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(更新: ORICON NEWS

水族館ブーム火付け役語る、加速する“商業化”への危機感「命を展示する覚悟ない者が増えている」

 かつてはデートや家族連れのお出かけ先の定番だった水族館が、近年インスタ映えスポットとして再注目されている。プロジェクションマッピングなどの演出で話題を集める水族館が増えている一方、「照明が過激すぎるのでは」「生物がかわいそう」といった批判の声も挙がっている。生き物の展示の意義について議論が巻き起こっている中、国内唯一の水族館プロデューサーとして、新江ノ島水族館やサンシャイン水族館など日本中の水槽展示を手掛けてきた中村元氏に水族館の意義や在り方を聞いた。

ラッコブームが巻き起こした水族館革命―”見世物”から観光スポット、デートスポットへ

 昭和30年(1950年)頃から、日本各地の観光エリアに続々と誕生した水族館。当時は“魚の見世物”で、来館者は修学旅行生や団体旅行客がほとんどだったという。そんな中、ラッコの登場が日本の水族館の歴史における大きな分岐点となる。

「今でこそ人気のイルカも当時は認知度が低く、集客の面ではどうしても動物園に敵いませんでした。そこで、アメリカからラッコを連れてきてメディアに取り上げてもらったところ、一躍人気を集め、一時は全国で120頭以上飼われるほどの大ブームに。それを機に来客数が急増し、水族館もようやく“観光スポット”として認知されるようになりました」(中村氏/以下同)
 その後、1990年代のバブル期には、神戸の須磨海浜水族園、大阪の海遊館、横浜の八景島シーパラダイスなど、100億円以上の資金を投入した大規模な水族館が続々と誕生。当時、鳥羽水族館の企画室長を務めていた中村氏は、これまで“子ども向けの施設”と捉えられていた水族館を”大人向けの水族館”へとイメージチェンジを図る。

「これまでは科学的展示が主流だったなか、1990年の鳥羽水族館のリニューアルを機に、デートができるような、おしゃれな大人向けの水族館というイメージを打ち出しました。それが大成功し、リニューアル後の来館者数は70万から280万人に急増しました。その後、2011年にサンシャイン水族館のリニューアルを手がけた際には、ペンギンが頭上の水槽を泳ぐことで空を飛んでいるように見える『天空のペンギン』などの展示が人気を集め、友達同士やカップルに多く来ていただけるようになりました」

「プロジェクションマッピングは本末転倒」商業化が加速する水族館業界の“闇”

 サンシャイン水族館においても、年間来場者数70万から220万に飛躍。中村さんの手によって、かつては“魚の見世物”だった水族館が、全国的に観光施設、デートスポットと需要の広がりを見せていった。すると2000年以降、水族館が“商業施設”として着目され始める。商業化はアミューズメント化を促し、プロジェクションマッピングやデジタルアートを駆使した新施設が相次いで誕生した。中村氏は、水族館がアミューズメント化しつつある傾向に業界全体の危機感を抱いている。

「バブル崩壊以降、水族館の小型化が進み、近年はファンドなどで出資者を集めて水族館を作る動きが主流になりつつあります。その結果、効率よく利益を出し、いつでも撤退できるような形態での運営が増えています。そもそもプロジェクションマッピングは光が通り抜けてしまう水槽には投影できないので、水族館と相性が悪いはずなのですが、新江ノ島水族館が夜間の集客増に成功したことを勘違いして導入する水族館が増えているのです。水槽での展示に自信がない素人たちの水族館づくりが増えていることが大きな問題だと感じています」
 一部の施設では水槽や水面上に花火を投影したり、イルカショーの最中にカクテル光線やプロジェクションマッピングを当てる演出が行われている現状に対し、中村氏は疑問を唱える。

「映えて客受けするからってそういった演出をするのは、展示している命たちに対して許されないことだと思ってます。光を当てて色をつけることで動物本来の姿が見えなくなってしまうのでは、本末転倒です。生きている命を見せて伝えるという基本を大切にすることで水族館は存在を許されています。だからアートとアクアリウムが融合したらもはや水族館ではなく、そういった演出をしている水族館は全体から見たら少ないのに、メディアがそれが新しい形の水族館だと話題にすることでブームと思われてしまうんです」

「本来、ペンギンは岩場でボーとしていない」知識も覚悟もない“架空”の展示への疑問

 中村氏は水族館で生物を閉じ込めていることに対し、商業化の一端を担ってしまったという自責の念を抱き続けていると語る。彼が考える命を展示する意味、そして水族館の意義・在り方とは。

「水族館に携わる者として大切なのは、生きている命を展示する覚悟です。僕は過去にラッコブームを生んだ者として反省があるんです。本来であれば、野生で家族と過ごせる人生だったのが、狭い水槽で決まった相手と過ごして、生まれた子どもは一生海を知らない。そこまでして連れてこられる理由はなんだろうってずっと考えていて。“子どもの教育や研究、園館内での種の保存”とよく言いますが、そんなことが野生生物を閉じ込める理由になるのだろうかと。本来はね、水族館は大人を中心とした国民に教養を提供する社会教育施設だし、研究や種の保存は生息地で行うべきでしょ。だから、僕の結論は、生き物や彼らがいる水中の世界があることを人間社会に伝えることに意味があるというだけ。『イルカを水族館で飼うな』と主張している人もいますが、それはやっぱり水族館でイルカを見て好きになったからなんですよね。そういう人を育てるのも水族館の仕事です。映像だけで見ていてもその生物を本当に愛おしくはならないし、実在のものにならない。彼らと実際に会って命を感じて、見えない水中世界のことを考えることができる人を増やすために、代表選手として来てもらっているんです。連れてこられた子達には申し訳ないけど、彼らの身内や種にとっては良いことが起きると信じています。というより、連れてきた者の責務として、良いことが起きるようにしなければならない」
 水族館の展示を手がけるに当たり、中村氏は世界各地の動物の生息地に足を運んできた。実際にその動物が暮らしている姿を見てきたからこそ、見た人の心を突き動かす展示ができると語る。

「例えば、温帯のペンギンは岩の家の前に突っ立っている展示がほとんどですが、自然界に岩の家なんてなくて、本来は土や砂を掘ったりブッシュの陰を好むんです。そもそも昼間はほとんど海原に出て餌を探している。でも、水族館や動物園のほとんどが実際にその様子を見たことがないから、陸上にボーと立ったままにしてしまう。そうすると、年間何百万人の人がペンギンは陸上でボーとしてる鳥だと勘違いしてしまいますよね。それほど水族館展示が与える影響は大きいですし、それでは命を展示する覚悟があるとはとても言えないと思います」

釣り堀や寿司屋を併設する水族館も “食育”も重要な役割「生き物に恥ずかしくない展示を」

 命を展示することは、“食育”においても大きな意義を果たしている。水産業と深い関わりをもつ水族館は、命をいただいていることを改めて実感することができる場でもあるのだ。
「子どもの体験学習で、刺身と焼き魚は別の生き物だと思っていた子がいて、食育の重要性を再確認したんです。水族館で魚を見るとみんな『美味しそう』っていう言葉が出てくるんですよね。それは殺して食べたいという残酷な気持ちではなく、魚に対しての褒め言葉なんです。日本には『いただきます』という言葉があるように、命をいただいている意識が根付いていますが、そういうことも生きている魚を見ないと実感が湧かないですよね。例えばアクアマリンふくしまでは館内で釣り堀体験を行なっていたり、大水槽の前にお寿司屋さんがあったり。北の大地の水族館ではイトウが生きた魚を捕らえて食べる『いただきますライブ』という食育イベントが行われています」

 展示方法の変化とともに、水族館本来の存在意義が変化しつつある今、中村氏が思い描く理想の水族館とは。

「いわゆる生物学を知っても、我々の生活や人生にあまり役立たないですよね。それよりも、多様な生き物たちがどんな環境でどんな戦略で生きているのかなどが発見できること、さらには同じ命として同調して未来を共有できることが大切だと思っています。見た人の心を動かせるような、囚われている生き物に恥ずかしくない水族館にしたいです」


(取材・文=鈴木ゆかり)

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