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ORICON NEWS
漫☆画太郎、やなせたかし目指し絵本作家デビュー 「子どもたちを爆笑させたい」託された編集者
子どもが喜ぶのは「狂気が炸裂した作品」、作風に手ごたえ
穴水菜水さん私はフリーの編集者なのですが、先生を担当するのは今回が初めてです。昨年末に某コミック編集部の方から、「画太郎先生が子ども向け絵本を描きたいとおっしゃっているのだが」との依頼があり、画太郎先のメールアドレスをお預かりしたのが始まりでした。
──漫☆画太郎さんは、あまり表に出ないベールに包まれたイメージです。
穴水さん私も実は、今に至るまで実際にお会いしたことはないんです。やりとりはすべて携帯メール。画太郎先生のメールをもとに、おやりになりたいことを吸いあげ、それを実現することに徹する、といったスタンスでした。とにかく「子どもたちを爆笑させたい」という強い思いが、長文メールに綴られていたのが印象的でしたね。絵文字の並びが非常に芸術的で、指マークや猫、ロケットの絵文字をよくお使いになられます。
──絵本ということは、『週刊少年ジャンプ』読者よりもさらに低い年齢の子ども向けですよね。先生の作風で、不安はありませんでしたか?
穴水さんとくになかったですね。私はかつて、絵本の読み聞かせボランティアに参加していたのですが、作家の狂気が炸裂している作品ほど、子どもは喜ぶんです。だから先生が本気でお描きになれば、間違いなく子どもたちを爆笑させるものになるだろうと確信していました。
『桃太郎』内容に憤り、「女性の人権を取り戻す」巨乳ビキニ姿のイヌへのこだわり
穴水さんあくまで先生の作風を尊重するスタンスでいましたが、1点だけ確認させていただいたのが、「巨乳ビキニのブルドッグ」という犬の描写です。やはり絵本は、「子ども向け作品は公序良俗を第一にすべき」と考える親御さんも少なからずいますからね。
──ビキニ姿が、性的な表現として受け取られかねない?
穴水さんはい。ただ先生がおっしゃるには、本作を描くにあたって既存の『桃太郎』を何冊も読んだところ、イヌ・サル・キジの中でも「とくに犬がコキ使われている」ことに非常に憤りを感じたそうなんです。「巨乳ビキニのブルドッグ」の犬がサーフボードに乗って鬼ヶ島に行くのは、「男性に束縛されない自立した女性」を表現する意図があるとご説明され、私も納得しました。
──なるほど(笑)、そのほか先生の強いこだわりを感じたところは?
穴水さん昔話を読み込む中で、先生がもう1つ許せなかったのが「ババア(おばあさん)が、不当に労働搾取されている」ことだったそうです。本作のおばあさんは、川へ洗濯に行くのもコインランドリー感覚。ポケットに手を突っ込み、荷物も軽々と担いでいます。犬にしろおばあさんにしろ、「昔話における女性の人権を取り戻したい」という先生の思いがこうした描写に現れたのだと思います。
「大ファンだけど…子どもに読ませて大丈夫?」親の不安
穴水さんまず「自分は絵本作家としては新人である」という意識から、漫☆画太郎の名義は使わなかったとのことでした。また「◯◯マン」とヒーローを想起させる名前で、より子どもたちに喜んでもらいたいという思いもあったそうです。ちなみに絵本作家としては、やなせたかし先生を目指しているとのことです。
──『アンパンマン』ですか!
穴水さんはい。登場人物たちの顔立ちがふっくらしていたり、表情も笑顔が多めであったりというところに、その意気込みが現れているのではないでしょうか。全体的な色味も『アンパンマン』を意識したそうです。
──オールカラーで判型も大きく、もはや画集の域に達している豪華な1冊でもあります。
穴水さん私もある程度のイメージはしていましたが、絵の描き込みにしろ、塗りのクオリティにしろ、想像をはるかに超える完成度で仕上げてくださって、商業漫画の世界で長年にわたって一線を走り続けるプロの気概を感じました。
──ターゲットは子どもだとしても、購入するのはやはり親。反響はいかがですか?
誠文堂新光社・渡会拓哉さんプレスリリースを出した段階では、とくに30〜50代男性から大きな反響がありました。ジャンプ黄金期のパパ世代ということだと思います。ただ一部、「自分は画太郎先生の大ファンだが、果たして子どもに読ませて大丈夫なのか?」と懸念される声があったのも事実です。
──発売前に期間限定で全ページを公開する大胆なプロモーションを行ったのも、懸念を払拭してもらうためだったのですか?
渡会さんそうですね。まずはそこで確かめ、その上で「安心して購入しました」というコメントもたくさんいただいています。またママ世代にも訴求するべく、期間限定ではありますが、人気声優の杉田智和さんの読み聞かせ音声を収録したQRコードを帯に掲載しました。
──笑本シリーズの今後の展開は?
穴水さん先生からはすでに3作品のネームをいただいています。そのほか多くの昔話や童話を、ガタロー☆マン流に描く構想があるようです。
このコロナ禍、本シリーズへの思いはさらに高まったようで、「子どもたちのために頑張ります」とのメールを何度もいただきます。もしかしたら「母親」でもある編集者の私をその気にさせるための方便かもしれませんが(笑)、今後も先生のクリエイティブに寄り添い、世に出すお手伝いに尽力したいと思っています。