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“100日間ビスコを買い続けた結果”綴ったブログ話題、発売から90年愛される理由とは
発売当初は「地域限定品」“台風”で知名度を上げるも、迎えたビスコ存続危機
大抵は必要最低限の会話をして終わるコンビニ店員と客という関係の間で、徐々に近づく距離感や些細な会話から人の温かみが感じられ、人情物語のような面白みがあるのだが、ここで数ある商品の中から「手軽でおいしい」という理由で選ばれたビスコに注目したい。記事の内容が反響を呼んだことはもちろんだが、発売から90年経った今もこうして話題に上がり、広い世代に支持されている。その人気の理由を同社担当者の吉田善一さんに聞いた。
大きなきっかけとなったのは発売の翌年、昭和9年に高知県室戸岬に上陸した台風だった。京阪神地方を中心として甚大な被害をもたらし、同社はそのお見舞いという形で、被災地に何台ものトラックで訪問。ビスコを破格で販売するなどして、多くの人に栄養と笑顔を与えた。
これを乗り越えたのは、思い切った決断だった。「当時のビスケットは堅いビスケットが主流で、ビスコもそうでした。しかし、存続危機を迎え、再度口溶けやクリームとの相性を見つめ直し、軽いサクッとした歯ざわりのものに変更したんです。すると、売上が復調。そより食べやすくなり、お子様にも受け入れられたのかもしれません」(同)
現“ビスコ坊や”は5代目、おなじみの“赤”も「時代に合わせて微妙に変え続けている」
パッケージの色も時代に合わせた“子どもの元気”をイメージしており、最初は柿色から始まったが、微妙に色を変え続け、いま使用している色は“サンシャインレッド”だそうだ。5年前からは“大人のビスコ”路線を強化し、味のバリエーションも増加。パッケージはおなじみの赤ではなく、緑や黄色、真逆の青を打ち出すという大胆さにも消費者の抵抗はなかったようだ。2015年に「発酵バター仕立て」、2018年「焼きショコラ」、翌年には「小麦胚芽入り」にアーモンドクリームを使用したリニューアル商品、「香ばしアーモンド(小麦胚芽入り)」を発売し、次々とヒット。怒涛の勢いで、発売から84年にして2017年度にビスコ過去最高売上を記録し、最新データの2018年度にもその記録をさらに上回った。
「赤いパッケージのものはお子様中心でしたが、2015年の『発酵バター』発売により、これまで購買されていなかった30〜40代の女性にもご購入いただけるようになりました。子どもの頃に食べていたけど、大人になって卒業した方たちにもう一度食べていただけるようになったようです」(同)
「社名『グリコ』は、創業当初から看板商品のキャラメルにも入っている、重要な栄養素“グリコーゲン”に由来しています。薬ではありませんが、お菓子で楽しく、元気と健康を守りたいという想いを大切にしているんです。ビスコもその中で生まれてきた商品。乳酸菌が1億個入っているなど、企業理念を代表する商品のひとつです。今は大人の方にも食べていただいていますが、お子様に笑って元気になってほしい、成長をサポートしたいという当初から変わらぬ想いの下、これからも変わり続ける需要に合ったおいしさを追求していきたいです」(同)
戦前、多くの子どもたちが十分な栄養を摂るにも一苦労だった時代に生まれたビスコ。皮肉にも災害を機に知名度を上げるも、その後、戦争により生産中断は余儀なくされた。それから6年で再開するも、他社競合に押され存続危機を迎える。幾度となく訪れるピンチも、“子どもたちに元気になってほしい”、その思い1つで乗り越えてきたのだ。
おいしくてつよくなる――。シンプルなそのキャッチコピーには、脈々と受け継がれてきた強い愛情が込められていた。
(文=衣輪晋一)