『ニース国際映画祭』脚本賞受賞 黒沢久子氏、映画で社会問題に“顔”を持たせる
社会問題に触れる人間ドラマを描いてきた
脚本を手がけた黒沢久子氏は、これまでに戦争で四肢を失った主人公とその妻の姿を通して戦争の一面を切り取った『キャタピラー』(若松孝二監督)の共同脚本や、女性の生きざまを赤裸々に活写する瀬戸内寂聴の小説を実写化した『花芯』(安藤尋監督)、離れ離れになった家族の心の傷と再生を描く『四十九日のレシピ』(タナダユキ監督)など、社会性のあるテーマで人々の心の奥の機微をすくい取るような人間ドラマを描いてきた。今作だけでなく、これまでにもエンタテインメントで社会問題に触れてきている。
「映画やドラマで社会問題を取り上げる意味は、その問題に『顔』を持たせられるということだと思います。誰もが『社会』に生きている以上、『社会問題』は自分の問題であるはずなのに、直接的に関わっていない限り、人はあまり問題意識を持たないものです。自分も含めてですが」
“社会派”と構えないことで身近に捉えてもらう
「たとえば、ニュースで『働き方改革』とか言われても、20歳の女子大生にはピンとこないかもしれない。でも、就職したカレシが残業代はもらえないのに週40時間も残業させられているとなったら、『それは大変だ』となる。つまり、いかに当事者意識を喚起できるか。登場人物を自分のように、あるいは、家族や友だち、親戚でも近所の人でもいいのですが、とにかく、いかに身近に起こり得ることなんだと捉えてもらえるか。だから、私は、大上段に『社会派』という作品よりも、恋愛や家族の物語のなかで社会問題を描いていくような作品を作っていきたいと思っています。もっと言えば、どんな作品でも、人間を描く限り、そこに社会があり、問うべき社会問題があると意識して書いています」
現代の『正義』とは異なる『勧善懲悪』エンタメ
「かつては『正義』は1つだったかもしれない。でも、現代の『正義』は1つであるとは言い切れないし、むしろ言ってはいけないんだと思っています。それはエンタテインメントで人気のある『勧善懲悪』を否定することになるわけですが、そこは、それが得意な人に任せて、私は個々が信じるそれぞれの『正義』を互いに尊重し合える寛容さを大切にしていきたい。その姿勢自体が、私なりの『社会問題を描くこと』だと思っている昨今です」
『私は絶対許さない』
監督:和田秀樹/脚本:黒沢久子/出演:平塚千瑛、西川可奈子、美保純・佐野史郎ほか
全国順次公開中 【公式サイト】(外部サイト)
(C)「私は絶対許さない」製作委員会