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前田敦子、一番のハマり役?『伝説のお母さん』無理ゲーの連続に“あっちゃん推し”再燃
「子育てを後回しにした人類の負け」社会派子育て風刺ドラマがRPGの世界に
さらに、メイを魔王討伐に行かせようとする国王の差し金により、無職になった夫・モブは快く「専業主夫」を受け入れるが、「おしっこならまだいいけど、うんちのオムツ替えるの、男にはハードルたけえだろ?」という理由でオムツも替えず、ヘッドフォンをしたままゲームに夢中、「子育てとか、無理でしょ。俺、向いてない」と言ってのける。挙句、罪悪感ゼロの爽やかな笑顔で言うのだ。「やっぱ考えたんだけどさー、仕事はお前じゃなくても良いじゃん。でもさ、子育てはさ、絶対に男親じゃなくて、母親のほうが良いと思うんだよ。母親のかわりは、誰にもできないだろ?」
育児を取り巻く環境と「ワンオペ育児」のリアルさは、実社会における“無理ゲー”続きの育児の実態をうつすようで、風刺の効いた社会派ドラマとなっている。一方で、ドット絵により、RPGの世界観で描くことで、懐かしさやコミカルさを与えているのも特徴だ。
リンクする主人公・メイと元AKB48・前田敦子、再び「応援したい」対象へ
そして、2012年に卒業すると、ソロとなり女優業を主軸に活動。18年に俳優の勝地涼と結婚し、現在は1児の母となっている。母になってからの前田の女優業として、特に印象深いのは、昨年6月に公開された黒沢清監督の映画『旅のおわり世界のはじまり』での主演だ。前田は、取材のためにウズベキスタンを訪れたテレビ番組のレポーター・葉子を演じていたが、スタッフとも異国の人々とも交流せず、誰にも頼らず、心を開かず、恋人にすら本音を隠し、心の内は明かさない。カメラの前ではスタッフの要求に笑顔で応じ、“無理ゲー”も根性で乗り切り、プロ意識を見せるが、常に焦りや苛立ちを感じている。華奢な身体に秘めた熱い思いや気丈さ、一生懸命さ、頑固さ、不器用さ、青臭さを持ちつつ、自分の夢を追いかける姿は、そのまんま「アイドル・あっちゃん」と重なり、観る者の心を強く揺さぶった。
そして本作ではさらに、「1児の母」として奮闘する彼女自身と、ドラマの主人公・メイの立場が重なることで、完全に同一視している視聴者も多いのではないだろうか。そのため、メイが“子育て問題”を抱えつつ、再び魔法使いとして活躍しようと奮闘する姿を見て、視聴者は自然と応援したくなってくる。同じ立場の母親としての共感を得ているのみならず、応援の意味で“あっちゃん(メイ)推し”となる状況が生まれているようだ。
元・国民的アイドルの“母の顔”に願う幸せ、ドラマと実生活が相乗効果に
ちなみに、原作の主人公は「産後太り」が序盤で指摘されている。しかし、本作では、その主人公に似た雰囲気の女優を選ぶのではなく、また、体型など近づけるというわけでもない。そこにはおそらく少女のような雰囲気のまま「母の顔」になり、奮闘する前田敦子自身の「アイドル」性を作品にのせ、その相乗効果で視聴者を味方につけ、見守り、応援させたい気持ちにさせる狙いもあるだろう。
子育て中の役と実生活がリンクしながらも、ドラマはRPGの世界で社会問題への風刺を効かせつつ、コメディとして表現。生々しすぎない軽やかさがあることで、ドラマの役・メイにも、前田自身にも、自然と感情移入することができる。そして、ドラマとしての楽しみに加え、アイドルとして一時代を築いた女の子の“今”を見守る楽しみも味わえる、ライブ感ある作品となっている。
(文・田幸和歌子)