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大河ドラマ「もう一人の主役」 経験値を積んだ草なぎ剛、“静”の演技で真価
動の吉沢、静の草なぎ…、『青天を衝け』の演技に高評価
当初は、能面のように何を考えているかわからない表情を見せていたが、回を重ねるごとに慶喜の出番が増え、様々な演技で視聴者を強く惹きつけていく。特に慶喜と井伊直弼(岸谷五朗)が絡む第8話、第9話では、SNSでも「深くて繊細な表情」「台詞以外でも溢れ出てくる、気品とカリスマ性、人間の大きさ。血管まで演技だなんて…すごい俳優だな」とにぎわった。なかでも、斉昭の死を知った慶喜の様には、「眼球のみで演技する」など”目の演技”を絶賛する声が続出していた。
冒頭のわずかな登場シーンですでに“二人の物語”を予感させていたように、回が進むにつれ、ますます“もう一人の主役”と化してきている。動の吉沢、静の草なぎと、ドラマに良いテンポをもたらしているようだ。
「埋もれなくて良かった」、地上波連ドラで見せる演技の価値
もちろん、地上波テレビに出ていなくとも、映画界での評価も高い草なぎ。ジャニーズ事務所退所後も、単独で3作の映画に出演し、特に『ミッドナイトスワン』ではアカデミー主演男優賞を受賞するなど高い評価を受けている。同作で演じたトランスジェンダーの凪沙は、姪の一果を守る目的を持ったことで、荒んだ表情から変化し、”母”の顔すらも見せるようになる。草なぎがよく“憑依型”と言われるのも納得の演技だった。
ただ、草なぎはもともと、テレビを主軸に活躍してきたタレント、俳優である。卓越した演技力と存在感を持っていただけに、テレビドラマという身近な場所で草なぎの演技が観られないことは、ジャニーズ云々を抜きにしても、ドラマ界全体の損失に思えたのではないか。だからこそ、今回の大河ドラマでの演技に価値を見出す人も多いのだろう。
“静”の演技に滲み出す草なぎ自身、SMAPフィルターなき今こそ役者として評価
このような草なぎの”静”の演技には、おそらく本人のパーソナリティの奥深さも影響しているように思う。基本的には非常に静かで穏やかで、内に秘めた情熱を感じさせる一方で、『「ぷっ」スマ』(テレビ朝日系)などでは、ときに幼児のようにはしゃぐ無邪気で天真爛漫な面を見せてきた。それはSMAP時代から一貫しており、落ち着いた佇まいや静けさ、穏やかさの奥に、何かとんでもなく熱いものや面白いものを抱いていそうな“わからなさ”があるのだ。劇作家・演出家の故・つかこうへいさんは、そんな草なぎに対して「彼の中にケモノが眠る」と評している。
そういった内に秘めたものがじわじわと静かに表ににじみ出てくるのが、『青天を衝け』での“静”の演技だ。本人も慶喜役について「つかみどころがない」と語っているが、ある意味それは草なぎを評する周りの人々の印象でもある。そうした本質的な類似性が、うまく作用している部分もあるかもしれない。
現在、同作で年若い将軍の後見役に任命されている慶喜。経験や落ち着きを求められる役柄であるが、草なぎ自身もまた、これまで積み上げた経験値、今の年齢ならではの深みをもって自然に表現している。SMAP時代ももちろん演技派として認められていたが、グループの存在感があまりに大きかったこともあり、どうしても「SMAPの草なぎ」というフィルターがかけられていたように思う。だが、長い時間と様々な経緯を経て、ようやくそれらを脱ぎ捨てた。今こそ、本当の意味で“役者”として評価されるときが来たと言える。
(文:田幸和歌子)