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芸人脚本のドラマ増加の背景 知名度だけじゃない、「面白く見せる」ことに長けた逸材が続々と登場

 先日放送が終了した『向かいのバズる家族』(読売テレビ・日本テレビ系)で脚本を務めているマギー。俳優・タレントのイメージが強いが、ジョビジョバというコントユニットの一員で、「芸人」出身の脚本家と言える。また同クールで放送されたVTuberを主役に据えた『四月一日さん家の』(テレビ東京系)でも、キングオブコント2014で優勝したシソンヌ・じろうが脚本を担当。ここ最近、芸人がドラマの脚本に携わる事例が増加。なぜ専業脚本家ではなく、異ジャンルのクリエイターが重宝される傾向にあるのか?

バカリズムを皮切りに増加傾向にある“芸人脚本家”

 芸人出身の脚本家と聞いて最初に思い出されるのはバカリズムだろう。自身も出演していたテレビ東京『ウレロ☆未確認少女』(2011年)の第8話で脚本を担当したのを皮切りに、2014年には関西テレビ『素敵な選TAXI』で連続ドラマの脚本に挑戦。以降も読売テレビ『黒い十人の女』(2016年)、読売テレビ『架空OL日記』(2017年)、日本テレビ系『生田家の朝』など、数多くの作品を手掛けてきた。中でも『架空OL日記』は優れた脚本に贈られる向田邦子賞を受賞。2020年には劇場版も公開されることが決まっている。

 また意外なところでは高畑充希主演でヒットしたNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の脚本を手掛けた西田征史。厳密には「元芸人」だが、「ガラパゴス」や「ピテカンバブー」というお笑いコンビを組み、演劇風コントを得意としていた。解散後、芸人時代の友人であるお笑いコンビ「ラーメンズ」の演劇作品に参加しているときに、あるプロデューサーと出会ったことがきっかけで、2008年に映画『ガチ☆ボーイ』の脚本コンペに勝ち抜き抜擢。その後、嵐・大野智主演で大ヒットしたドラマ『怪物くん』(日本テレビ系)、小栗旬や向井理、山田孝之など豪華キャストが話題となり連続ドラマから映画化もされた『信長協奏曲』など話題作を次々と手掛けた。

 その他、芸人出身の脚本家は多い。放送作家のオークラ(2012年毎日放送『花のズボラ飯』、2014年『実在性ミリオンアーサー』、2016年『三都IDOL物語』、2016年『潜入捜査アイドル・刑事ダンス』、2017年日本テレビ『住住」などを担当)、芸人で小説家としても活躍する劇団ひとり(2016年『映画クレヨン しんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』の脚本を高橋渉監督と共同で)、芥川賞受賞作家でもある又吉直樹(2017年『許さないという暴力について考えろ』)なども経験がある。

人気脚本家に作品が集中、そこから見える今のテレビ局の「無意識の守り」

 今年春に放送されたドラマを見てみると、『いだてん』(NHK総合)の宮藤官九郎氏(『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』など)、『ストロベリーナイトサーガ』(フジテレビ系)は徳永友一氏(『海月姫』『僕たちがやりました』など)、『パーフェクトワールド』(フジテレビ系)は中谷まゆみ氏(『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』など)といった人気ライターが並ぶ。

 来期ドラマでも『リーガル・ハート〜いのちの再建弁護士〜』(テレビ東京系)は西荻弓絵氏(『ケイゾク』『SPEC』シリーズ)、フジテレビ月9『監察医 朝顔』は根本ノンジ氏(『5→9〜私に恋したお坊さん〜』)、『偽装不倫』(日本テレビ系)は衛藤凛氏(『のだめカンタービレ』)と人気脚本家がずらり。その布陣に、メディア研究家の衣輪晋一氏「実力のある脚本家が制作に携わることに異論はないが……」と切り出す。

 「テレビ局も新人脚本賞を設けており、そこから新たな才能を発掘しており、フジテレビの中野利幸プロデューサー(『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』『ラスト・フレンズ』など)のように積極的に若い才能を使おうとすると制作者もいるが、やはり全体を見ると名前は固まって見える。これは芸能人にも言え、いわば若手とベテランの新旧交代が行われていない。ベテランが実力と人気を兼ね備えているからでもあるが、ドラマの企画会議に参加していると、やはりドラマ企画段階で保守的に、名前と数字を持っている人を使おうとする制作側の“無意識の守り”がそこにあるようにも感じる」(衣輪氏)

様々な意見で研磨される芸人執筆の脚本。知名度ゆえのSNS利用も

 さらに衣輪氏は「昨今は力関係が“芸能事務所>テレビ局”になっている面もあり、同じように大御所・ベテラン脚本家に局側がモノ言えぬ傾向も感じられる。この力関係は悪いことばかりではないが、多くの意見で研磨されないことで脚本が物足りなくなることもあるように思える。そんな中で、芸人出身の脚本家は、その”門外漢”さゆえに、現状を打開する突破口になり得る」と解説する。衣輪氏によれば、芸人出身の脚本家は知名度はあれど、脚本に関しては専業ではない。その分、局側が「これではドラマにならない」と意見が出やすいのだと言う。

 だが”門外漢”ゆえの新たな旋風は着実に世間に受け入れられていく。前述したように、バカリズムは経験を積み、ついには向田邦子賞を受賞。『生田家の朝』では、かねてより「一緒に仕事をしたいクリエイターNo.1」だったというバカリズムへ、福山雅治自らが熱烈なオファーを送り、今回のタッグが実現。福山からも「面白いものを作る方。絶対にやりたいと思ってお誘いしました」と全幅の信頼を寄せていた。

 ところで芸人出身の脚本家と他の専業脚本家との違いは何だろう。マギーは2014年『インターネットTVガイド』のインタビューで「ほかの脚本家の方と自分が違うのは、役者への愛情…かなぁ(笑)。自分も役者なので、自分が嫌なことは他の役者さんにもしたくないんです」と発言。演者側の視点も盛り込んでいると語っており、役者への愛情の深さに焦点を当てていた。「もう一つは今の時代ゆえの知名度の高さの利用法。SNSのフォロワー数が桁違いに多いため、話題になりやすく、それだけで宣伝効果もあるのです」(衣輪氏)

 2016年に芸人を引退したお笑い芸人のマンボウやしろこと家城啓之も、「ゼロから勉強をして脚本家になりたい」と表舞台から去り、脚本家(舞台中心)として活動を始めている。お笑い芸人と脚本はまったく異業種のようにも見えるが、芸人は普段から「面白く見せる」ことに長けており、さらには時代の変化にも敏感なので、親和性は高いとも言える。さらには宣伝効果も高く、また衣輪氏の言うように、ドラマのメソッドやルーティンにハマらないため、まったく違う方向からのアプローチがあるほか、それに対して制作側が「ダメ出し」をすることも出来る。

 多くの意見で研磨されることが多い芸人脚本家が作るテレビドラマ。それが必ずしも最良の形とは言えないが、視聴者としてはとにかく、面白いテレビドラマが次々と世に出てくることを願ってやまない。

(文/西島亨)

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