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2年連続で移住したい県1位「静岡県」、なぜ人気? 背景に利便性と官民一体のサポート体制

 コロナ禍によるリモートワークの浸透により、ワーケーションやノマドワークなど、働き方の多様化が進んだ。出社の必要がないことから、会社は都内でも地方に移住する“二拠点生活”など、働き方に合わせた住まいの選択肢も増えている。そんな中、移住先として注目を集めているのが“静岡県”だ。「認定NPO法人ふるさと回帰支援センター」が公表している「移住希望地ランキング」では、静岡県が2020、21年と連続で首位を獲得。お茶どころ静岡は、なぜここまで人気なのか。静岡県庁・移住推進担当者に話を聞いた。

前年比3割増、20〜40代の子育て世代の「転職なき移住」が増加

 近年、静岡県の移住人口は急速に伸びている。静岡県がまとめたデータによると、令和3年度の移住者数は1868人と、令和2年度の1398人から比べて3割以上増え、平成27年度の393人から5倍弱の伸びを見せている。

 令和3年度、同県で移住者数が最も多い市町は三島市となった。続いて富士市、静岡市、浜松市と、県内の東部地域や新幹線停車駅のある市を中心に人気が集まる結果となった。

 この2つの傾向について、静岡県庁の高木克典さん(くらし・環境部政策管理局企画政策課)はこう分析する。

「静岡県への移住者が多い要因のひとつは、首都圏へのアクセスの良さです。実は、静岡県に来る移住者の約3割は東京から来られた方で、神奈川県・埼玉・千葉を含めると全体の7割ほどを占めています。近年コロナ禍で、テレワークが広がりを見せる中、今の仕事を手放さずに地方へ移住したいというニーズが非常に高まりつつあります。“転職なき移住”です。そうした状況では、首都圏から近くて新幹線停車駅のある、三島市や静岡市などの需要はとても高いですね」

 アクセスの良い場所に位置しながら、自然の豊かさを感じられるのも静岡県の長所だ。令和3年度の移住者を対象にした同県のアンケートでは、静岡県の魅力の第1位が「自然環境の良さ」となっている。

「静岡県は気候も温暖で、太平洋に面していれば、富士山もあります。週末の土曜日は海でサーフィンをして、日曜日は山に登るといったアウトドアも実現可能。また静岡では、農業、林業、漁業が営める環境にあり、『第一次産業をやってみたい』という理由で静岡を選ばれる人も多いですよ。

 また、産業が盛んな分、名産品も多い。アンケートの4位に『食べ物が美味しい』とあるぐらい、静岡県は食材の宝庫として知られています。みかん、いちご、お茶、マグロなど、全国的にブランド力のある食材が生産されているのも魅力でしょう」

 静岡県には、熱海をはじめとする温泉街や観光地も多い。「観光で訪れる機会が多く、馴染みのある土地になっていることも移住先として選ばれやすい要因」と高木さん。観光で静岡県の自然環境や特産品に魅力を覚え、そこから定住を決めるパターンも多いという。
  • 富士山と駿河湾

    富士山と駿河湾

  • 静岡県浜松市の街並み

    静岡県浜松市の街並み

「都内でのサポート人員の多さはおそらく全国でもトップクラス」

 こうした環境や立地に加え、「県でも移住者を獲得する施策に注力している」という。人気の移住希望地ながら、県側でも移住政策に積極的なのは“人口の流出”も多いからだ。

「首都圏からの利益性の良さで県外からの流入も多いぶん、逆に、大学進学や就職のタイミングで上京する人も多い。そうした人口の増減が激しい中、長期的に活力がある地域を目指していくため、転入者の増加するような施策を打っています」(静岡県庁・企画政策課/高木克典さん)

 特に若い方が地元を離れてしまうと、高齢化や過疎化が進む懸念も大きい。そこで静岡県が推進しているのが、上京した人がスムーズにUIターンできるような環境づくりだ。

「『30歳になったら静岡県!』というキャッチフレーズを使い、UIターンを検討している若い世代を応援する施策を行っています。もともと静岡出身で、今は県外で活躍されている方でも、結婚や出産、転職、親の介護など、人生の転機を迎えると言われる30歳前後で、改めて地元・静岡で暮らしたいと思う機会も多く、子育てを機に環境のよい静岡での暮らしを始めたいと考える方も増えています。そうした再チャレンジ、リスタートしたい方に向けて、全力で移住を応援する取り組みになっています」

 具体的には、「そうだ。静岡出身者で集まろう!」というSNSで県内の多様な企業やUIターン就職イベントなど移住等に役立つ情報を発信したり、都内でSNSフォロワー等を対象とした交流セミナーも開催。他には「30歳になったら静岡県!」の特設サイトや『ゆとりすと静岡』で、実際に移住した方のライフスタイルを掲載するなど、情報発信を強化している。

 移住だけでなく、仕事の相談などのサポートも手厚い。東京のふるさと回帰支援センター内にある相談窓口には静岡県の相談員2名、静岡市の相談員2名、就職相談員1名の5名体制で移住相談者のサポートを行っている。

「都内でのサポート人員の多さはおそらく全国でもトップクラスではないでしょうか。県、市町、民間が一丸となって、移住検討者のサポートを行っています」

 また、住まいに関しては、今月9月よりwebサイト「ふじのくに空き家バンク」を開設した。

「移住者からは『空き家に住みたい』というニーズが非常に高く、それらの声もあり開設しました。まだまだ掲載物件は少ないですが、サイト内には魅力的な広い空間を持つ空き家を掲載し、富士山が見える、海が近い、海が見える、農地付き物件など、静岡ならではの“魅力的な条件”で検索できるようになっています」

 ちなみに、静岡県の賃貸物件の相場は1坪あたり4862円。東京の8824円に比べて約半分となる(「30歳になったら静岡県!」のパンフレット内のデータを引用)。さらに同サイトに掲載されている空き家へ移転すると「移転費助成制度」(※諸条件あり)を利用することもできる。

 手厚い制度を敷いたことで、令和3年度の移住者の8割以上は、20〜40代の比較的若い世代となった。ただ単に人口を増やすだけでなく、静岡県の企業の人材確保を目的に、小さい子どもがいるヤングファミリー層を中心に発信を強化している。

移住先は“夢の国”ではない? 「慎重に検討、デメリットも理解して」

 こうして移住施策に注力する静岡県だが、一方で「移住は焦らずに決めてほしい」と注意喚起する。

「移住を検討している段階では、どうしても良い面ばかりが目に入りやすいので、自分がその土地に合っているかどうか、実際に足を運んで確かめてから決断して欲しい。静岡県内の多くの市町村では、1週間ほど移住先に住める「お試し住宅」を始め、「移住体験セミナー」や「市内(町内)案内」制度を設けています。先ほど話した交流会のセミナーでも、『車移動は必須なのか?』『病院は近所にあるのか?』といった、生活に直結するような情報を先輩移住者などに聞くのが重要です」

 特に首都圏から移住する場合、移住先がどれほど不便なのか、地元の人の話だと共感しにくい部分もあるはずだ。さらに注意したいケースは“密な人間関係”だ。

「よく田舎にのどかさを求めて移住される方もいますが、人が少ないぶんコミュニティが狭いので、かえって窮屈な思いをすることもあります。都会ならマンションの隣人と話すこともあまりありませんが、『この間、あそこのスーパーに行ってたらしいね』など、田舎では近所のスーパーに行ったことを周りの住民に認知されていたりと、村社会的な側面もあります。

 他にも、近所のゴミ掃除や、共用の用水路の掃除をしたり、地元のお祭りに参加を求められたりと、田舎ならではの地域貢献を求められることも多いです。若い人ならより一層、活動の担い手として期待されるでしょう。都会と田舎での人づきあいのギャップを感じる人は多いですし、『周囲に干渉されずに生きていきたい』という人はあまり田舎は向かないように思います」

 ただ、こうした田舎特有の懸念点を挙げつつも、静岡は都会から田舎まで幅広い雰囲気の市町が混合しているところが特徴だ。マンションが林立するようなターミナル駅もあれば、繁華街から10〜20分ほど車を走らせれば、自然に囲まれた豊かな地域にも通ずる。ある意味で静岡県は、都会と田舎を良いとこ取りしている地域と言える。

 移住者によって移住先に求める条件は様々だ。自然・アクセス・食べ物・産業・地域の多様性など、静岡県はその多彩な魅力によって、移住者ニーズをつかんでいる。

※静岡県の移住者数とは、県及び市町の移住相談窓口、移住促進施策等を利用して県外から移住した人数を指す。

(取材・文/佐藤隼秀)

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