の方へと舵を切っていた。きっかけは、ガソリンスタンドを建てたものの、当時あった「枠」の関係で燃料油を売ることができなかったため、それ以外の洗車やコーティングを、より価値あるサービスにしていこうと追究したことだった。その店舗である程度手ごたえを感じた谷氏は、他の店舗でも燃料油では利益を追求せず、あくまで集客の装置と考えた。今、結果からみれば“先見の明”となるのだが、「当時はそれが成功するかどうかはわからなかった」と同氏は笑う。

「洗車というのは感性の問題なんです。美味しいやまずいというのと一緒で、価値が決まっえてるわけではない。うまいと思えば2倍高くてもお金を出す。美容院もそうですよね。安いところへ行く方もいらっしゃいますが、ある程度美意識があれば多少高くても、上手なところ、自分のことをよく知っているところへ皆さん行かれる。これを“需要競争の法則”というのですが、私はここで、お客様が自分では出来ないサービスをやれば高い価値を払ってくれるのではないかと考えました。洗車は1人でも出来ますからね。そしてその頃に、出始めていたコーティングにのめり込んだんです」

 当時、一部の車好きの人のためのものでしかなかったコーティング。だが、ガソリンスタンドでサービスを提供する以上、一般の方々にもその価値を分かってもらうほかない。

「だから戦略も勝算もなかった。ただ1台1台、きちんと仕事をした。他社が“このコーティング5年持ちます”と言って誰も信用してなかったところ、KeePer技研では“2年持つ”と言って確実に2年持つようにした。そうしたところ口コミで徐々に広がっていったんです。また、コーティング剤や技術も研究を重ね、特殊な加工で付加価値をつけており、雨が降ると洗車をしたように車がキレイになる。つまり洗車の手間が省けるものにすることができた。これによってそれまで嗜好品だったコーティングが、実用品に転換した。これで一般の方々にもアプローチ出来るようになりました」
 2010年代に入り、SNS文化が来た。これまでは口コミだったところがSNSで拡散されるようになった。さらにコロナ禍で遠出が出来なくなった分、今のうちに車をキレイにしておきたいと考える人が増え、好循環に。

 また、口コミやSNSでの評判は、ユーザーだけではなかった。燃料油だけで利益が出せなくなったガソリンスタンドもその評判を聞きつけ、KeePer技研で使用している洗車用品や、コーティング剤を求めるとともに、技術を習得し、そのサービスを自らのガソリンスタンドで展開したい、という問い合わせが増えた。KeePer技研が認める技術でコーティングを施せる『KeePerプロショップ』制度を2007年にスタートすると、15年間で導入店舗は6,400を数えるまでに。ガソリンスタンド逆境の時代に、創業以来37年間、一度も下がることなく増収増益を続けている。

「うちは営業力のない会社だから(笑)、私たちの方から営業をかけたことはないんです。今研修とかやってますけど、もともと募集なんかやったことないし、今も『募集要項』もない。ただ、実際研修を受けて『KeePerプロショップ』という看板を掲げてやってみると、お店の実績が上がる。それが口コミになって広がって集まっていった。私たちは地味に、目の前のことをやってきただけなんですが、結果的に報われた形になりました」

車を長くキレイに乗ることが新たなライフスタイルになる

 現在は不景気、若者の車離れもあり車市場は衰退。車の買い替えのハードルも高いという状況下にあり、買い替えを考えていた人も「今持っている車をもう少し長く、大事にしよう」というユーザーマインドが働いているように思える。KeePer技研も「たとえ年数が経った車でも、それを大切にキレイに乗り続けていることが一つのライフスタイルの表現になってきています」という言葉を掲げ、そういったマインドを後押ししている。

「不景気で我慢して同じ車を乗り続けている方もいらっしゃいますが、この車が好きで自分に合っていると考えている人にとっては、その理由は“不景気”ではないんです。気持ちが豊かならば、そっちの方がかっこいいじゃないですか。景気がいい頃には、新しいモデルが出るたびに新車を買い替え続けるというのが、ひとつのステータスとしてありました。でも今はそういう時代でもない。だからコーティングで愛車をキレイに、長く乗り続けてもらうライフスタイルを提言しました」

 現在はそのコーティング技術を応用して、車だけでなく、船の船底にフジツボがつかないコーティングの開発や、家庭でお風呂掃除をしなくてもすむコーティングなども研究を重ねているという。これもまた、車のコーティングから派生した“新しい価値”の創出と言えるだろう。最後に、今後のガソリンスタンド業界について話を聞いた。

「先ほども申し上げた通り、厳しい時代はここからが本番。ガソリンスタンドがガソリンを売るだけではもう生き残れないでしょう。カーボンニュートラルも進んでいくでしょうし、その要因になるものを供給しているところも、減少していくのは必然です。だから、ガソリンスタンドは、車に対してガソリンではないなにか付加価値を提供できるところになっていかないと厳しい。元売り直系じゃない会社は今後、どのように業務転換をしていくか一生懸命考えていると思います。
 今、KeePer技研は全国に6,400のプロショップがあります。もともとガソリンスタンドのサービスのひとつとしてやっていたところが多いんだけど、本業を辞めて、洗車/コーティングだけにしたお店も増えています。カーディーラーも新車をどんどん売ればいいという時代は終わり、アフターケアに力を入れるようになるでしょう。そうなった時にKeePer技研が車業界や皆様のお役に立てる会社であればと考えています」

取材・文/衣輪晋一

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