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『全裸監督』は「99%負け戦、玉砕覚悟」…山田孝之がそれでも“逃げなかった”理由
実生活でも父親、演じて感じた育児の葛藤と「妻への感謝」
ただ、撮影中はとにかくつらかったと山田は言う。
「妻を失ってしまったつらさはもちろんなのですが、それに付随して、様々な感情が湧いてくる。自分がいっぱいいっぱいになっているのに、子どもがぐずってしまう。そのときは『なんでここにいてくれないんだよ』という気持ちが出てきてしまうけれど、冷静に考えると『子どもの成長を一番見たかったのは妻なんだ。向こうの方が辛かったはずだ』と思い、踏ん張らなければいけない。その葛藤に苦しむこともあったし、負の感情を持ってしまったことへの自己嫌悪もあります」。
物語の中の人物を嘘なく視聴者に届ける――。どんな特異な役柄だとしても、それができるのが山田だ。本作で演じたシングルファザー役にも、圧倒的な説得力が感じられた。奮闘する健一を登場人物はみな温かく見守るが、描かれるのは表面的な“きれいごと”ばかりではない。そこには山田なりのこだわりがあった。
「唯一見せ方として意識したところです。みんなに優しくされている健一ですが、“頑張っているパパ”という面だけを見せるのは違うと思いました。そんなきれいごとじゃない感情をしっかり出すことが、健一には必要。小学校の先生と対峙して、マイナスな感情を顔に出してしまうシーンは、かなり人間臭い部分が出ていると思います」。
世界を見据えて挑んだ『全裸監督』、「正直99%負け戦、玉砕覚悟でやっていた」
「30代はめちゃくちゃ楽しかったし、とくにこの5年間は本気でやりたいことをやりました。その中で得たもの、失ったもの、あえて捨てたものがあった。勝手な責任感も芽生え、新たな課題も見えてきた。今は楽しいからやるというより、やらなければいけないことが増えているという状況ですね」。
やりたいと思ったことをやり尽くしてきたからこそ、見えてきたものがある。具体的な課題については、「複合的なものなので、一つにまとめてコレとは言えない」と話していたが、自身が俳優として感じてきた様々なことを、あとに続く俳優仲間のために形にしていく必要があると思っているようだ。「僕が疑問に感じたことをしっかりとクリアにしていかないと、後輩たちは今後、何もできなくなってしまう。今のままでは作品に集中しきれない。そうなるとクオリティも上がらなくなります。質が上がらなければ世界へは持っていけない。ざっくりというとそんな課題です」と語る。
こうした思いが、大きな話題を呼んだ『全裸監督』という作品にも結び付いた。
「世界と言いましたが、僕はハリウッドはまったく意識していません。それは、感覚が違いすぎるから…。でも、アジアやヨーロッパには通じるものがあると思っているので、そういうところにチャンスを広げていくことが大事。その意味では、Netflixというメディアは、全世界配信という大きなメリットがあります。『全裸監督』は題材が題材だけに、正直99%負け戦、玉砕覚悟でやっていました(笑)。宗教的な問題もありますしね」。