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東野幸治、“私見語らない”MCスキルの特異性 いまやTV界最重要人物に
私見を言わずとも立ち回れる、『ワイドナショー』で見せる東野の特異性
結果“白い悪魔”、滝沢カレンからは「薄情大王」というあだ名までつけられたが、近年、その評価が大幅に変化していることは周知のとおり。
その代表が『ワイドナショー』(フジ系)でのMCだ。松本人志、東野を中心に、俳優やタレント、知識人などがゲスト出演。世の中をにぎわせる時事ネタを私見で語り合う番組。そこで松本は、雨上がり決死隊解散の放送を受け、とうとうと私見を述べたが、東野は、必要以上なことは何もせず、何も言わず、場を回すことに徹底。長谷川まさ子に振られて初めて話し出すという状況だった。
「東野さんのすごさは、私見を言わなくてもOKで、それが許されるという空気を醸成していること」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「最近、多くのお笑い芸人が、様々な情報番組に出演していますが、そこでは当然、毒っ気のある私見が求められ、時には批判されることも。苦心する芸人はおそらく相当多いでしょうが、東野さんは相槌もしくは薄笑いを浮かべているだけで場を成立させてしまう。雨上がり解散報告の番組でも、ボロ泣きのフジモンさんを尻目に『ケツがあるから早くして』と“薄情っぷり”で爆笑の渦に。それぞれが個人的な想いを述べる中、異彩を放っていました」
雨上がりだけではない、後輩をフックアップしてきた功績
後輩たちのフックアップは元々、東野が得意とすることでもある。
これについて、2020年7月放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に出演した品川祐は「東野さんはもっと認められてもいい。芸人からは“カリスマ的に面白い人”として見られているにも関わらず、世間には“オモシロ司会者”のイメージ」と熱弁。『どうした!? 品川』(2012年放送)、『帰ろか…千鳥』(2014年放送)、『スゴイんだぞ!西野さん』(2016年放送)の3部作を振り返っての発言だ。
例えば『どうした!? 品川』では、品川が、人のトークを横取りしてでも喋り倒して他芸人が辟易する姿に、東野は「お笑い軽犯罪法違反」とツッコミ。『スゴイんだぞ! 西野さん』では、本企画の主役キングコング・西野亮廣の著書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(主婦と生活社)の1文「ドキドキしてる?」を面白がり、登場した西野を「ドキドキしていますか?」とイジったほか、それを本人に朗読させるという暴挙まで。西野の憮然とした表情とセットで爆笑が生まれた。
その後、千鳥は東京でもブレイク、西野はカリスマとなりオンラインサロンも成功。東野発信で後輩がスターになっていく様は過去から散見されることである。
「“血が通ってない”とイジられがちな東野さんですが、後輩を面白く見せようという後輩想いの一面がある。2013年に出した著書『この間。』では、家族や娘への愛を語っている。もともと根っこの部分は深い優しさがある人だということが読み取れ、“優しさ”が表に出てくるようになったのは、離婚を経て復縁した流れ、昨年孫が生まれおじいちゃんに…という部分も関係しているのかもしれません」(衣輪氏)
苦労を強いられたからこそ… “優しさ”と“狂気”を併せ持つオンリーワンのMCに
かように今田と言えば、ゴールデン帯でのMCをバンバン決めてきたオールマイティーな芸人で、さらには器用なイメージがある。その華やかさから、Wコージでは今田がスターとしては一歩先達で、東野は後塵を拝していたと見る視聴者もいるだろう。
「でもそれは正確ではなく、厳密に言えば進んできた道が、王道か、王道じゃないかの差。今田さんはMCの卓越さで王道の道を歩んできましたが、東野さんは『あらびき団』(TBS系)など、本人曰く“排水溝の泥をすするような番組をやってきた”」(衣輪氏)
フリーランスのTVディレクター三谷氏がひたする街頭インタビューをするYouTubeチャンネル『街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜』で、東野は「番組に寄せられる一般人の笑いが面白くなかった。でもある素材で一生懸命面白くしようとしていたらこんな芸風になった。黙っていたら面白くないってなるから仕方がない」と明かしている。
「東野さんは8年ほど前から、さんまさんの司会マインドを真似し始めたと語ってらっしゃいます。面白くない人を面白くないと思うより、“こいつ面白くないなぁ!(笑)”と乗っかって面白がる方が幸せだと言うのです。昨今のMCは、つまらない時はつまらないという顔をするのが王道。その忖度しない姿勢で本音や私見が刺さるからです。ですが東野さんは逆。しかし、現役ディレクターである三谷氏は東野さんの王道とは逆のスタンスについて同チャンネルで“面白くないものでも面白くしてくれるからありがたい”と述べていました」(同氏)
近年“優しい一面”を解禁した東野。ひな壇に座れば、毒がある鋭利なツッコミと暴走キャラが復活し、本当に血も涙もないというツッコミや煽りをしている。しかしMCとなればしっかりと周りを見て進行することを徹底。そのバランス感覚を保ち、芸人としての立ち位置を固定させない立ち居振る舞いができているからこそ、需要がさらに高まる。今となっては、お笑い界に欠かせない重要人物になっているのではないだろうか。
(文/中野ナガ)