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“キートン山田の残像”を逆に楽しむ きむらきょうや、『ちびまる子ちゃん』2代目ナレーターの覚悟
ナレーションで培ったものと真逆を求められる “声優1年生”を満喫
だが、55歳にして初めて足を踏み入れた国民的アニメのナレーションの現場には、そんなきむら氏を驚かせるシチュエーションが待っていた。
「通常、テレビ番組のナレーションはディレクターがいるだけなんですが、アニメーションの世界では、声だけの指導をされる音響監督がつくんです。『まる子ちゃん』の音響監督の本田先生は大ベテラン。ものすごく前後の芝居の流れにこだわられていて、例えば『翌日』という一言でも、『こういうストーリーがあって次の日に続くから、それを受ける君の芝居はこうなんだ』ということをすごく熱心にご説明してくださる。僕は芝居の経験は皆無で、全体の芝居の流れの中で声の演技をするということがなかったので、もう新鮮で!
『まる子ちゃん』の現場は、親戚の集まりみたいに皆が仲良しで、アニメの空気感そのもののまったりした平和な雰囲気なのですが、そんな30年の歴史を持つ劇団一座に、突然、新人の1年生が入ってきたみたいな感じで(笑)。今は久しぶりに1年生になった楽しさを味わっているし、この歳でそういう先生にお会いできることが本当にありがたいです」
そんな“1年生”が受けた衝撃にはこんなエピソードもある。
「ナレーションはハッキリと、母音はもちろん子音の細かい音までキレイに鳴っていないとNGな世界なんですが、その声でやったら、本田先生に『キレイすぎるよ』って言われたんです。普段、声優さんがナレーションをやられているのを聞いて、『滑舌が甘いな』と思うことがあるんですが、逆に声優の世界では僕が怒られた(笑)。これまで僕にはなかった芝居という経験をして、面白いなって」
「『自分が思うキートンさんのトーンはこんな感じじゃないか』ってやってみたんです。で『そうじゃない、君でやってもらいたいんだ』って言われまして。僕がキートンさんを“トレース”して臨んだことにすぐに気づかれて、感動しましたね」
その感動は、登場初回の4月4日、さらに深いものとなった。
「バラエティ番組で聞く自分の声とは全然違っていて、僕自身、こんな声出したのかなって驚きました。キートンさんのように飄々としてすっとぼけた感じの声が使われると思ったシーンも、そちらではなく、ただ単に低音だけのむしろカッコよすぎる声が使われていて、こっちが選ばれたのか? って。監督の言うとおりにやったら『きむらきょうやだな』っていう声を感じられながらも、『まる子ちゃん』の世界観は壊れていない。驚きましたね」