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来たるべき代替肉が”主役”となる日、黒子企業が実現した技術改革

不二製油が開発した新タイプの大豆ミート「プライムソイミート」。これまで再現困難と言われてきた“肉のような繊維感”や“噛み応え”がある

不二製油が開発した新タイプの大豆ミート「プライムソイミート」。これまで再現困難と言われてきた“肉のような繊維感”や“噛み応え”がある

 大豆から作られる「大豆ミート」。近年国内外で様々な製品が発売されるほど多様化が進んでいるが、日本では半世紀ほど前から“植物性たん白”として出回っていた。捨てられる大豆の搾りかすを有効活用できないかと1969年より販売をスタートさせたのが、国内トップメーカーである不二製油だ。当初は餃子、肉まん、ハンバーグといった加工食品の増量材として使われたが、長い間売れない時期を過ごしてきた。同社担当者は、大豆ミートが日の目を見るに至ったのは、「自分たちの時代では分からない。自分の孫が大きくなった頃、必要な時代が来るからやり続けなさい」と社員の背中を押した創業者の信念があったからだという。

業務用に特化することが、最後発企業の“伸びしろ”だった

 同社は例えば、チョコレートの品質を調整する「植物性油脂」、「業務用チョコレート」、ホイップ等の「乳化・発酵素材」といった“業務用”の製品に特化している。それゆえ「黒子企業」と形容され、ヒット商品が生まれても不二製油の名前が公になることはほぼない。同社担当者は「お客様を下支えしている美学のような、かっこいいことが言えれば良かったですが(笑)。当社では“黒子”と呼ばれることを気にしたことはございません。製品が業務用に特化している以上、それが当たり前だと思っています。お客様と一緒に新しい製品や市場を開拓しているので、売れてよかったというのが率直な思い」という。

 同社は創業が1950年、それでも油脂の業界で見ると最後発の企業だ。終戦から5年、当時はキャノーラ油・大豆・菜種といった原料が主流で、同社は割当制によりそれらを確保することができなかった。「ではどうするかと考えて、当時工業レベルで生産されていなかったヤシやパームを使って油脂を絞り売っていきました。工業レベルでの生産は、規格さえ合えばブランドを気にせず使ってくれたからです。特にパーム油は安定性が高いので、油も悪くなりにくい。お菓子のフライ油としてよく採用いただきました。従来の原料だと差別化が難しいですが、なんとか伸びていける道を見つけていった。そうして業務用に特化してお客様への販売に注力した結果、今の形があります」。(同社担当者、以下同)

肉の邪魔をしないものから“主役の味”に、今後の大豆ミートに求められる技術変革

プライムテクスチャー製法を用いた『プライムソイミート』 乾燥タイプ(水戻し後・写真左)、冷凍タイプ(解凍後・写真右)

プライムテクスチャー製法を用いた『プライムソイミート』 乾燥タイプ(水戻し後・写真左)、冷凍タイプ(解凍後・写真右)

 同社が大豆と油脂の加工技術を研鑽してできた「大豆ミート」は、大豆を材料とした植物性由来の“プラントベースフード”だ。餃子や肉まんに用いることで、本物の肉を使うよりもコストを抑えられるのが最大のメリットで、“保水性の高さ”が注目されてきた。例えばハンバーグを切った時。肉汁がドバっと出るように、通常の肉は加熱すると旨みが外に出ていく。しかし保水性の高い大豆ミートであれば、一緒に入れることでその旨みをすべて吸収してくれる。旨みが逃げずに美味しくなり、カサも減らない。「製法を研鑽し、商品に合わせて味や食感を変える。これまで当社のきめ細かい技術に評価をいただいてきました。でもまだ課題は残っています」という。

「増量材や機能材としての大豆ミートは、商品で主役となる“肉”よりも味や食感が前に出てはいけない。これが今まで当社に求められてきた技術だったのです。しかし今は大豆ミートが“主役”となる商品が次々に出てきて、大豆自体の味を美味しいと言っていただく機会も増えました。そうすると以前の技術のままでは、無味無臭すぎて美味しくないという感覚になる。大豆ミートが主役となった時にどうするのか。これは今後さらなる定着をさせていくなかで、当社が変えていかなければならない課題なのです」

調理された「プライムソイミート」

調理された「プライムソイミート」

 今年7月、同社は「プライムソイミート」という新タイプの大豆ミートを発売。鶏肉や牛肉を思わせる見た目で、これまで困難と言われてきた“肉のような繊維感や噛み応え”と“口どけ”を両立させている。「日々研究して、色々なものを変えようとしています。大豆ミートは今、ようやく日の目を見たところです。当社が植物性たん白を発売して60年余りが経ちますが、最初はまったく売り物にはなりませんでした。それでも続けてこられたのは、『自分たちの時代には分からないだろうけど、自分たちの孫が大きくなった頃に必要な時代が来るからやり続けなさい』という創業者の考えがあったからです。そして本当に今、“必要な時代”になってきている感覚があります」。

 危惧されるのは、環境面への配慮や将来的な食資源不足だ。牛を飼育する場合、大豆ミート生産時の8倍もの水を消費することになる。今後世界人口が増え続けるなかで、食肉が手に入らなくなるほど食資源がひっ迫することも懸念される。大豆ミートはそういった未来の課題に応える食品だからこそ、急務として“広く受け入れられる食べ物”になる必要がある。「広く受け入れられるためには、“おいしさ”が重要」。同社が時間をかけて取り組んだ技術の真価が企業との取り組みにも表れている。

「いかに消費者の皆様と接点を増やせるか」toBで終わらせない取り組み

豚骨スープには、MIRACORE(TM)(ミラコア)という同社の新技術を使用。豆乳を用いて、豚骨の濃厚感を出すことに成功した

豚骨スープには、MIRACORE(TM)(ミラコア)という同社の新技術を使用。豆乳を用いて、豚骨の濃厚感を出すことに成功した

 大豆ミートが主役となる時代に呼応するかたちで、社名をオープンにして、他社と共同開発する取り組みも近年行われているという。

 2021年には豚骨ラーメン店グローバルチェーンの『一風堂』とともに、プラントベースのラーメンを開発。植物性の油脂とタンパクの加工技術とタンパクの加工技術を掛け合わせ、豆乳を含む植物性の原料から豚骨のような濃厚感を生み出した。「当社の事業は“植物油脂”と“タンパク”にありますが、今回の取り組みは異なる事業の独自技術がしっかり融合された事例でした。それにより今まで植物性では出せなかった“動物的なコク味”を実現することができました」。

『SOVEシリアル』。1食分(30g)でタンパク質15.1g、食物繊維6.7gをとることができる。糖質は4.1gで、一般的なコーンフレークの約8分の1までおさえられている

『SOVEシリアル』。1食分(30g)でタンパク質15.1g、食物繊維6.7gをとることができる。糖質は4.1gで、一般的なコーンフレークの約8分の1までおさえられている

 今年10月には、同社がカゴメと共同開発した大豆と野菜のシリアル「SOVE(ソブ)シリアル」がEコマースにて発売された。同社担当者は「当社はBtoBの会社ですが、toCを常に意識しないといけない。共同開発した商品がEコマースで販売されるということが、当社としては新しい動きとなりました。消費者と直接関わるブランドを持つ会社様と一緒に取り組むことで、消費者が求める感性を意識することができます。それをBtoBの事業やプラントベースフードの商品開発にも活かしていける」と意気込む。

「プラントベースフードの浸透度は、実際まだまだというのが正直なところです。どうしたらプラントベースフードが売れていくのか、難しい問題であり、その答えをもっているのは消費者の方々ではないかと思っています。だからこそ消費者との接点をどう持つのかが今後さらに重要になります。BtoBの企業であっても、目線は消費者にも向いている企業でありたい。消費者の方に向けた情報発信、プラントベースフードを手に取っていただける環境を引き続き整えていきたいと思います」
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