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東宝・市川南氏が語る、アニメ戦略と実写海外リメイク新展開「ゴジラは俳優として貸し出す」

スタジオポノックと東宝の新たな挑戦になる短編映画集『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』(8月24日公開公開)

スタジオポノックと東宝の新たな挑戦になる短編映画集『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』(8月24日公開公開)

 現在、日本の年間映画興行収入の3分の1ほどを1社で占める東宝。今年も『ドラえもん』『名探偵コナン』といった定番アニメがシリーズ最高興収を更新と好調。この先もスタジオ地図の『未来のミライ』、スタジオポノックとの新たな挑戦になる短編映画集『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』と夏休みアニメの注目作がならぶ。いまや日本映画界を動かす東宝のアニメ戦略と海外展開を、同社のキーマン市川南氏に聞いた。

異例の短編映画夏休み公開 東宝の新たなチャレンジ

――今夏、スタジオポノックと提携する短編映画集『ちいさな英雄〜』を上映することを発表されました。東宝の夏休み映画としては過去に例がないと思いますが、まず今回の経緯を教えてください。
市川南昨年の夏休みに公開した『メアリと魔女の花』は、興収32.9億円の大ヒットになりました。その祝いの席で、スタジオポノックの西村義明プロデューサーから熱い想いのこもった、この企画の提案を受け、東宝としてもぜひやらせていただきたいと即答しました。スタジオジブリになじみの深い、米林宏昌監督、百瀬義行監督、山下明彦監督という3人の監督による短編集となり、3本合わせて1時間弱の映画になります。夏休み公開は、ファミリー層に観てもらいたいという西村プロデューサーの強いこだわりからです。東宝としてもこれまでになかったチャレンジになりますが、スタジオポノックの作品力やこれからの将来性、東宝が新しいことに挑戦するタイミングであることなど、総合的に判断した結果です。

――東宝本体ではなく、100館以下で東宝映像事業部による配給になりそうな作品だと思うのですが。
市川南そうですね。ただ、これまでの米林監督作品の実績に対する信頼もありますし、スタジオポノックの作品でもあるわけですから、そこは東宝の夏休み映画として仕掛けたいと思っています。公開規模としては100〜150スクリーンの間くらいの予定です。

――米林監督、細田守監督、新海誠監督と毎年、それぞれのスタジオの夏休みアニメの大作が公開されています。宮崎駿監督も引退を撤回し、新作を制作すると伝えられていますが、こちらも従来通り東宝配給となるわけですよね。
市川南もちろん、鈴木敏夫プロデューサーにはお願いしています。ただ、報道では2019年完成とされていましたが、そこに間に合うかどうかは難しいかもしれません。

東宝の軸になる3つの柱はシリーズ、テレビ局、自社制作

細田守監督の夏休み映画最新作『未来のミライ』(7月20日公開)

細田守監督の夏休み映画最新作『未来のミライ』(7月20日公開)

――近年の年間映画興行ランキングを見ても、上位を占めるアニメの強さが際立っています。実写大作も多く配給される東宝の編成方針を教えてください。
市川南今年の本数では、32本のうち、アニメは『ちいさな英雄〜』を入れると8本になります。また、東宝のラインアップでは3本の柱が軸となります。1つは『ドラえもん』『名探偵コナン』といったシリーズもののアニメ。2つ目は、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』といったテレビ局製作の実写映画。3つ目が、自社で企画制作を行う映画になります。今年のラインアップでは『羊と鋼の森』『検察側の罪人』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などですが、『君の名は。』や『シン・ゴジラ』もそうです。今年は32本のうち17本が自社制作。近年、本数は増えてきています。

――そのなかで、アニメの自社制作はどのような位置付けになるのでしょうか?
市川南新海誠監督の『君の名は。』は、東宝幹事の作品で大成功した例です。実写の自社制作を増やしてきたのと同様に、アニメもできるだけやっていきたい。これは、これからの4つ目の柱と言ってもいいかもしれません。『映画 ドラえもん』も『映画 クレヨンしんちゃん』も東宝は配給のみで、出資はしていないんです。『劇場版ポケットモンスター』も長らく同様でしたが、昨年から出資するようになりました。ビジネスとしては、自社制作のほうが利益が大きいわけです。また、これは新たなパターンですが、今年公開する『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 〜2人の英雄〜』は、東宝が幹事を務めるテレビアニメシリーズが劇場版になったものです。これをきちんと当てて、6本目のシリーズ化作品にしていきたいと考えています。

――東宝の映像事業部にいた古澤佳寛氏、映画企画部にいた川村元気氏が代表となって設立した映像企画会社・STORYとの業務提携契約の発表がありました。これは東宝にとっては、自社企画を拡充させるための施策の1つなのでしょうか?
市川南そうです。彼らは東宝に籍を置いているのですが、STORYはスタジオではなく企画開発会社として設立しました。そこで開発した長編のオリジナルアニメは、来年以降、東宝のラインアップに入ってくると思います。東宝社内にいると不自由なことも多いので、新会社を作ったうえで外部の関係先などとの自由度を増して企画開発をやってもらおうということ。彼らには東宝ではできなかったことに貪欲にチャレンジしてもらいたい。長編オリジナルアニメの畑を広く深く耕してくれることを期待しています。

世界でなかなか売れない日本実写映画の東宝戦略

  • 市川南氏/東宝 常務取締役 映像本部映画調整担当 兼 同映画企画担当

    市川南氏/東宝 常務取締役 映像本部映画調整担当 兼 同映画企画担当

――昨年、『君の名は。』や『ドラえもん』が中国でも大ヒットしましたが、海外展開はどのように考えていますか?
市川南『シン・ゴジラ』は104の国と地域にセールスできましたが、そもそも実写作品は難しいのです。『ゴジラ』や黒澤明作品といったカタログ的な古い作品を除いた新作は、なかなか売れないのが現状です。ただ、アニメに関しては別。『君の名は。』は135の国と地域で売れて、日本の興行収入が250億円に対して海外は約150億円。合わせて400億円以上の興収を全世界であげたことになり、これは東宝の歴代1位になります。

――『ゴジラ』のような世界でのIP展開は、今後別の作品でも狙っていくところでしょうか。
市川南最近、海外でのリメイク展開をスタートさせています。先日、『君の名は。』のハリウッド版実写リメイク制作を発表しましたが、これは東宝の国際チームが仕掛けたものです。東宝も出資し、川村がプロデューサーとして入って、向こうの脚本になりますが、こちらからの意見も取り込んでもらっています。もともとこれを始めたきっかけは、『ゴジラ』なんです。2014年に米レジェンダリー版の『ゴジラ』が制作されましたが、来年公開の続編からは東宝も出資しています。さらにその後も第3弾の企画があり、これは『ゴジラ』を俳優のように貸し出していく展開なんです。

――『ゴジラ』を俳優として捉えるのは分かりやすいですね。
市川南ハリウッドスターには、出演料が全世界興収からの何%かになる契約がありますが、ゴジラもそれに近いことをやっています。もう1つ、来年の米公開で『名探偵ピカチュウ』というゲームの実写化映画が進んでいます。これは、ポケモンの石原恒和社長が仕掛けた企画ですが、東宝も一緒にお手伝いをさせていただいています。実写映画の海外展開に関しては、こういった形でリメイクを中心にハリウッドと一緒に制作していくということを始めたところです。ただ、ひと言で出資と言っても、その金額は日本の10倍以上になるので、リスクも非常に大きい。これをいかに安定収益化にしていくかが重要です。

――日本の映画市場では、東宝が圧倒的なシェアを誇っています。その要因はどう分析されていますか?
市川南歴史的には、東宝の映画館がいい立地にあったことがあります。そこから、邦画に観客が入らず洋画で稼いでいた時代を経て、いい劇場を押さえて長い期間多くの回数をかけられるような配給力がつき、当たる作品をたくさん上映してきたことで、宣伝力も培われました。それを繰り返すうちに、どんどんいい企画が集まるようになったんです。今年は、邦画実写が苦戦していますが、どこの映画会社でも漫画実写の同じような作品ばかりになってしまっていることがあると思います。ただ、これは過去にもホラーや純愛ものなどで繰り返されてきた事象で、企画鮮度の高い作品を作り続けていくことに尽きます。20年前は、東宝の自社制作は『ゴジラ』ともう1本くらいしかなかったのですが、今年は17本です。これからもアニメ、テレビ局さんとのコラボレーションと同様に、作品の多様性を意識しながら自社制作にも注力していきます。
(文:壬生智裕/撮り下ろし写真:逢坂聡)

『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』(C)2018 STUDIO PONOC/『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

提供元: コンフィデンス

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