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「お日様はあたたかいって知った」7年間も閉じ込められた母猫、病魔に倒れるも幸せつかんだ最期の日々
生まれた子猫は雄猫に食べられ…、「家が汚れるから」猫たちを閉じ込めた飼い主
「不妊手術をしていなかったので、発情期となった猫たちの声はすごかったようです。その状況を知り、心を痛めた住人の方が通報してくださいました」と溝上氏は振り返る。あまりにもひどい現状を知った地元ボランティアの人は、「絶対に助け出す」と決意。『ねこけん』もレスキューすべく、地元ボランティアの人にアドバイスを送りながら時間をかけて飼い主と話し合い、説得。所有権を手放してもらうことに成功した。
なぜ、そんなひどい状態で猫を飼い続けているのか。飼い主によると、「家が汚れるから」という理由でマーチたちをケージに閉じ込めていたそうだ。猫を何匹も飼えば、餌代だってバカにならない。どこかに愛情はあったのかもしれないが、飼い主失格だということは間違いないだろう。
やっと自由を満喫するも病に倒れたマーチ、「やれることは全部やった」
それでも『ねこけん』メンバーは、時間をかけ、愛情をかけ、語りかけ、寄り添った。やがてマーチたちは1歩ずつケージの外の世界を知る。最初はケージから出ても、必死に隠れるだけだったが、あたたかな日差し、楽しいおもちゃ、いつでも自由に食べられるご飯、好きなときに水を飲め、好きな場所で寝ることができる、そんな自由を初めて知ったのである。いつしか顔つきも穏やかに、ふっくらとしてきたマーチたち。ケージにいたのころの険しい表情はもうない。メンバーたちにも思いっきり甘えるようになった。「やっと幸せになれるね」と、溝上氏も思っていた矢先のことである。
マーチが吐血した。
エコー検査、内視鏡、おなかを7センチも切る開腹検査を受けた結果、悪性リンパ腫であることが発覚した。「抗がん剤によってリンパ腫は身を潜めますが、再発率は100%。それがリンパ腫の特徴なんです」。
こうして、マーチと『ねこけん』メンバーの闘病生活が始まった。抗がん剤は副作用があり、つらい姿を見たくなくて投与をためらう飼い主もいるほど。だが、マーチにとって過去のつらい7年間は取り戻せなくとも、幸せな未来は作れる。マーチが明日に向かって生きるため、負けない、負けたくない。マーチとメンバーの気持ちはひとつになっていたはずだ。
それから3年、マーチは預かりボランティアの家で穏やかな日々を過ごした。
「悪性リンパ腫が発症すると、1年もてばいいと言われています。マーチもやはり再発してしまいましたが、メンバーの家でとても幸せそうな姿を見ることができました」。
愛情いっぱいに過ごした3年間。マーチが心の中でどう思っていたのかはわからないが、きっと幸せだったのではないか。「やれることは全部やったと思います。悔いはありません」と溝上氏は語る。「ただ、マーチのように閉じ込められるケースは、猫でも犬でもよくあること。そんな思いをする子たちが、少しでもいなくなればいいと思います」
満月が夜空を照らす中、マーチはいつものように可愛い寝顔で眠りにつくと、そのまま旅立っていった。マーチの子どもたちは、みんな優しい家族と出会い、今は幸せに暮らしている。7年間つらい思いをしたマーチも、今はきっと虹の橋の上から子どもたちの幸せを見守っていることだろう。
(文:今 泉)
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