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認知度低い“福井の方言”、控えめな県民性も影響?「じゃみじゃみ、おちょきん…方言使おっさ」福井県の試み
「福井県民は恥ずかしがり、方言に愛着をもって観光客と話してほしい」
「福井県として何か“おもてなし”となるもの、旅行後も心に残るものを観光の柱にできないか、と考えていました。最近は旅行の目的が、ただ単に観光地や景色を見て楽しむところから、その土地の人に触れる、文化に触れるという方向に変化しつつあります。福井の方言が県内にあふれていたら、“福井の人、こんな風にしゃべってたね”という瞬間が楽しい記憶になる。そんな“心のお土産”になったら良いな、とプロジェクトが立ち上がりました」(福井県交流文化部文化・スポーツ局文化課/平井勝治さん)
越前ガニにそば、東尋坊。食も景色も何をお土産にしてくれてもいいし、どれでもお土産にできる。けれどそこに“福井だっかたらこそ味わえた旅”の彩りを添えられるのは、他ならぬ『福井の方言』だ。その発想に感心していると、もうひとつ切実な理由があるという。
「福井県民の性格もあるのかもしれませんが、なかなか県外の人と積極的に話さないというか、恥ずかしがりっていうのがあるようで…。その理由のひとつに福井の認知度の低さとの関係、福井は田舎で恥ずかしいといった思いもあるのではと感じています。だからこそ福井の方言への愛着を深めて、自分たち自身でも楽しみながら福井の方言を話しましょう、福井を好きになろうと、そんな意味も含めたプロジェクトなんです。方言でいいから、観光客と話せれば、きっと観光客もほっこりしてくれるはずですから。たとえ意味はわからなくても(笑)。そして、意味が知りたかったらグッズや辞典などで知識を深めてもらう。その交流が“また福井県に行こう”と思ってもらえるきっかけになったら、とても嬉しいですね」
確かに全国的に知られる大阪弁や博多弁と異なり、“福井の方言”となると、どんな言葉か答えられる人は少ないだろう。特徴は「無アクセント」「語尾が揺れる」の独特なイントネーションだ。
福井県内の子どもたちも驚く「早よしね!」の意味は…
県内でも地域によって方言が大きく異なるのも特徴のひとつだ。福井県はオタマジャクシのような形をしている。江戸時代は頭の部分は“越前国(県庁所在地・福井市がある現在の嶺北地方)”、尾の部分は“若狭国(現在の嶺南地方)”だった。
「この国境に木ノ芽峠という険しい峠がありました。ですから人の交流も文化の流れもそこまで多くはなかったんです。方言に関しては諸説ありますが、京都からの言葉がまず嶺南に伝わって少し変化し、それが峠を越えて嶺北に来て、さらに変化したのではと言われています。なので方言Tシャツ企画で使った“おちょきん(正座の意味)”は基本的に嶺北の言葉で、嶺南では“おっちん”と言います。どちらも福井の言葉なのでTシャツも2種類作りました。それくらい、ちょっと特殊な方言なんです」
単語ではテレビの砂嵐を意味する“じゃみじゃみ”も知られる。さらに有名なのは“〜しね”のエピソード。当然“死”の意味はなく“〜をしなさい”の表現で、主に嶺北で“〜しねの”“〜しねま”(共に「〜しなさいよ」の意味)などと使われる。
「他県はもちろん嶺南でもほぼ使われないので、例えば嶺北から嶺南へ転任した先生が、生徒たちに早く物事を行わせたくて “早よしね!”と強く言ったところ、生徒たちはすごく驚いたそうです。『愛着ましましプロジェクト』でも県内各地の高校生が集まって、福井の方言辞典を作っていますが、その最初のミーティングでは、それぞれ言い方が違い『自分たちはそう言わない』など、白熱していましたね」
他県同様に福井県でも高齢者にくらべると、若者たちの方言使用頻度は低くなっていると言うが、そんな若者たちにも「方言の魅力」を再認識してもらうのも今回のプロジェクトの目的のひとつだ。辞典作りのほか、LINEスタンプやTシャツデザインのコンテストなど、県民参加型の事業が多数用意されている。
県外に福井の方言の魅力を発信しながら、県内にも“しな〜っ”と盛り上がるのが理想
「福井の方言でもおもてなしの言葉のワンセンテンスをうまく吸引力として使えたらいいなと思っています。例えば、よくいらっしゃいましたっていう意味の“よう来なったのう”とか、そんな言葉でおもてなしできたらいいですね。それが県内の各箇所で違っていたら、きっとさらに面白いはず。最初の福井旅で嶺北の福井市に行ったら、次は嶺南の小浜市に行って、言葉の違いを楽しんでみようとか。そうなったらとても素晴らしいと思っています。
YouTubeには福井市出身の津田寛治さんも出演してくださいましたし、今は鯖江市出身の片山享監督が『福井のおと』っていう短編映画を撮っています。小浜・敦賀・福井・勝山・越前海岸の5つの場所でオムニバスストーリーが進むんです。福井各地の言葉の良さがきっと伝わると思います」
県外には動画や映画で“音”を含めた福井の方言の温かさをアピールし、県内的には高校生の辞典制作などで“しな〜っ”と福井の方言が盛り上がる。そんな形を目指していると話す平井さん。
「あ、これも福井の方言ですね(笑)。“しな〜っ”はジワジワととか、沁み込んでくるみたいな意味です。無理せず自然にしな〜っと福井の方言の良さを再発見してほしいんです。それが後々のおもてなしの素地になって、観光客の皆様を迎える準備に繋がると信じています」
ちなみに、県民性も知名度も控えめな福井県だが、“幸福度の高い県1位”という輝かしいデータもある。一般財団法人日本総合研究所による「全47都道府県幸福度ランキング」だ。2014年から隔年で実施されており、福井県は開始以来、5連続で総合1位の座を守り続けている。
基本指標となる一人あたり所得に始まり「仕事(若者完全失業率の低さ、女性の労働力人口比率など)」、「教育(学力、社会教育費)」と、快挙にいとまがないほどの“暮らしやすさ”である。
「県の面積、自然の豊かさ、基本的なインフラ、産業発展、文化設備の充実に比して、ちょうどいいくらいの人口密度なんですよね(笑)。だから単純に住みやすい。映画館とかプール、道路はいつもきちんと整備されていて、かつ混んでないのが福井県の当たり前。そんなことが他から見たらすごく幸せなんだって、ランキングで示されて初めて気づいたっていうのが実際だと思います」
普通に暮らしているだけで日本有数の幸せ県。控えめで無理しない県民性。そして方言の秘境ともいえる“福井の方言”。福井県というユートピアには、まだまだ未知の面白さがありそうだ。
(取材・文/後藤直子)
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