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「クリープのないコーヒーなんて」から60年 苦戦に立たされる市場で森永クリープが二桁成長、用途意外の広がりも

 コーヒーに欠かせないとされていた、粉末のクリーミングパウダー。近年はあらかじめ含まれている“プレミックスタイプ”のインスタントコーヒーが増えたことから、市場は縮小傾向となり各社苦戦を強いられている。金額ベースでは価格改定もあって横ばいだが、数量ベースで見れば、その落ち込みは決して小さくない。そんな環境でも、二桁の伸長を記録しているのが森永乳業「クリープ」のスティックタイプだ。直近3年間で劇的な伸びを記録し、担当者自身が「想定外」と語るこの数字は、いったい何を意味するのか。1961年の発売から今年で65周年を迎えるが、縮んでいく市場のなかで、なぜクリープだけが苦境を抜け出せているのか。

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 インスタントクリーミーパウダー(ICP)市場そのものが縮小している最大の要因は、インスタントコーヒーを飲用するシーン自体の減少にある。『クリープ』のブランドマネージャーを務める事業マーケティング部ヘルスケア事業部 池田 博之氏は、「コンビニのコーヒーが手軽に飲めるようになったこと、そしてスティック1つで味が完成するプレミックス製品が台頭してきたことで、家庭でインスタントコーヒーにクリーミングパウダーを足すという行為そのものの出番が減っている」と話す。

「加えて、インスタントコーヒーを飲用するシーン自体も減ってきています。数量ベースで見ると、ここ数年でかなり落ち込んでいて、金額ベースでは価格改定もあって市場全体としては横ばいに見えるんですが、数量だけを見るとICP市場は非常に大きく落ちている。どうしてもそこに引っ張られる部分が大きいですね」

 池田氏によれば、コーヒーの飲まれ方自体にも変化が見られるという。「最近はブラックで飲む方が増えてきた印象があります。缶コーヒーの市場も数量ベースでかなり厳しい状況が続いていますね」。

 そのなかで『クリープ』のスティックタイプが伸びているのは複合的な要因があるという。個包装ゆえの衛生性・保存性の高さ、使い切りやすさに加え、ECでのまとめ買いという購買行動の変化もある。クリープの主な購買者は60代・70代・80代の高齢層で、単身世帯の増加がこの層に重なっている。「開けてから1ヵ月で使い切ってほしい」という袋タイプの使用感は、こうした層にとって決して使いやすいものではない。1個ずつ使えるスティックタイプは、そうした生活者に寄り添う形になっている。加えてオフィス向けの100本入りタイプは、コロナ禍で落ち込んだ出社が回帰した直近3〜4年で急伸したという。BtoC・BtoBの両輪で、想定していなかった需要が積み上がっている格好だ。

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森永乳業株式会社 事業マーケティング部ヘルスケア事業部 池田 博之氏

森永乳業株式会社 事業マーケティング部ヘルスケア事業部 池田 博之氏

『クリープ』の最大の特徴は、日本で生乳由来の成分を原料としている点にある。競合の多くは植物油脂を主体としており、100%乳成分を使っているのはクリープのみ。ネスレ日本が中価格帯、味の素AGFが最も低い価格帯に位置するなか、クリープはカテゴリー内でも高価格帯の“高級品”だ。植物油脂、水あめ(シロップ)、砂糖、食塩、乳化剤やその他の添加物を使用している場合はコストを安く抑えられるが、乳成分のみとなると原料コストは高くなり、その分どうしても価格は上がる。それでも市場全体が縮小するなかで、クリープの落ち幅は相対的に緩やかだという。

「乳成分へのこだわりを貫くことは、決して簡単な道のりではなかったと聞いています。1961年の発売当初、量産化がものすごく難しいという壁がありました。大昔の話なので私も伝聞でしかないんですけれども、『クリープ』専用の装置を自社で作り上げたことで、量産化ができるようになりました」

 乳に含まれるカルシウム、マグネシウム等はコーヒー成分と反応してタンパク質を固まらせてしまう。そのため『クリープ』では、乳から事前にカルシウム、マグネシウム等を取り除く処理を行っている。さらに量産化の難しさを乗り越えるため、独自の噴霧乾燥装置「MDドライヤー」を自社で開発し、瞬時に乾燥・冷却することで、ミルクならではの風味とコクを保っているという。発売当初から基本設計は大きく変わっていないが、2013年にはpH調整剤などの食品添加物を使わない製法へと切り替え、ミルク成分100%の製品へとアップデートしている。

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 『クリープ』は長らく瓶入りが主流の商品だった。だが、重さやゴミ処理の不便さといった生活者の声を背景に、2016年にはプラスチックボトルへと切り替えた。それでも市場環境は好転せず、2023年にはそのプラスチックボトルも終売。現在はチャック付き・個包装のラインアップへと完全に移行している。『クリープ』にとって瓶やボトルは象徴的な存在だっただけに、これを手放す決断は小さくなかったはずだ。実際、今もよく「ボトルを再販してほしい」という声が寄せられているという。

 一方で、想定していなかった広がりも生まれている。SNSでは2021年頃から、『クリープ』をトースターで焼くだけでクッキー風のスイーツになる「サクサククリープ」がユーザー発の投稿で話題化した。さらに、あるユーザーが考案した「ハッピーターンの粉」を再現するレシピにも『クリープ』が使われており、これは同社が考案したものではないというが、乳由来の風味の応用範囲の広さを物語るエピソードだろう。池田さんは「本来の使用用途とは異なる使い方で広がっている。様々なレシピを我々のレシピサイトでも発信しているので、いろんな使い方を見つけていただけるのはとても嬉しい」と語る。

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森永乳業株式会社 事業マーケティング部ヘルスケア事業部 池田 博之氏

森永乳業株式会社 事業マーケティング部ヘルスケア事業部 池田 博之氏

 コンビニで淹れたてのコーヒーが手軽に飲め、豆から挽くコーヒーも珍しくなくなった今、クリープでしか満たせない価値とは何か。

「インスタントコーヒーに入れていただくと分かるんですけど、乳の風味が入れた瞬間にふわっと広がって、コーヒーを飲むことがホッとする時間、リラックスする時間になっている。忙しい合間に、机の上でも家でも、一連の動作でホッとする時間、自分の安らぎの時間を作っている。そういう行動も含めて、『クリープ』が作ってきた時間の捉え方なのかなと思うんですよね。価格帯としては高めの位置づけであっても、この風味とそこで生まれる自分だけの時間を大切にする時間は、『クリープ』の価値としてしっかり伝え続けていけたらと思っています」

 同社は今後もスティックタイプへのの拡大へ注力し、プロモーションやSKU展開を通じてさらなる需要拡大を目指す方針だ。1960年代、まだインスタントコーヒーの文化が根付く前に生まれ、市場が育つのを待って世に出たクリープ。市場が縮んでいく今もまた、その形を変えながら、生き延びる道を探っている。

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