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“やくせん”ヒットを支えるヤクルトレディ、宅配で築く60年の信頼関係「時代が変わっても求められていくもの」
画期的なシステムだった“主婦”による訪問販売
『Yakult 1000』『Y1000』の爆発的ヒットの理由を、発売元ヤクルト本社の広報担当者はこう推察する。
もともとヤクルトレディによる宅配専用の商品として、2019年10月から地域限定で発売された『Yakult1000』。発売直後よりSNSを中心に「ぐっすり眠れるようになった」「朝起きるのが楽になる」といったクチコミが拡散し、2021年4月に全国発売されるや否や注文が殺到。10月に価格や内容量が異なる店頭販売商品の『Y1000』が登場し、以降、メディアで人気芸能人らが愛飲を公言すると人気はますます加速し、現在でも宅配・店頭どちらも品薄の状態が続いている。
そんなヒットの立役者とも言えるヤクルトレディの誕生は今から約60年前。ヤクルト製品を普及させるための新たな販売員を採用するにあたり、主婦たちに白羽の矢が立てられたのだ。
ノルマなし!90歳以上の現役レディに勤続50年超のベテランも
「ノルマが大変そう、という声をよくいただくのですが、ノルマはありません。モチベーションアップのために“目標”を掲げている事業所はあると思いますが、あくまでも“目標”なので、皆さん安心して働いていただいています」
2022年3月現在、全国で活躍するヤクルトレディは計3万2,680人。全国101の販売会社に所属しながら、『Yakult1000』をはじめとした乳製品や食品、化粧品、サプリメントなど多岐にわたる商品を、各家庭や企業に届けている。
「ヤクルトレディは、1週間で約100軒、1日約20軒を訪問しています。特別な資格や経験がなくても働けますし、定年もないので、90歳以上でも現役のレディさんもいらっしゃいます」
ヤクルトレディの拠点となる「センター」には、自身の子どもを預けることができる保育所も一部併設しているため、家事や育児の隙間時間で稼ぎたい人から、たくさん稼ぎたい人まで、ライフスタイルに合わせた多様な働き方ができ、30年、40年と続けている人も珍しくないそうだ。
「数年に一度、国内外の優秀なヤクルトレディを表彰する、「ヤクルト世界大会」を開催しているのですが、そこでは、勤続50年以上のベテランレディが表彰されます。今、ヤクルトは日本を含めて世界の40の国と地域で販売されているのですが、東南アジア、メキシコ、ブラジルなど14の国と地域で、日本と同様にヤクルトレディが活躍しています」
ちなみに、ヤクルトレディが着用している制服は、女性の制服としてはかつて日本一の数量だったこともあるそう。
「直近では2020年に冬制服をリニューアルしています。リニューアルを行う際は、全国各地のヤクルトレディによるデザイン選考調査や着用テストによる改良を重ねて、最終的なデザインが決定します。制服の他、夏場の酷暑対策として保冷剤を入れられる仕様のスカーフの採用や、ジャケットにファンのついた空調服の導入など、ヤクルトレディのアイデアから取り入れられることも少なくありません」
「企業販売」は相互メリット 50年間続く“愛の訪問活動”の現状は…
「社員の皆さんの健康増進、福利厚生の一環としてご利用いただいている企業さまも多いようです。お仕事中に「おはようございます! ヤクルトです!」と挨拶するヤクルトレディの声が響くと『気分転換になる』『癒される』というお声もいただいています」
オフィスでは、より多くの人に商品の魅力がアピールできる上、まとまった売上も見込める。一般家庭と違って留守が絶対ないのも販売側にとっては大きなメリット。企業にとっても手軽においしく社員の健康増進が実現でき、まさに両者ウインウインの関係と言えそうだ。
そんなヤクルトレディの地域に密着した販売システムは、1972年から続く「愛の訪問活動」にも、おおいに活用されている。
「『愛の訪問活動』とは、地元自治体と販売会社との契約に基づき、安否確認を兼ねてヤクルトレディが一人暮らしの高齢者のご自宅を定期的に訪問し、商品のお届けをするという取り組みです。きっかけとなったのは、福島県郡山市に住む、あるヤクルトレディでした。担当地域で一人暮らしの高齢者が孤独死されたことを知って心を痛めた彼女は、同じ悲劇が繰り返されないよう、一人暮らしの高齢者のお宅に自費で購入した商品を届け始めました。このレディさんの行動に、他の販売会社や民生委員が共鳴。やがては自治体も動かし、『愛の訪問活動』として広がっていきました」
2022年3月時点、全国120の自治体が販売会社と契約。2,650人のヤクルトレディが、3万5279人の高齢者に対して活動を行っている。
「毎年9月には、敬老の日に合わせて、『愛の訪問活動」で訪問している高齢者にお花とメッセージカードをお届けする取り組みも。ヤクルトレディを娘のように感じ、お話しできるのを楽しみにされているという高齢者の声を本当によく聞くので、私たちも非常に嬉しく思っています。」
宅配だからこそ築ける信頼関係「時代が変わっても求められていくもの」
「コロナ禍前は、宅配にマイナスイメージを持たれていた方にも、改めてその利便性が見直されているようです。宅配サービスの種類も増え、利用者層も拡大しつつある中、毎週同じ人が訪問するというヤクルトならではの、安心感はあると思います。お客さまと直接触れ合う中で築かれる信頼関係や、お客さまを思う気持ちというのは、どんなに時代が変わっても求められていくものなのではないかと思います」
しかしながら一方で、ヤクルトレディの数はおよそ6万人をピークに減少し、直近の10年で1万人ほど減っているという現実も。
「このような状況を受け、ヤクルトレディの皆さんが希望するライフプランに合った働き方ができ、また、キャリアアップの道や収入面での安定を図れるように、これまでとは違った形の働き方もできるよう準備を進めているところです」
宅配システムのデジタル化が進む中にあっても、「今後も販売の主軸はヤクルトレディ」と言い切る武田さん。就業形態、業務の見直しによって人員確保につなげたいという。
最後に、いまだ入手困難な『Yakult1000』『Y1000』の気になる生産体制と今後の展望について広報室に聞くと、「『Y1000』は年内のさらなる増強を計画。『Yakult1000』は今秋の生産体制強化に向けて準備を進めているところ」という。
現在、販売本数は『Yakult1000』1日平均157万3000本、『Y1000』1日平均29万3000本。ヤクルト本社では今後、それぞれ1日平均180万本、41万本を予想している。ヤクルトレディたちが支える大ヒット飲料のブームはまだまだ続きそうだ。
(取材・文/今井洋子)