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「船に泊まって近江牛ステーキ食べて…」滋賀県“すべての小5”が体験する行事「うみのこ」とは
学習船『うみのこ』には60万人の小学5年生が乗船
“うみのこ”は、そんな県のシンボルでもある琵琶湖について学ぶと同時に、青少年の健全育成の推進を目的とした1泊2日の宿泊体験型の教育で、正式名称は『びわ湖フローティングスクール』という。始まったのは昭和58年のこと。
「当時は、青少年の健全育成が大きな課題となっていました。そこで滋賀県では、規律のある船上での生活を通して“たくましい子ども”を育成するため、本事業を始めました。現在では、子どもたちが環境に主体的にかかわる力や、人と豊かにかかわる力を育むことを主な目的としています」(滋賀県教育委員会事務局幼小中教育課・箕浦健司さん/以下同)
そんな『びわ湖フローティングスクール』の学習船として就航した『うみのこ』は、2018年3月に初代が引退。現在は2代目が就航中で、初代から数えると60万人(2022年8月現在)もの小学5年生が乗船している。
「始まって39年になるので、小5時点で県内に住んでいた滋賀県の10代からアラフィフ世代までは、ほぼ全員『びわ湖フローティングスクール』を体験しています。県のシンボルと言っても、山や高層の建造物なら県内のどこからでも見られますが、湖は周辺の住民しか見ることができませんよね。県民でも、『びわ湖フローティングスクール』で初めて琵琶湖を訪れた、という方も少なくなく、特別の思い出をお持ちの方も多いのではないでしょうか」
一度の航海で2校から3校程度が乗り合い、他校の生徒と混成で班を作り活動する取り組みもある。初めはよそよそしい様子の子どもたちも、活動とともにすることですぐに打ち解け、船を降りる時には別れを惜しむ姿が見られるという。
滋賀県民なら大人から子どもまで歌える“うみのこ”の歌
「船内には体育館のような多目的室があり、そこに全員集まって、お互いの自己紹介をしたり、名刺交換ゲームをしたり。各学校混成の班ごとに対決する綱引き大会も、ものすごく盛り上がります」
同じ中学校区の小学校が一緒に乗ることもあるので、2年後に中学校で「『うみのこ』で一緒やったね」と感動の再会を果たすこともあるそうだ。
「子どもたちにとっては、友だちと船内で食べる「『湖の子』給食」も大きな楽しみのひとつです。1泊2日の場合は、1日目の昼、夜、2日目の朝、昼と4食あり、その多くに滋賀県産の食材が使われています。例えば1日目の夜は近江牛のステーキディナー、2日目の朝はマスの塩焼きにシジミの味噌汁がついた焼き魚定食。最後は『湖の子カレー』という滋賀県の豚を使ったカツカレー。この『湖の子カレー』は子どもたちの一番人気です」
他にも琵琶湖の水の透明度調査や、船を降りて初めての街を探検するウォークラリー、力を合わせてボート漕ぎをするカッター活動(期間限定)など、子どもたちが自ら学びたくなるような楽しい学習プログラムが用意されている。
「船の中で、みんなで歌う『希望の船』(湖の子周航歌)はフローティングスクールに参加した子どもなら、みんな歌えます。大人になっても自分たちの住む街の近くの港に『うみのこ』が停まっているのを見かけると誰からともなく“うみのこや、懐かしいな”という話になるのも滋賀県民あるあるですね(笑)」
「うみのこ」だけじゃない?「やまのこ」「たんぼのこ」「ホールの子」とは
「『やまのこ』は、小学校4年生で森林の仕事を実際に体験するなどして、森林について学びます。『たんぼのこ』は自分たちで育てた米を収穫して食べるところまで行い農業への関心と理解を高め、『ホールの子』は本物のオーケストラを体験する学習です。琵琶湖をはじめ豊かな自然を活かした学びを通じて、子どもたちの郷土を愛する心や人と関わる力を身につけてほしい。そういった思いから、滋賀県では体験学習にとくに力を入れてきました。今後も、プログラム内容をより充実させてできるだけ長く継続させていきたいと考えています」
ちなみに、令和元年度までは1泊2日で開催されていた『びわ湖フローティングスクール』だが、コロナ禍の影響で、令和2〜4年度は日帰りでの実施となっている。
滋賀県民がいくつになっても大切にしている琵琶湖と「うみのこ」の思い出。小学校5年生になるのを心待ちにしている大勢の子どもたちのためにも、1泊2日の行程が1日も早く戻って来るよう心から願わずにはいられない。
(取材・文/今井洋子)