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ブラック企業、ジェンダーレスなど時代性を反映…大人がハマる『はぐプリ』の戦略

  • ABCテレビ・テレビ朝日系で放送中のアニメ『HUGっと!プリキュア』メインキャラクター(C)ABC-A・東映アニメーション

    ABCテレビ・テレビ朝日系で放送中のアニメ『HUGっと!プリキュア』メインキャラクター(C)ABC-A・東映アニメーション

 現在放送中の人気アニメ『HUGっと!プリキュア』(ABCテレビ・テレビ朝日系)。2004年から続く女児向け人気アニメ『プリキュア』シリーズの15作目だが、「今期のプリキュアは泣ける」、「次回予告だけで泣ける」と、放送後 “大人たち”からのコメントが殺到。母親だけでなく、今までプリキュアとは縁遠かった男性視聴者までもがコメントを寄せているという。ブラック企業、ジェンダーレスなど世相を反映したテーマもあり、過去作へのリスペクトも溢れる今期「プリキュア」の魅力とその戦略は?

秀でたものはなくても“なりたい自分”がある! 感情移入のしやすい主人公設定

 『HUGっと!プリキュア』(以降、『はぐプリ』)の主人公、野乃はな(キュアエール)の夢は“超イケてるお姉さん”になるという漠然としたもので、学力・身体能力は普通以下。一方、薬師寺さあや(キュアアンジュ)は女優、輝木ほまれ(キュアエトワール)はフィギュアスケーターという夢があり、実際に才能もある。そんなプリキュア3人が、はぐたんという赤ちゃんの妖精を育てながら共に成長していく。

 はなには「優れたコミュニケーション能力」「芯の強さ」といった長所がある反面、自分には取り柄がないと落ち込んでプリキュアに変身できなくなる時も。しかし最後は「なりたい“野乃はな”がある」と奮起し、周囲の助けも借りながら乗り越えていく。得意なことがなくても、守りたいものやなりたいものがあればヒーローになれる…そんな等身大のヒロイン・はなに感情移入して、心を打たれてしまうようだ。

今や悪役も“稟議”を通す時代! 女幹部も中間管理職としての悲哀が

 “正統派”のストーリーが根底にあるものの、時にはネットをざわつかせる “ネタ”も登場する。たとえば、プリキュアの敵「クライアス社」の“ブラック企業”っぷり。「プリキュアを倒しに行くのには“稟議”を通さないといけない」「怪物を呼び出すのは“発注”業務」「失敗したら“始末書”を書かないといけない」等々、平日のビジネス用語が日曜朝のアニメで連呼され、その“異常事態”に日本経済新聞社が発行する『日経MJ』も、「『プリキュア』パパも夢中 飛び交う企業用語で話題」と銘打ち記事で取り上げるほど。

 女課長・パップルは、「しもしもー」「ぶっとびー」が口グセのバブル色濃いキャラ。ただのイロモノかと思いきや、社長にはネチネチとミスを追求され、残業続きの日々を送っているという何とも悲哀に満ちた立場であり、世のビジネスマンならその“ブラックな社風”に「わかるよその辛さ…」と同情したくもなってしまう。

アニメ史に残る名台詞「男の子だってお姫様になれる!」

 同回には、もうひとつ大きな“仕掛け”があった。ほまれのスケート仲間の少年・若宮アンリはどこか中性的な容姿を持つ。制服のネクタイをリボン状に結んでみたり、フリルのシャツを着用したりして、男子生徒にからかわれる。敵に捕らわれた際は「僕、お姫様ポジションになっちゃってない?」とのセリフを吐くと、キュアエールも「いいんだよ! 男の子だってお姫様になれる!」と“全肯定”するという衝撃的な場面があった。

 近年、「ジェンダーレス男子」という言葉も定着しつつあるが、美意識の高い中性的な男子はイケメンの“新ジャンル”として、芸能界や街中で見かけるようになった。アンリも、“女(男)はこうあるべき”という世間の価値観の押しつけに対して、「自分の個性を大事にする」という制作者側のメッセージが込められているようにも思える。彼の言葉で、視聴者に「将来、男がプリキュアになる可能性も?」とすら予感させた。

 これまでにも中性的なキャラクターが登場するアニメは存在したが、ここまでストレートな台詞で全肯定してみせた子ども向け作品は皆無だろう。

世相を反映させつつも「プリキュア」ブランドを守り、思いを継承

 これまでの同シリーズでは前例のない“挑戦”は他にもある。本来、クライアス社でアルバイトをする少女型アンドロイドだったルールーは、心を持っていない。しかし、同社の命令でプリキュアたちに接近するため野乃家に潜入すると、プリキュアの勇姿や、はなの妹のクラスメイト・愛崎えみるの「プリキュアになりたい」という思いに感化され、いつしかえみると共にプリキュアになることを目指す。その内面で葛藤する表現は、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイを想起させる。

 さらに第18話では、自分はアンドロイドだからプリキュアにはなれないと落ち込むルールーに、えみるはギターとオリジナルソングで励ます。そして、2人の友情について歌った歌詞がバックに流れるまま、エンドロールに入る演出がとられた。通常とは異なる、この日だけの “特殊エンディング”に差し替わり視聴者は感動、SNSでも「神回」との声が溢れた。

 監督の佐藤順一氏も自身のツイッターで、「特殊EDもめちゃ良い感じでした。ちなみにこういった番組でのフォーマット変更になる演出は、局、音楽制作、スポンサーなど多くの了解を事前にとらないとできないので、急に思いついてもできません。関係者の皆様のご協力に感謝です」と謝辞を述べた。

 ブラック企業、ジェンダーレス、個性(アイデンティティ)等々、世相を反映させた問題を子ども向けアニメのストーリーに盛り込む『はぐプリ』。「子どもには難解では?」と思わせる内容も多いが、メイン3人のプリキュアらしい活躍と合わせ、うまく表現されている。はぐたんの“育児”や、“お仕事”を体験するというメインのテーマもちゃんと押さえつつ、『はぐプリ』の力の源「アスパワワ(未来を信じる思いの力)」は、15周年を迎えてなお挑戦する制作者たちのみなぎる意欲を感じるようだ。

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