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大河ドラマ「もう一人の主役」 経験値を積んだ草なぎ剛、“静”の演技で真価

  • 草なぎ剛【撮影/上野留加】 (C)ORICON NewS inc.

    草なぎ剛【撮影/上野留加】 (C)ORICON NewS inc.

 NHK大河ドラマ『青天を衝け』の徳川慶喜役で、大きな注目を集めている草なぎ剛。久々の地上波プライムタイムの連ドラ出演には、「またテレビで演技が観られて良かった」「埋もれなくて良かった」との反響も寄せられている。同作であらためて知らしめた演技の価値、そして“静”の演技の源とは? “SMAPフィルター”が外れ、様々な経験を経て至った現在だからこその、役者としての真価に迫る。

動の吉沢、静の草なぎ…、『青天を衝け』の演技に高評価

 吉沢亮主演のNHK大河ドラマ『青天を衝け』において、徳川慶喜を演じる草なぎ剛の演技が話題となっている。視聴者を釘付けにしたのは、実は第1話の冒頭から。草むらから渋沢栄一(吉沢)が飛び出して追いすがり、対面を果たすのが徳川慶喜(草なぎ)だった。久しぶりの連ドラ出演となる草なぎの登場は、この作品において大きな目玉の一つだったため、多くの視聴者がいつ来るかと注目する中で、馬上から発せられた静かで低く、威厳ある声。その声の主の顔が現れた瞬間、懐かしさや嬉しさでいっぱいになった視聴者が多かったことだろう。

 当初は、能面のように何を考えているかわからない表情を見せていたが、回を重ねるごとに慶喜の出番が増え、様々な演技で視聴者を強く惹きつけていく。特に慶喜と井伊直弼(岸谷五朗)が絡む第8話、第9話では、SNSでも「深くて繊細な表情」「台詞以外でも溢れ出てくる、気品とカリスマ性、人間の大きさ。血管まで演技だなんて…すごい俳優だな」とにぎわった。なかでも、斉昭の死を知った慶喜の様には、「眼球のみで演技する」など”目の演技”を絶賛する声が続出していた。

 冒頭のわずかな登場シーンですでに“二人の物語”を予感させていたように、回が進むにつれ、ますます“もう一人の主役”と化してきている。動の吉沢、静の草なぎと、ドラマに良いテンポをもたらしているようだ。

「埋もれなくて良かった」、地上波連ドラで見せる演技の価値

 だが、草なぎ剛がいま注目される理由は、演技やオーラのためばかりではない。ジャニーズ事務所を退所して以降、しばらくお茶の間から遠ざかっていたせいもあるだろう。2018年に単発ドラマ『未解決事件 File.06 赤報隊事件』(NHK総合)、今年3月に宮城発地域ドラマ『ペペロンチーノ』(NHK BS)に出演したものの、地上波プライムタイムの連続ドラマは実に久しぶり。そのせいか、大河ドラマ開始当初には「またテレビで、地上波で演技が観られて良かった」「埋もれなくて良かった」という声が多数上がっていた。若い世代などからは「草なぎくんって、演技がすごく上手いんだね」といった驚きも寄せられている。

 もちろん、地上波テレビに出ていなくとも、映画界での評価も高い草なぎ。ジャニーズ事務所退所後も、単独で3作の映画に出演し、特に『ミッドナイトスワン』ではアカデミー主演男優賞を受賞するなど高い評価を受けている。同作で演じたトランスジェンダーの凪沙は、姪の一果を守る目的を持ったことで、荒んだ表情から変化し、”母”の顔すらも見せるようになる。草なぎがよく“憑依型”と言われるのも納得の演技だった。

 ただ、草なぎはもともと、テレビを主軸に活躍してきたタレント、俳優である。卓越した演技力と存在感を持っていただけに、テレビドラマという身近な場所で草なぎの演技が観られないことは、ジャニーズ云々を抜きにしても、ドラマ界全体の損失に思えたのではないか。だからこそ、今回の大河ドラマでの演技に価値を見出す人も多いのだろう。

“静”の演技に滲み出す草なぎ自身、SMAPフィルターなき今こそ役者として評価

 草なぎにとって、そんなふうに契機となった『青天を衝け』。冒頭で触れたように、そこでの彼の”静”の演技は格別である。これまでにも、様々な作品で“静”の演技を見せてきたが、とくに思い起こされるのは『任侠ヘルパー』(フジテレビ系)だ。草なぎが演じたアウトローなダークヘルパーは、ヤクザとしての迫力を持ちつつも、介護マーケットに付け入ることへの葛藤や苦悩、哀愁を滲ませる演技が絶品だった。また、『僕と彼女と彼女の生きる道』(同)も印象深い。仕事人間として家庭を顧みずに生きてきた銀行マンが、娘によって人間らしい温かみを獲得し、父として人間として成長していく様は、『ミッドナイトスワン』の凪沙にも通じるものがあった。

 このような草なぎの”静”の演技には、おそらく本人のパーソナリティの奥深さも影響しているように思う。基本的には非常に静かで穏やかで、内に秘めた情熱を感じさせる一方で、『「ぷっ」スマ』(テレビ朝日系)などでは、ときに幼児のようにはしゃぐ無邪気で天真爛漫な面を見せてきた。それはSMAP時代から一貫しており、落ち着いた佇まいや静けさ、穏やかさの奥に、何かとんでもなく熱いものや面白いものを抱いていそうな“わからなさ”があるのだ。劇作家・演出家の故・つかこうへいさんは、そんな草なぎに対して「彼の中にケモノが眠る」と評している。

 そういった内に秘めたものがじわじわと静かに表ににじみ出てくるのが、『青天を衝け』での“静”の演技だ。本人も慶喜役について「つかみどころがない」と語っているが、ある意味それは草なぎを評する周りの人々の印象でもある。そうした本質的な類似性が、うまく作用している部分もあるかもしれない。

 現在、同作で年若い将軍の後見役に任命されている慶喜。経験や落ち着きを求められる役柄であるが、草なぎ自身もまた、これまで積み上げた経験値、今の年齢ならではの深みをもって自然に表現している。SMAP時代ももちろん演技派として認められていたが、グループの存在感があまりに大きかったこともあり、どうしても「SMAPの草なぎ」というフィルターがかけられていたように思う。だが、長い時間と様々な経緯を経て、ようやくそれらを脱ぎ捨てた。今こそ、本当の意味で“役者”として評価されるときが来たと言える。

(文:田幸和歌子)

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