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ザク、キュベレイ制作の背景にある、“生みの親”への敬意 「ガンプラ作りで一番大事なのは、元の作品へのリスペクトを忘れないこと」
『MGザクII』を手に入れたことが、“釣り目のザク”への扉を開いた
「劇場版のアートワークの中でも一番好きなのがこのザクのイラストでした。マシンガンを握ってこちらにコブシを向けている力強いポーズと、まっすぐにこちらを睨む釣り目のザクの鮮烈な印象がずっと自分の中に残りました」
“大河原デザイン”の魅力を「経験とノウハウからくるバリエーションの豊富さ。タツノコプロ時代に多くの“やられメカ”やコミカルな“面白メカ”をデザインしてきた経験、そしてプロダクトデザイナーとして立体として意識されたものを考え、描ける力。さらにミリタリーへの造詣の深さ」と語る同氏。
そんな“大河原ザク”への想いを抱いたまま、ある日「ガンダムEXPO」限定発売された「1/100 MGザクII Ver.2(リアルタイプ)」を手にしたが…。
「箱を開けたら成型色が旧リアルタイプと似ても似つかないような鮮やかな緑で…。これは塗装しないとそのまま作れない…。と思ってしばらく放置していました。そんな時に、オリコンさんのガンプラの記事で、n兄さんが制作された大河原先生のイラストをモチーフにしたザクを見ました。まるでフィギュアのように旧キットが作られていて、大河原先生のイラストが見事に再現されていたのが印象的でした。せっかく塗装もするならn兄さんとは違うアプローチで改造もしてみたいと思ったこと、が重なって制作することにしました」
「大河原ザク」へのこだわりは強く、「イラストのイメージをどう再現するのか」深く悩んだという。
「一番は顔です。睨んでいるような釣り目、そして正面を向いたダクト。これを再現するために3回ダクトを作り直しました。釣り目も最後の最後にひさしの真ん中にプラ板を貼って再現しました。また、イラストは下から煽っている構図であごをひいて睨んでいますが、通常のザクの首の長さではいくらあごを引かせてもどうしてもそうならないんです。このために、イラスト構図の写真専用でスペーサーとなるパーツを、使わないザクマシンガンのマガジンを改造して作り、イラスト構図の写真の時だけかませています」
「大河原先生、安彦先生(安彦良和氏=『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインなどを担当)は、やはり自分のようなファースト世代、ガンプラブーム世代にとっては神のような存在」と話す同氏。ガンプラを制作するとき、この“神”へのリスペクトを大切にしていると語る。
「プラモデルを作るうえで一番なのは『楽しむこと』だと思います。あとは、『元の作品へのリスペクトを忘れないこと』『そのMSに対しての自分の中のイメージをどれだけ再現できるのか』ですね」
直線と曲線をうまく組み合わせた永野さんのデザインは惚れ惚れする
「2018年に公開された劇場作品『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』の劇中のストーリーと設定からヒントをいただきました。悲劇の最期を迎え、ニュータイプ研究施設で検体となった少女と、その少女の魂を宿したパイロット無人のMSをモデルに、ララァとキュベレイを重ねてみました。ありがちな『もしもララァが生きていたら』という機体設定ではなく、『ララァの魂を宿したMS』というコンセプトで制作することに至りました」
キュベレイといえば、アクシズ(のちのネオジオン)の女性指導者にして、MSのパイロットとしても高い技量を誇るハマーン・カーンの専用機。なぜその機体を、同じ女性のララア・スンをイメージしたのだろうか?
「キュベレイの開発コード〈L-MES2〉=ララァの専用モビルアーマーの名称を受け継いでいる機体という点も考慮し、キュベレイである必然性につながっています。また、後の作品において、回想場面で白鳥を模した姿でララァが登場するシーンが記憶にありました。水鳥のようなしなやかな曲線の躯体を持つキュベレイは、そんなイメージにもぴったりとハマり、持ってこいでした」
インパクトのある色にばかり目がいきがちだが、K1さんが意識したのは、キュベレイの“しなやかな曲線”。どこか女性的な曲線美を最大限に生かしたカスタムには、キュベレイのデザインを手がけた永野護氏への尊敬が感じられる。
「『重戦機エルガイム』など、永野さんの携わった作品は全て好きなんですよね。曲線と直線を上手く組み合わせ、細身でありながら力強さと重量感を表現されたデザインは、本当に惚れ惚れしています。今回のカスタムも、永野さんの美しいデザインを損なわないように気を付けながら、本体は最小限のディテール追加に留め背面のブースタータンクや各所の推進装置の変更や追加をメインに弄りました」
オリジナルの機体デザインを生かしたカスタムと、ララア・スンの想いという「if設定」が話題を呼び、大きな反響につながった。
「『ララァの魂が宿る機体に胸が熱くなりました』『妄想が膨らみます』といったように、作品から何らかのインスピレーションを感じ取ってくれたようなコメントは格別にうれしいものでした。これからもどんどん作品を作っていきたいと思います」