ORICON NEWS
「ふるさと納税」寄付額トップクラスの宮崎県、返礼品“宮崎牛”はなぜ人気? 担当者に聞く
優勝力士にまるごと1頭、ハリウッドスターも賞味 宮崎牛の広報戦略
「食べていただければ、宮崎牛の美味しさはすぐにわかっていただけます。きめ細かなサシと、甘く芳醇な香り、口いっぱいに広がるほのかな旨味が特徴で、どの部位も本当に美味しいんです。ふるさと納税で人気の理由はもちろん味わいにもあると思いますが、これまでのブランディングの効果が大きいのではないかと思っています」(宮崎県庁畜産振興課・中武誠司さん)
「宮崎牛にしか描けない“物語”を作りながら、知名度を上げていく必要がありました。そこで手始めに、ブランドが誕生した昭和61年の大相撲11月場所から、優勝力士へ宮崎牛特選肉一頭分を贈呈することにしたんです」
その後、大相撲だけでなく、ゴルフのダンロップフェニックストーナメントの優勝選手や、サッカーJリーグアウォーズの最優秀育成クラブ賞受賞クラブ、さらには宮崎県内で開催される大きなスポーツ大会や県内でスプリングキャンプを実施するスポーツクラブ等に宮崎牛を進呈。知名度アップを図ってきた。
「宮崎牛を知っていただくための地道なブランディングが功を奏し、平成30年にはアメリカ映画界最高峰の第90回アカデミー賞アフターパーティの食材に、宮崎牛が特定産地の和牛として初めて選ばれました。都城市にある霧島酒造株式会社の本格焼酎と共に、第92回まで3年連続で採用されたのですが、ハリウッドのスターや監督たちにも大好評だったと聞いています」
さらに今年の4月には、世界的なゴルフの祭典「マスターズ・トーナメント」のチャンピオンズ・ディナー(マスターズクラブディナー)で、ホストを務めた松山英樹選手が歴代の優勝者たちに振る舞ったメニューでも、宮崎牛が選ばれ話題となった。
ふるさと納税の返礼品は還元率やコスパを重視する人がいる一方で、「特別感のあるもの」を選ぶ人も多い。宮崎牛は戦略的な広報活動によって、そんな「特別感」のイメージ付けに成功した。
某ブランド牛も実は宮崎生まれ? 素牛としても評価される高品質の宮崎牛
「宮崎牛の定義は、まず、宮崎生まれ、宮崎育ちの黒毛和牛種であること。お父さんとなる種雄牛も宮崎県産で、肉質等級が4等級以上。これらの基準を全てクリアできなければ、宮崎牛というブランドを名乗ることはできません」
「別の地域で生まれた子牛でも、その地域で一番長く肥育していれば、ブランド牛を名乗ることができるんです。みなさんよくご存知のあのブランド牛も、実は宮崎生まれだった…なんていうケースも。県外の方にも認められて買われていくほど、宮崎の子牛の質は高いといえます」
そんな宮崎牛の味は「ひとことで言えば『極上』」なんだとか。
「県内には宮崎牛を食べられるレストランや焼肉屋が身近にありますが、気軽に食べられるテーブルミートというよりは、特別な日のご馳走として召し上がる方が多いですね。宮崎牛のおいしさをしっかり味わうためには、できるだけシンプルに味付けするのがおすすめですが、プロモーションサイト(『より良き宮崎牛づくり対策協議会』の公式HP)では宮崎牛を使った新しい料理や食べ方も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください」
海外輸出量は右肩上がりも円安の影響で生産コストが上昇 苦境の中、4連覇に挑む
「去年から今年にかけては、アメリカ向けが特によく伸びています。輸出量もアメリカが一番多い。赤身のお肉を好む方が多い国にも関わらず、霜降り肉の宮崎牛はとても人気で、よく売れています」(宮崎県庁畜産振興課・原田晋平さん)
輸出に関しては円安が追い風になっているのでは? と思いきや、現時点では円安による恩恵よりも、マイナスの影響の方が大きいという。
「肉用牛をはじめとした家畜の餌は、そのほとんどが輸入品なんです。ウクライナ情勢の影響で、ただでさえ手に入りづらくなっているうえ、円安で値上がり。生産コストもお肉を作るのが厳しい状態に陥るほどに上昇し、宮崎だけでなく、畜産業界全体の大きな問題になっています」
そんな苦境の中、来月10月、5年に1度の「和牛のオリンピック」が鹿児島県で開催される(「第12回全国和牛能力共進会 鹿児島大会」)。
「この大会の結果が、その後のブランドの発信に大きく影響することから、どの県もかなり力を入れて取り組んできます。3大会連続で内閣総理大臣賞を受賞しているのは宮崎牛だけ。品質面ではどこにも負けない自信を持っていますが、近江や松坂と肩を並べるためには、まだまだ知名度やブランド力が足りません。今回も、かなり厳しい戦いになるとは思いますが、ぜひ4連覇を達成して、新たな物語を作りたいですね」
国内はもちろん、全世界にむけて宮崎牛の品質の高さと美味しさを発信したいと話す原田さん。今後もEC販売などを活用しながら、さらなるブランド強化を図りたいという。今や世界でも人気の「WAGYU」。近い将来、外国人の食べてみたい日本食として「Miyazaki Wagyu」の名が上がる日がくるかもしれない。
(取材・文/今井洋子)