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広告代理店が“社会を牛耳る”ほどの影響力があるってホント? 東京五輪から見えた問題点と未来

 昨今、広告代理店が社会的に“ヒール的ポジション”で扱われる言説をよく見かける。いわく「世論を操ろうとしている」、いわく「ブームをゴリ押ししている」、いわく「社会を牛耳ろうとしている」――。昨今では五輪関連の“中抜き”も取り沙汰され、 特に電通は“フィクサー(黒幕)”的な立ち位置で語られている。果たして、これらは全て本当のことなのだろうか? そもそも広告代理店の本懐とは何なのか? 大手の広告代理店より独立し現在は広告やPRの枠を超えたクリエイティブで注目されているThe Breakthrough Company GO代表のクリエイティブディレクター・三浦崇宏氏に話を聞いた。

広告代理店は大手であっても、“下請け”であり“調整役”に過ぎない

 「結論から言うと、広告代理店にそんな力なんてないんですよ!」。開口一番、三浦氏は断言する。「広告代理店は、企業の宣伝部からしてみたら下請けなんです。」(同氏/以下同)

 論を続ける前にまず、そもそも広告代理店とは、文字通りクライアント企業の広告活動を代理で行う企業を指す。たとえば、大手広告代理店の代表格である電通は、テレビ局と新聞社をマネタイズするために作られた。電通には独特の言い回しがあり「媒体を背負う、仕切る」という表現をする。これはTVCMや新聞紙の広告面などを「売り切る」という覚悟の現れであり、メディアをマネタイズするというのが電通の元々の仕事だと考えてもらって良い。

 一方で博報堂。こちらはメーカーが自分の商品を世に知らしめたい…その広告を作るために生まれた。博報堂はクライアントの広告をするため、電通はマネタイズするため。実は成り立ちがまったく異なると三浦氏は語る。

「そういう意味で話しますと、五輪もいわば大きなメディアの一つ。電通は日本の名だたる企業に対して五輪というメディアに関わる権利を売っていたんです。それが何故、電通だったのか。簡単な話で、この規模の仕事が出来る会社ってそんなにないんですよ。日本中のすべてのメディアと関係が深く、あらゆる企業に対して何十億という取引を担当でき、時には何百億という取引でその金額を先に支払ったりする場合もある。国家的な規模の事業を担当できる大人数の社員がいて、なおかつうかつに倒産することはない。そこまで体力がある会社は日本にはほぼない。ある意味、消去法で電通しかできないんです」

 “中抜き”も抜き方だけが問題。“中抜き”イコール“悪”なのであれば例えばどんな商社や不動産だって立ち行かない。「支配者とか中抜きと言われますが、“調整役”に近い仕事だと思ってもらっていい。つまり広告代理店に社会を牛耳る力なんてないというのが結論です」

問題点は“情報開示”がないこと グローバルスタンダードのインストールも不足

  • PR・クリエイティブディレクターの三浦崇宏氏(The Breakthrough Company GO代表)

    PR・クリエイティブディレクターの三浦崇宏氏(The Breakthrough Company GO代表)

 では五輪では何故、ここまで辛らつに広告代理店の“中抜き”が批判されてきたのか。それは広告代理店の“体質”にある。「広告代理店はクライアントのブランディングや情報発信をする会社ですが、自社をブランディングしたり情報発信をしてはいけないという哲学が存在します。何故かというと広告代理店は、あくまでクライアントの黒子。おおっぴらに“こんな仕事をしています”というのは恥ずかしいという文化がある。商品を売る仕事をしているのに、商品の前に出て目立つのは言語道断であるということです」

 さらには新商品の情報について守秘義務もあるため、情報漏洩の予防のためでもある。つまり大手広告代理店は、秘匿が多すぎる上に自社について発信しない。SNSで誰もが発信できる時代に「あんなに権力があるのに何も発信しない。後ろめたいことがあるんじゃないか」という穿った言説も出てくる。だが大手代理店は自社の哲学から反論もしない。結果、言われたい放題のサンドバッグ=仮想敵になり、これが独り歩きしているのが現状だ。

 「とは言え問題なのは、今回が五輪だと言うこと。五輪は税金によって賄われる。税金ということは国民のお金。企業の場合はオープンにできない案件もあるため、業務の実態を発信できなかった。だが五輪をはじめ、国の公共事業的なものに関しては今後、しっかり情報開示していく必要があると思います。どこにいくら使ったか、どういうお金の流れになっているか。どういう体制で運営していくのか。国民のお金なのですから、業界の慣習に縛られるのではなく、そこをオープンにできる仕組みをしっかりと作っていくことが大手広告代理店の今後の課題でしょう」

 そして五輪での不祥事で言うと、あれだけ多くの担当者が解雇されたり、コロコロと変わったことにも触れざるを得ない。「まずは担当者の差別的な不適切発言について。これは社会全体の問題で、モラルや人権意識のグローバルスタンダードが学べていない人が業界内や権力の中心に多くいるのが原因です。日本は島国的というか内輪で面白いものを作るのが得意な文化ですが、五輪のような国際イベントではその感覚は通用しない。人種、国籍はもちろん、ジェンダーやルッキズム、ハラスメントetc。何が良くて何がNGか。2021年8月の最新版グローバルスタンダードをインストールすること。これが広告業界、メディアの急務であると考えます」

TVCMを取り下げたトヨタの評判が上がったのは何故か? 広告業界の変化とも関係が

 また今回は五輪関係者の過去の発言が炎上した例もあった。インターネットが普及した現代において、デジタルタトゥーという言葉に代表されるように、自分の過去の発言が現在まで追いかけてくる特徴がある。これを「表現者にとって窮屈になった」の一言で片付けてはいけない。「もし自分の良くない過去が掘り起こされたらどうすれば良いか。謝罪だけではダメ。重要なのは“償う”という“アクション”。悔い改め禊をし、そこで初めてマイナスからゼロに。ゼロからプラスにしていく新たな活動は、それが終わったあとです」

 この“アクション”は昨今の広告業界でもトレンドであり、その代表例が、今回で言えばトヨタだ。トヨタは新型コロナウィルスの感染拡大や、多くの不祥事を受け、自社のCMを取り下げる決断をした。結果トヨタの評価が上がるという、これまでの広告業界とは違った動きだ。

 「これは大事な概念で、我々は“ブランドアクション”と呼んでいます。例えば環境を意識しようという単なるメッセージを発信するよりも、実際の行動こそが企業のブランドを作るということ。アパレルブランドなら、「サスティナブル」を訴える広告をするよりも、実際に再生素材を使った方がはるかにサステナブルな企業であることが伝わる。今はCMなど映像表現だけではなく行動でブランドを作っていく時代。トヨタさんはまさに“ブランドアクション”を起こしブランドを高めたと言えます」

 ともかく賛否両論の東京五輪。だが無観客であったことで、奇しくも新たな“五輪の在り方”が見えた。「五輪が、応援によるナショナリズムの高揚の大会から、アスリートが国を背負わず、個人と個人で楽しみながら競い合うという場面も多く見られました。象徴的だったのがスケボー競技で多くの選手がAirPodsをつけていたこと。周りの音や声援も聞こえないわけですから、彼ら彼女らには国民の応援もそれほど関係がなく競技しているのです。国より個という姿が皮肉にも無観客から見えた。今回の五輪は実は、国家のナショナリズムのための五輪から、アスリートが国境を越えて交流し楽しむための五輪への変化という点で将来的にエポックになるかもしれません」と語る。さまざまな問題が浮き彫りになった今大会だが、この五輪は広告業界のみならず、我々にとってもターニングポイントになるかもしれない。

(取材・文/衣輪晋一)
■三浦崇宏氏
The Breakthrough Company GO代表/PR・クリエイティブディレクター
Twitter:@TAKAHIRO3IURA
The Breakthrough Company GO
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『超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす』
『何者かになりたい』

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