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舞台的な演出の『真田丸』、コスパの高さは大河史上最高?

 戦国時代を描く時代劇でありながら、見せ場のはずの“合戦シーン”が極端に少ないNHK大河ドラマ『真田丸』。確かにここ昨今の大河ドラマは合戦シーンの数も規模も縮小していっているように見えるが、『真田丸』はそれをやや逆手に取っている節もあり、先般も戦国時代劇の花形ともいえる“関が原の戦い”を佐助(藤井隆)からの報告“1分”程度で終わらせてしまったことが話題になった。合戦シーンに膨大なコストがかかることは周知の事実だが、『真田丸』はそれ以外にもロケによるシーンが少なく、城内セットでの緊迫の心理戦やユーモラスなやり取りが展開されている。しかし、SNSをはじめ多くの話題を振りまいている作品であり、その人気ぶりと評判を鑑みると、大河ドラマ史上最も“コストパフォーマンスの高い作品”と言える。

舞台的な進行で、セットやロケの数を大幅カット

 キャストの好演など、なにかと話題になる同作だが、先述の“関が原の戦い”では「超高速 関ヶ原」「1分関ヶ原」などのネタでSNSでは祭り状態になった。これまでにも一応、「第二次上田合戦」はシーンとして描かれたが、槍や鉄砲の“いくさ”というより、真田信繁演じる堺雅人が「六文銭」の旗を持って踊り、見得を切りながら徳川兵をおびき寄せる芝居や、信繁の最初の妻・梅(黒木華)ら女側から見た戦い、その最期が見どころに。SNSでは側室を失った信繁の悲しみと無念に「これは泣ける!」など賞賛の声が上がった。

 さらに言えば、『真田丸』は場面数も極端に少なく、同じセットを使いまわす舞台的な物語進行が特長的。ここ最近では、大坂城、九度山村、沼田城でのやり取りがメインで、城外のシーンなどはほとんどない。16日放送の第41回『入城』でも、信繁が大阪城入城に際して、徳川側を欺くための策を練った(史実のいち表現として)“老けメイク”の変装シーンはあったにもかかわらず、入城シーンそのものは(タイトルが『入城』であるにもかかわらず)一切なかった。

「制作費のためだけではないと思いますが、演出で上手くコストを抑えているのは間違いないです」と語るのはテレビ誌ライター。「合戦シーンはエキストラなど大人数が必要なうえ、甲冑などの衣装、小道具と莫大なコストがかかってきます。そんな合戦や街中のロケによるシーンが少ないということは、既存のセットを使いまわした城内シーンの撮影が主なので、予算も多忙な俳優陣のスケジュール面でのリスクも抑えられているはずです。昨今の大河ドラマでは合戦シーンはなりをひそめがちですが、これは予算と時間の問題があるのはもちろん、合戦シーンの表現が一種の“ネタ切れ状態”に陥っていることも挙げられます。すでに過去作品で描き尽くされていて、新たな描き方をしようと凝ってみても、単純に(時間を含む)コストとまったく合わないのです」(同ライター)

三谷幸喜が“シットコム”的要素のある大河として世界観を構築

 大河ドラマといえば、過去には『太平記』(1991年)をはじめ、『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)など大規模な合戦ロケをしていた時代もあった。2000年代に入ってからも、例えば『北条時宗』(2001年)の蒙古襲来や弘安の役のシーンは、デジタル合成やコンピュータグラフィックスが駆使されており、その迫力あるスケールの大きな映像は、今も大河ドラマファンの間で語り草となっている。

“関ヶ原の戦いで”言えば『葵 徳川三代』(2000年)や前出の『信長〜』が規模や迫力といった意味では代表格的存在。大河ドラマではこれまでもさまざまな“関ヶ原の戦い”を描いてきており、例えば『独眼竜政宗』(1987年)では、伊達政宗(渡辺謙)から見た東北版の関ヶ原、『春日局』(1989年)では小早川秀秋の家臣の立場から見た関ヶ原、『武蔵 MUSASHI』(2003年)では当時名も無き兵であった宮本武蔵(市川海老蔵)から見た関ヶ原……と手を変え品を変え、何度も劇中に登場してきた。振り返るに、これら大規模な合戦のあった作品はかなりの制作費が使われたことも想像に易く、過去作を“凌駕”する、または“新たな”見せ方を模索するには確かに予算も時間もかかりすぎるかもしれない。

「戦国の世の大名たちの知略、謀略、策略にフォーカスして描くのであれば、必ずしも合戦などの屋外ロケは必要ではなく、セットでの城内での会話劇をメインにしても十分成り立ちます。真田側の一人称的な視点、真田側のフォーカスのみで時代を捉える『真田丸』は、とくに舞台的な印象も受けますが、そこはほどよく映像にカスタマイズされた脚本と演出の妙で、シチュエーションコメディ的な要素のあるドラマ=映像作品として成立しています。さらに言えば、同じシーンと同じ登場人物の繰り返しが安定感を与え、その独特のテンポで見やすくなっている感もある。これにさらに“高速 関ヶ原”“老けメイク”をはじめ、ネットでネタにされるさまざまな情報も入れ込まれ、実際にSNSが盛り上がっているわけですから、場面数の少なさから考えてもコストパフォーマンスは相当に高いと言えそうです。『やっぱり猫が好き』(1988〜1991年)や『HR』(2002〜2003年)を手掛けた三谷幸喜さんらしい脚本です」(同ライター)

 とはいえ大河ドラマは、大規模な合戦シーンを劇中に入れることができるドラマ枠という意味では、今の日本のテレビ界でほぼ唯一の存在。この先、クライマックスを迎える大坂夏の陣は、物語のメインになるだけに、これまで溜めに溜めたぶんを一気に吐き出して本格的な合戦シーンを展開することになる。合戦シーンに枯渇していた視聴者の溜飲を下げるという意味でも壮大なクライマックスを見せてくれるだろう。
(文:衣輪晋一)

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