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友情、努力、笑顔? 『Nizi Project』が打ち出した“新しいオーディション番組”の形

 Huluで配信され、地上波のドキュメンタリー番組『虹のかけ橋』(日本テレビ系)や、『スッキリ』(同)の特集でも紹介されて、大盛況のまま幕を閉じた日韓グローバル・オーディション『Nizi Project』。その後、NiziUとして合格者のデビューが発表されると、デビュー曲のMVが公開翌日には1000万回再生、配信でもオリコン週間デジタルランキングでデジタルシングル(単曲)、デジタルアルバム、ストリーミングの3部門同時1位(7/13付)を獲得するなどますます注目の的に。そんな中、SNSで話題を集めていたのがプロデューサーのJ.Y.Parkだ。数々の名言をはじめ、練習生と接するときに見せる笑顔が印象的で、それらは今までの概念とは異なるものだった。『Nizi Project』は、“努力・根性・涙・挫折”そして最近では“裏切り”といったキーワードをともなう従来のオーディション番組を覆す、「新しいオーディション番組」のフォーマットを築き上げたと言えるのではないだろうか。

配信&地上波放送の両刃使いで大躍進、連日トレンド入り

 『Nizi Project』は、日本のソニーミュージックとJ.Y.Park が設立した韓国の芸能事務所JYP Entertainmentとの共同事業としてスタート。「世界で活躍できるガールズグループ」を発掘・育成するとして、その様子をHuluでフルサイズ(完全版)で配信しながら、『虹のかけ橋』など日本テレビ系の地上波で放送されると、たちまち話題となった。

 特に朝の情報番組『スッキリ』では、緊急事態宣言の発令中で在宅勤務・外出自粛というタイミングもあってか、主婦層を筆頭に幅広い層の支持も獲得。SNSでは、「なぜか何度も見たくなる」、「今後どう成長していくか楽しみ」といったコメントが多く、わが子を応援するかのように感情移入する視聴者が多数見られたのである。

 さらには『スッキリ』のレギュラー陣が、視聴者と同じ目線で応援する“オタクっぷり”も視聴者に親しみを与えた。メインMCの加藤浩次が「一生懸命に勝る才能はないんだなあと思いました」とまとめると、SNSでも「私の気持ちを加藤さんが代弁してくれた」と称賛された。こうした地上波を入口として『Nizi Project』にハマり、もっと推しのことが知りたくなった視聴者は配信のフルサイズを観る…という地上波・ネットの両者がウィンウィンとなる“好循環“も定着。配信時間や放送時間になると、連日トレンド入りするまでに至ったのだ。

「パークロス」も? J.Y.Parkの見せる“父性愛”が「応援したくなる」心情を加速

 そんな『Nizi Project』の最大の特徴は、J.Y.Parkのオーディションに参加する練習生を見守る目がやさしいということである。J.Y.Parkは、レベルの高い練習生や、殻を破った練習生のパフォーマンスを観ているとき、手放しにノリノリでニコニコ綻んだ表情を見せる。自身もアーティストであり純粋にショーを楽しんでいたということもあるのだろう。だが、それによって視聴者は斜に構えることなく同じ目線で思う存分にパフォーマンスを楽しむことができた。

 一方で、厳しい表情で「前回のアナタのパフォーマンスは微妙でした…」といったコメントをすることもある。鋭い目つきで練習生を見つめるJ.Y.Parkを見ると、(ああ、このあと、このコはめちゃくちゃ怒られるんだろうな…)などとつい心配してしまう。ところが、最初に厳しい言葉を投げかけながら「それが見違えるようにすばらしくなって、感動しました」と笑顔を見せるなど、必ずどこかで“愛のある”コメントやアドバイスを入れてくるのだ。この“ギャップ”に視聴者も安堵したり、感情移入させられたりして、さらに番組にハマっていく…という構図になっているのである。

 その結果、J.Y.Parkの名言・金言は回を増すごとに注目度がアップ。例えば、練習生をランク付けするという厳しいはずのオーディションにおいて、参加者に「一人ひとりが特別でなかったら、生まれてこなかったはずです」といった愛のある言葉を丁寧に投げかけると、SNS ではそれが“名言”として話題になり、「理想の上司」、「パークさんお父さんやな」といったコメントが並ぶ。

 さらに「見えない精神や心を見えるようにすることが芸術です」、「自分自身と戦って、毎日自分に勝てる人が夢を叶えられます」、「過程が結果を作って、態度が成果を生むのです」など、練習生たちが夢を叶えていくときに“御守り”となる教訓の言葉も。そんな飾らない笑顔や、人格を育て子どもの成長を見守るような“父性愛”まで見せられると、視聴者は救われるとともにJ.Y.Parkにがっちりと心をわしづかみにされ、“パーク推し”“パークロス”なる新語まで飛び交うようになったのだ。

スパルタな審査員、バチバチのライバルたち…覆ったオーディション番組の“定石”

 『Nizi Project』はなぜ、ここまで令和の視聴者の心をつかんだのだろうか。その背景には、かつてのオーディション番組とのギャップがあることは間違いない。昭和を代表するオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)は、厳しい予選を勝ち抜いてきた参加者同士が得点を競い合い、芸能事務所やレコード会社からの指名によって一瞬で勝者と敗者が決まる“光と影”の部分が人気だった。

 また、平成を代表するオーディション番組『ASAYAN』(テレビ東京系)では、さらにスパルタのエンタメ性と“えげつなさ”をプラス。多くを語らないプロデューサーと、厳しく指導するトレーナー。そしてメンバー候補者同士のライバル関係など、目に見える“ピリピリ感”と、挫折と敗北から這い上がるストーリー性がウケて、初期モーニング娘。のヒットにつながった。

 ちなみに、それらの究極形として現われたのが、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)内で行なわれた「MONSTER IDOL」だろう。純粋なオーディション番組とは言えないが、プロデューサーたるクロちゃんの私情だけが優先された選考方法で、そこに取り入ろうとする練習生たちの裏切り、密告、スパイ行為…といった人間のエゴが凝縮された内容は、ある意味でオーディション番組の“負”の部分が凝縮された問題作だった。

 だが、『Nizi Project』はかつてのオーディション番組とは真逆。練習生たちもお尻を叩かれたり、わざと反発させるような理不尽ともいえる指導をされたりしなくとも、期待に応えるように自分と向き合い努力する。この10代の女の子たちのひたむきな姿は今どきの人材育成の理想形とも言えるだろう。また、練習生はライバル同士というより“同志”。そもそもグループごとのオーディションもあるので、ライバル関係より協力関係のほうが重視される。だからこそ、張り詰めた緊張感だけでなく、互いにアドバイスを伝え合っていたエピソードや、ふざけながら仲良く笑う姿も視聴者からすると「尊い」ものとなった。

 プロデューサーのJ.Y.Parkにしてもいつも笑顔を見せているので、練習生たちは涙を見せることもあれば、褒め言葉を受け取ったときは素直に笑顔を見せることもできる。そしてそれを見守る視聴者も笑顔になるという、かつての“努力・根性・涙”ではなく、“努力・友情・笑顔”なのだ。

 新型コロナウイルスの影響で、全国的にストレスフルでギスギスした雰囲気の中、さわやかな風として駆け抜けた『Nizi Project』。最近はお笑いでも「誰も傷つけない笑い、ツッコミ」がトレンドになっているが、『Nizi Project』も同様に誰も傷つけない「やさしいオーディション」の形を作り上げたようだ。それは、『テラスハウス』(フジテレビ系)などに代表されるリアリティ番組の“生の姿”に対する反動ともいえるし、時代の変化を象徴する“救い”と“愛”のあるテレビ番組の「新しい形」ともいえるのかもしれない。

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