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嵐が人々の「記憶」に残した功績、時代が生んだアイドルが切り開く未来とは

 31日の大晦日をもって、ついに活動を休止する嵐。この日のプライム帯は、テレビで『第71回NHK紅白歌合戦』に生出演する一方、20時からは生配信ライブ『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』も実施。新たな一歩を踏み出す5人の動向を、日本中が見守ることになるだろう。活動休止の発表から約2年もの間、ファンはもちろん、老若男女問わず多くのお茶の間視聴者に向けて、区切りの姿勢として誠実に活動してきた彼らが、エンタメ界のみならず社会にもたらしたものとは何か。人々に残した「記憶」とともに振り返る。

「嵐=仲がいい」剥き出しの競争心ではなくワンチーム…時代が求めたアイコン的存在

 10年9ヵ月もの間レギュラーを務めたバラエティ番組『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)26日の最終回は、4時間の生放送。さらにその放送中、日立や日本郵便、アサヒ飲料ら大手13の企業が、垣根を超えたCM「嵐へ贈る30秒」を一夜限りで放送。これまでメンバーが出演してきたCMのシーンをつなぎ合わせ、「毎日どこかに、嵐がいた。」「たくさんのCMを一緒に作れて、しあわせでした。」というキャッチコピーのもと、スポンサー側がメンバーに感謝を伝えるという異例の内容に、SNSでは「号泣した」「ありがとう」と歓喜の声があふれていた。

 ファンだけでなく、メディアやスポンサーからも愛される嵐。ライブ会場では親子孫の3世代で楽しむ家族も散見されるが、いったいなぜこれほど「国民的存在」として愛される存在となったのか。ジャニーズウォッチャーであり、『ジャニーズは努力が9割』(新潮社刊)の著書がある霜田明寛さんはこう解説する。

「嵐の魅力を語る上で欠かせないのが“5人の仲の良さ”ですが、それを求める時代の流れもあったと思います。彼らが登場する以前、90年代半ばまでの日本社会は、バブルの香りも残る競争社会。大人の男性同士が仲良くする姿をカッコ悪く感じる風潮が、少なからずあったと思います。
 けれど次第に、野心むき出しの意識に疲れた心理や、個人での頑張りに限界を感じる虚無感が生まれ、2000年代にはみんなで頑張ろうという“チーム男子”を応援する空気が醸成されていきました。嵐は男性からも、友だちのような親しみやすさで人気を集めている印象で、メンバー出演のドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS系)や『Stand Up!!』(同)など、仲間で連帯する物語を支持する声も多いです」

 2011年の東日本大震災以降、いがみ合いやライバル同士というギスギスした空気よりも、人々が安心感を求める傾向はたしかにあった。競争社会を生きながら、名実ともに仲の良さを“アイコン化”することで多くの人々の心を掴み、時代の空気をけん引していった嵐の功績は大きかったはずだ。

「絶対的な支配者が制圧するのではなく、リーダー(大野智)というポジションがいながらも、5人はフラットな意識で努力も失敗も共有します。5人で結束して目標に向かっていく、という理想の関係性がアイコンとしてお茶の間にも伝わったことで、男女問わず、癒しや共感の対象になったのかもしれません。このイメージは、後進グループにも大きな影響を与えていると思います」

「何も語らない」を貫く姿勢、“明言しないことを明言できる”ファンとの強い絆

 さらに注目したいのが、活動休止後の未来がまったく語られない状況にもかかわらず、好印象が寄せられている世間の風潮だ。一般的に、活動休止というとネガティブに捉えられがちなところだが、5人の意思と未来を応援するムードすら感じさせる。

「今このタイミングは、嵐を悪く言う空気を感じさせませんよね(笑)。やはり昨年1月に休止を発表した記者会見がいかに素晴らしかったか、ということに尽きると思います。大野智さんが休止を切り出したことについて、二宮和也さんが『もしリーダーが悪者に見えるのであれば、それは我々の力不足』と言い切りました。あの会見で、20年かけて築いてきた嵐とファンの信頼関係は、より強固なものになりました。
 ほかのメンバーの言葉もそうですが、お互いがお互いを尊重した決断だったという共通認識があるからこそ、5人の未来をポジティブに捉える人が多いのだと思います」

 解散ではなく休止なだけに、多くの人がどうしても「その先」を期待してしまっている。しかしメンバーは、そこも一切の明言をしないスタンスを貫いている。「説明責任」が押し付けられる現代において、その姿勢には潔さすら感じさせる。

「明言しないことを明言する。それが受け入れられるのも、嵐の信頼感がなせるワザでしょう。何より2020年は、個々よりも5人での活動を徹底して優先させていた印象がありました。そんな1年の終わりも、お茶の間向けには『紅白』、ファン向けには『配信ライブ』と、ある種の段階を付けながらも、すべての人に誠実に向き合った方法を取った。休止ではありますが、この素晴らしい幕の引き方は、エンタメ界で今後も語り継がれると思います」

「年齢を重ねても好きでいていい」、嵐が示したアイドルとファンの多様性

 活動休止の発表から約2年を振り返ると、レギュラーのテレビ出演をこなしつつ、5大ドームツアー全50公演を開催し、さらにデジタル配信とSNSを解禁し、Netflixでライブの裏側まで見せたドキュメンタリー作品を配信するなど、もはや出血大サービスのコンテンツでファンを楽しませている。霜田さんは、このアプローチについても高く評価する。

「ファンの熱量の段階に分けたメッセージングで、一時的なお別れの仕方といえども丁寧。何よりラストライブを、ファン投票をもとに楽曲を振り返る形式の『アラフェス2020』で終わらせなかったところが、未来を見据えています」

 31日に行われる生配信ライブのタイトルは、11月の新アルバム『This is 嵐』を冠したもの。同作には、初のデジタルシングル「Turning Up」が収録され、ブルーノ・マーズプロデュース曲も含まれる。メンバーの英語歌唱も新鮮だ。世界のヒットサウンドをJ-POPにアレンジした作風で、変化を楽しみながらもJ-POPを世界に向けて発信していくという挑戦が、「これぞ嵐(『This is 嵐』)」というタイトルに込められている。

「ジャニーズ楽曲全般がそうですが、嵐の音楽はジャンルもメッセージ性も、いい意味でバラバラです。「Love so sweet」のようなラブソングから、「サクラ咲ケ」のような応援ソングまであり、櫻井翔さんのラップもHIP HOPをポップに聴かせるという点で、日本のHIP HOP文化のメジャー化に貢献してきました。そんな歴史を経て、最新アルバムでまだまだJ−POPをアップデートする“攻め”の姿勢を見せてくれることは、とてもうれしいし否応なく未来の嵐の活動を期待してしまいます」

 1999年にデビューしてこれまでの21年間。長らく応援してきたファンは、21の年齢を重ねたことになる。子どもができて、家族ぐるみで活動を応援するファンも多いはずだ。

「若い人が若いアイドルを応援する、というかつてのイメージがあったとしたら、嵐が21年第一線にいてくれたおかげで、それは変化したのではないでしょうか。年をとってもアイドルを応援していいし、応援される側が年をとっていてもいい。一緒に成長した感覚を持つ人もいると思いますし、嵐は、“好きなものは卒業せずに好きなままでいてもいい”という、アイドルとファンの関係の多様性も示してくれたと思います」

 J-POPという音楽を世界に向けて発信していく気概を感じさせるラストライブを舞台に、メンバーはどんなメッセージを発信するのか。まだまだ未来を切り開いていく嵐のポジティブなステージに、日本中が関心を寄せている。

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