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声優・吉野裕行を築き上げたキャラ5選 『弱ペダ』荒北、『薄桜鬼』藤堂平助など“不完全な人”の愛おしさ

この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「Fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。
⇒この記事をオリジナルページで読む(2月24日掲載)

『機動戦士ガンダム00』アレルヤ・ハプティズム/ハレルヤ、『SKET DANCE』藤崎佑助(ボッスン)、最近では『スター☆トゥインクルプリキュア』プルンス、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』キルバーンなど、振り幅の広い演技で常に第一線で活躍し続けている声優・吉野裕行さん。そんな吉野さんに、声優として転機になった5つの役を挙げてもらいました。果たしてどのキャラクターが選ばれたのでしょうか。さらに待望の1stフルアルバムとなる『カタシグレ』制作の裏側にも迫ります。キャリアの集大成に肉薄するロングインタビューです!

撮影:石川咲希(Pash) 取材・文:遠藤政樹

声優としての可能性を示し続けるため「常にほかの方法・アプローチを探す」


――まず、これまでのキャリアでさまざまな現場を経験されてきたと思いますが、声優を続ける上で糧になった先輩・共演者からの言葉があれば教えてください。
吉野裕行特定の作品ということではなく、褒められたことはどれもうれしくて覚えているものです。芝居のリズムや音のたて方といった“グルーヴ”のようなものが現場にはあるのですが、過去何度か、自分も狙っていてかつ相手とのかみ合わせもうまくハマった掛け合いができ、先輩に「今の良かったね」と言ってもらえたときは、本当にうれしかったです。

――お互いにがっちりとかみ合って最高の瞬間が生まれるというのは素敵ですね。
吉野裕行あとちょっと別の意味合いになりますけど、『ヤッターマン』で大先輩の滝口順平さん(同作でドクロベエ役)とご一緒したのは忘れられません。実は、滝口さんが「行きましょう」と誘ってくださり、2人で食事に行く機会があったのですが、順平さんは携帯を持っていない。連絡を取るには事務所に電話をかけなくちゃいけなくて。しかも個人事務所なので奥様が出たのですが、順平さんの健康面などもあって「飲みに行く」とも言いづらく説明に苦労しました(笑)。順平さんと何を話したのか、ここでは敢えて言いませんが、とても大切な思い出です。


――素敵なエピソードですね。ところで以前、吉野さんは「自分の可能性を示し続けるのが声優の一生」とおっしゃっていますが、キャリアを重ねる中で「自分の可能性を示し続ける」ために心がけていることや続けていることは何ですか?
吉野裕行何かをやるときには常にほかの方法、アプローチがあるのではと考えるようにしています。

これは自分がアイドル好きで、アイドルを見るようになったのも一因ですが、「自分がお客さんのときに見えている世界」とは別の「自分がステージに立っているときに見えている世界」があることをきちんと意識し、どちらも生かしたいです。よく、ものの見方について「一方的に見るのではなく、ほかの角度からも見なさい」といいますが、僕もそのほうがいいと思います。


【声優・吉野裕行の転機を支えた5人のキャラクター】

【1】仕事へのスタンスが変化した初の主役キャラ――『ヴァンドレッド』ヒビキ・トカイ
――新たな挑戦に対して貪欲な姿勢はとてもストイックで、なかなかできることではないと思います。そんな吉野さんに、声優としての節目や転機となったキャラクターを5人選んでいただきたいと思います。
吉野裕行1人目は間違いなく『ヴァンドレッド』のヒビキですね。

『ヴァンドレッド』(C)2000 もりたけし・GONZO/KADOKAWA

『ヴァンドレッド』(C)2000 もりたけし・GONZO/KADOKAWA

『ヴァンドレッド』
アニメーション制作:GONZO。2000年10月〜12月(第1期)、2001年10月~12月(第2期)放送。太陽系から遠く離れたある銀河が舞台。女性だけの船団国家「メジェール」の海賊船は、男性のみの惑星国家「タラーク」の戦艦イカヅチに襲撃されるが、不慮の事故により合体・融合して戦艦ニル・ヴァーナとなり、はるか遠くの宙域に飛ばされてしまう。

ヒビキ・トカイ
惑星タラークの16歳の機械工。喧嘩っ早い性格だが、大胆な奇策でいつも危機を切り抜ける。密航したイカヅチで、メジェール人の少女・ディータとの出会いを皮切りに、女性たちとの交流により成長していく。
――初めて主人公を務めた作品ですね。
吉野裕行初の主役はもちろんですが、仕事のやり方が少し変わったというか、監督の影響でスタッフさんと会話する場が多くなったのが大きかったですね。もちろん、どんな座組でも、お話しする機会はあります。だけど、現場にしかいないスタッフさんたちとなると、やっぱりメインをやっているほうが話しやすかった。

特に主役を演じていると、監督から「今回この話を演出している方です」と演出家さんを紹介してくださったりして、そういうことを通じてものづくりというか、より深く「こういうスタッフに支えられている」ということを理解し意識するようになりました。それが『ヴァンドレッド』ですね。


――当時の思い出深いエピソードはありますか?
吉野裕行いっぱいありますけど、最終話の最後のほうのセリフが台本に書かれていなくて、自分で好きなことを言っていいという仕掛けを監督が作ってくれたことですね。ただ実際にセリフにしたところ、当時、女性スタッフや役者さんからブーイングをもらってしまいました(笑)。理にかなったセリフをちゃんと言っているのですけど。まあ、イジられていたのでしょうね。

――改めてヒビキの魅力をどのあたりに感じていますか?
吉野裕行その頃、頑張ることはカッコ悪いみたいな風潮が徐々に出てきていました。でも、ヒビキは、そのやり方しか知らないし、すべてに真っ直ぐぶつかっていく。なので、自分が若いうちにそういった役をやらせていただけたのは良かったと思います。
――ということはキャリアを重ねた今、もう一度彼を演じるとしたらアプローチは変わるのでしょうか。
吉野裕行それはずっとついて回る問題でもあります。この後に挙げる作品もそうですけど、ゲームなどを新しく録ることもあって、役者としてのスキルが当時より上がっていると少し違うアプローチがしたくなるもの。当時の自分として精一杯な“正解”だと考えて演じOKをもらっているシーンについて、また「それをやってください」と言われると、その時の自分をなぞってももちろんいいのですが、「もっと良くするために今の自分ならこうできる」という提案もしたくなります。

ただ、果たしてそれがファンの方のために必要かどうか……ということも感じます。ファンはそのときに観ていたものが好きで、声優としてはそのイメージを補完しなければならない部分もあると思うので、すごく難しいですね。
【2】キレたような役どころは「『00』がきっかけ」――『機動戦士ガンダム00』アレルヤ・ハプティズム/ハレルヤ
――たしかに、観る側としても「当時のあのキャラを」となると、懐かしさを感じたいですし、今の声優さんが演じるキャラも気になるし、どちらも捨てがたいですね。では続いての作品とキャラクターを教えてください。
吉野裕行『機動戦士ガンダム00』です。『ガンダム』というコンテンツ自体が大きく、世間の多くの人が知っている作品。特にその前の『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』がすごく人気が出ている流れで『00』が始まり、『ガンダム』という作品やそのファンを背負っていると実感していました。現場も良い意味ですごく緊張があったのを覚えています。
『機動戦士ガンダム00』
アニメーション制作:サンライズ。2007年10月〜2008年3月(1st Season)、2008年10月〜2009年3月(2nd Season)放送。西暦を採用し、放送当時の現実世界から300年後の西暦2307年の地球が舞台。超大国群による戦争が続く中、「武力による戦争の根絶」を掲げる私設武装組織が出現し、モビルスーツ「ガンダム」による武力介入が始まる。

アレルヤ・ハプティズム/ハレルヤ
過去に研究施設で過酷な人体実験を受けていた青年。施設からの逃亡後、ガンダムマイスターに。アレルヤは温厚で寡黙な性格だが、凶暴な別人格「ハレルヤ」を併せ持つ。
――「宇宙世紀」ではなく「西暦」を用いるなど『00』もいろいろな面で挑戦した作品ですね。ではアレルヤ、ハレルヤについて、振り返ってみてどのようなキャラクターでしたか。
吉野裕行完全じゃないところが人間的で魅力なのかなって。もちろん“二重人格”というのもあると思いますけど、何か頼りない、不安定さを感じていましたね。
――アレルヤと第2人格であるハレルヤ、「こちらのほうが演じやすい」といったことはありましたか?
吉野裕行どっちかと言われたらハレルヤかな。アレルヤの方がマイルドなので、ちょっと気を使うという意味では(役作りも)繊細な作業で難しいなと感じていました。一方、ハレルヤは振り切って限界以上にやってもいいという方向性なので、演じやすかったです。それで、ちょっとキレたような役どころは「『00』がきっかけかな」という想いが自分の中に少なからずありますね。

一方で、その頃はアレルヤみたいな役、ちょっと落ち着いたイケメン……は、あまりやっていなかったので最初アプローチに苦労しました。


――そういうとき、どんな部分を“一歩目”にするのでしょうか?
吉野裕行監督たちの演出やスタッフさんがくれるヒント、あとはバランスです。『00』は最初にみんなが台本を読んで持ち寄ったイメージでテストしたとき、アレルヤと神谷(浩史)君がやったティエリアが(キャラ的に)近い関係にあったので、そこを微調整していきました。シナリオを読んでいる関係者が「こういう人で、こうなります」と取材などで言ってくれていたことも参考に修正していきました。
【3】キャスティングの妙で引き出された新たな一面――『弱虫ペダル』荒北靖友
――それでは、3人目をお願いします。
吉野裕行次は『弱虫ペダル』の荒北ですね。『00』をやったから『ペダル』でしっかりと芝居しやすかったというのはあったので、すごく何かが変わったというより、(荒北のような)役どころのベースを『00』から学ばせてもらった気がしています。
『弱虫ペダル』
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント。2013年10月〜2014年6月(第1期)、2014年10月〜2015年3月(第2期)、2017年1月〜6月(第3期)、2018年1月〜6月(第4期)放送。全国レベルの強豪校・総北高校自転車競技部が舞台。アニメが大好きな気弱な高校生・小野田坂道がロードレースの魅力に目覚め、仲間とインターハイ優勝を目指していく。

荒北靖友(あらきた・やすとも)
主人公・坂道が通う総北高校のライバル校のひとつ、箱根学園の3年生。荒々しい口調で皮肉屋だが、チーム一の「運び屋」としてエースをアシストし、メンバーへの指示を出す参謀役を担うこともある。
『ペダル』のオーディションで僕は違う役を受けて落ちてしまったのですが、不思議なことに、キャスティングで荒北になっていました。僕ら声優は、自分の芝居や演技プランもありますが、キャラクターに合わせるのが基本ですから、キャスティングする人たちのセンスというか、すごさを常に感じています。声優が持っているものを引き出してくれたり、伸ばしてくれる。そういった意味では『ペダル』をやって、ちょっと“ヤンキー”みたいな役が増えたかもしれないですね(笑)。
――可能性を引き出してくれる方との出会いはかけがえのないものだと思います。当時の反響はいかがでしたか?
吉野裕行キャラクター人気が高かったのもあると思いますけど、かなり盛り上がっていた印象はあります。


――演者さんからすると、自分たちが思っていた以上に人気が出た、という場合もあるのでしょうか?
吉野裕行ありますね。『ペダル』もですが、アプリゲームの『Fate/Grand Order』でやっている岡田以蔵役もすごく盛り上がっていました。僕は土佐のネイティブではないので、方言指導の方をお願いしてやらせてもらいましたが、そのマッチングを作り出したスタッフさんのキャスティング力がすごいと思います。
――そうしたスタッフさんの力も人気を生み出す原動力なんですね。では、今改めて感じる荒北の魅力を教えてください。
吉野裕行アレルヤにも言えますが、荒北もパーフェクトじゃない人間。特に荒北は、過去に挫折して腐っていたところが描かれている。引っ張り上げてくれる人に出会えて変わり、そこから先ずっと一緒にチームのため、むしろ主将のために走るというところが魅力的です。男くささがたまらないですね。

【4】若さゆえの迷い方に惹かれた――『薄桜鬼』藤堂平助
――それでは4つ目の作品、キャラクターをお願いします。
吉野裕行『薄桜鬼』ですね。この作品はとにかく歴史があるものですし、当時の乙女ゲームといえば甘いセリフを言うタイプのゲームが多いのに、骨太なストーリーなのが印象的でした。
『薄桜鬼』
アイディアファクトリーから2008年に発売された新選組を題材にしたゲーム。TVアニメは2010年4月〜6月、10月〜12月(碧血録)、2012年7月〜9月(黎明録)、2016年4月〜6月(〜御伽草子〜)に放送された。蘭学医の娘・雪村千鶴を主人公に、幕末を駆け抜ける新選組隊士たちの「隠された秘密」をめぐって物語が展開する。

藤堂平助(とうどう・へいすけ)
新選組八番組組長で、最年少幹部。やんちゃ気質で明るい性格。主人公の千鶴とは年が近く、仲が良い。
――たしかに男女問わず、味わい深い世界観です。
吉野裕行自分たちが演じているキャラクターは大義のため、隊のために動いていて、プレイヤーはそれをサポートする女主人公という立ち位置。(自分の)背中を見てもらう、みたいな感じでした。ストーリーがしっかりしていて、当時、ゲームで共演しているメンバーたちと違う現場で会ったとき、「『薄桜鬼』って良い作品だよね」という話が自然に出たほどですね。

あと、アニメになるまですごく早かった印象。普通、ゲームが出てアニメになるまでは結構時間がかかるものなのですが、ある意味で関わる人たちの“本気”を感じた作品でしたし、ありがたかったです。
――藤堂平助はどんなキャラクターでしたか?
吉野裕行やっぱり不完全である、若いから迷ってしまうという要素がすごく出ているキャラクターでした。モデルとなった実際の隊士は、新選組を抜けて別の道を選んでしまうのですが、そういう彼の不完全さに惹かれますね。


【5】キャラクターとの“付き合い方”を学んだ作品――『BLOOD+』宮城カイ
――続いてはいよいよラスト。ほかにも多くのキャラクターを演じられていますが、どの役を選ばれるのでしょうか。
吉野裕行主役以外のキャラクターも含めれば本当にいっぱいあるけど、やっぱり最後に挙げるなら『BLOOD+』ですね。それまで長い期間続く作品をやったことがなくて、1年ものの作品は『BLOOD+』が初めて。キャラクターとどう付き合っていけばよいのか、ということを学ぶことができました。
『BLOOD+』
アニメーション制作:Production I.G。2005年10月〜2006年9月放送。過酷な運命を背負った少女・音無小夜(おとなし・さや)らが歴史の闇に潜む異形の生物「翼手(よくしゅ)」を追い、世界を駆け巡る。

宮城カイ(みやぐすく・かい)
主人公・音無小夜の義理の兄。ケガをきっかけに荒んだ生活を送っていたが、小夜を家族にむかえ、翼手との戦いに巻き込まれるなかで成長していく。
――やはり1クール(約3カ月)の作品と1年間続く作品では、キャラクターとの向き合い方など含め、いろいろな面で違いがあるものなのですね。
吉野裕行違いますね。放送期間が1年あり、さらにオリジナル作品だったので、自分たちが演じている様子を見て、ある程度はキャラクターの性格を変えることができる可能性がありました。(制作サイドから)相談されたこともあり、例えば自分が演じていたカイは主人公・小夜(声・喜多村英梨さん)の義兄という役どころですが、「恋愛感情は生まれると思いますか?」といった質問をされました。最終的に判断するのは制作陣ですが、自分の意見は伝えられましたね。

――そんなやり取りがあったんですね!
吉野裕行反映というほど大きなものではないかもしれませんが、アイディアとして、「1年あるのなら恋愛させよう」とか、例えばカイは人間ですけど、「死んでもっと超人的な力を手に入れてもいい」など、作っていく側として選択肢はあるわけです。「どうしたいですか?」と聞かれることがあった作品ですが、「自分が発言することで作品に影響が出る」というのも感じていました。


――作品づくりへの想いはしっかりと伝わってきます。ではカイの魅力はどのような部分に感じていましたか?
吉野裕行作品としては、超人的な、人ではないものたちとの戦いになるのですが、カイは最後まで人間であったことが個人的には良かったなと思います。そういった意味では、彼は力がなく、完全じゃない。やっぱり僕は、何かしら問題があるキャラクターに魅力を感じるし、好きなのでしょうね。

――たしかに今回挙げてもらったキャラクターは、どれもその部分で共通していると言えます。
吉野裕行そういうタイプが多いですよね。非の打ち所がないようなキャラクターはあまり演じることがなくて、さすがキャスティングする側も、僕がそういう人間ではないことはわかっているなって思います(笑)。

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