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人生最後の推し活を叶える「カープ柩」 柩は故人を表現する場所に、“自分らしく旅立つ”終活の今
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カープ柩(カープレッド) 画像提供:株式会社サンセルモ
PROFILE 株式会社サンセルモ 葬祭部 副本部長 脇山雄樹
人生の節目を支える仕事に魅力を感じ、大学卒業後、冠婚葬祭互助会事業を営むサンセルモへ入社。葬祭現場の業務経験を数年経て、小規模化が進む葬儀の中で、その人らしいお葬式を行うことが遺族へのグリーフサポートに通じていることを体感。現在は「カープ柩」などの新商品の企画も行い、葬儀の様々な価値を伝えていく取り組みを行っている。
カープ柩の第一号は故・北別府学氏の葬儀、赤ヘルやユニフォームを柩で再現
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カープ柩(カープレッド) 画像提供:株式会社サンセルモ
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カープ柩(画像提供:株式会社サンセルモ)
「2023年6月、私どもで元広島東洋カープ選手・北別府学さまの葬儀を執り行わせていただく機会がありました。その際に『故人さまらしいお見送り』としてご遺族やカープ関係者にご提案し、ご快諾いただいたものが公式のカープ柩の第一号となっています」(サンセルモ・脇山雄樹さん/以下同)
カープ一筋で19年間プレーし、球団最多の通算213勝を挙げた大エース・北別府学氏(2023年6月16日永眠)の旅立ちに、真っ赤な柩はまさにふさわしいものだった。しかし、そもそもなぜサンセルモはカープ柩を提案できたのだろうか。
「カープ柩を製作しているのは、弊社も長くお取引をさせていただいている広島の棺製作会社・共栄さんでした。その共栄さんが前々からカープ柩の試作を重ねていらっしゃることを耳にしていまして、北別府さまのご葬儀を契機に球団にライセンスのお願いをさせていただいた次第です。球団サイドも好意的に受け止めてくださり、北別府さまのご葬儀のみならず、一般販売のお話もとてもスムーズに進みました」
現在は広島東洋カープの公式オンラインショップでも販売されているカープ柩は、象徴的な赤ヘルの輝きを再現した「カープレッド」と、ホームユニフォームをモチーフとした「ホワイト」の2種類。いずれも細部にわたるまで、カープ愛が詰め込まれた設計となっている。
「共栄さんによると特にカープレッドの表現に苦労されたそうで、20回以上重ね塗りをしてあの鏡面のような輝きに至ったと聞きました。また2種類ともに通常の棺のように真四角ではなく、鯉のぼりをイメージしたしなやかなフォルムとなっています。木製の棺をなめらかな曲線に仕上げるのは非常に高度な職人技で、この形には『鯉のように天国へ一気に駆け上がってほしい』という願いが込められています」
市民球団である広島東洋カープと広島市民の絆は揺るぎなく、親子2代、3代、4代にわたって熱烈に応援するファンも多い。
「広島のお葬儀の現場では、棺にカープグッズを入れて差し上げる光景はごくありふれています。『カープはお父さんの人生そのものだった』とおっしゃるご遺族も少なくありません。最期までカープファンとして旅立ちたい──。そんな故人さまの思いに寄り添った新たな終活の選択肢として誕生したのがカープ柩です」
もちろん熱いファンを抱える球団はカープだけではない。
「カープ棺を発表して以降、他の球団やサッカークラブなどから『同様の取り組みができないか』といったお問い合わせをいただいております。スポーツチームにとって、長年にわたって応援してくれたファンはかけがえのない存在。その最後の恩返しとして、コラボ棺を検討してくださっているのかもしれません」
かつては「縁起でもない」の意見も…20代も参加「入棺体験」でポジティブに終活
「弊社ではカープ柩を発売する前から、自社の葬祭場で終活イベントを実施していまして、その一環として入棺体験会を提供しています。入棺される前は恐る恐るだったり、興味津々だったりとさまざまですが、棺から出られた後は『心が整った』『人生を見つめ直す良いひとときになった』『今をどう生きるかに意識が向いた』とポジティブな反応がほとんどです」
終活という言葉が一般に浸透してだいぶ経ち、昨今はその意味合いも「死を迎える準備」から、「充実した人生を送るためのライフプラン」といった前向きなニュアンスも込められるようになった。ギャグを交えて終活を描くドラマ『ひとりでしにたい』(NHK総合)が幅広い世代から共感を得ているのも、そうした価値観の変容の表れといえるだろう。
「弊社の終活イベントも多いのはシニアのご夫婦による参加ですが、最近は20代カップルや個人の参加も増えています。また弊社は冠婚葬祭の互助会事業も行っているのですが、比較的、若い時期からご自身の葬儀費用の積立を検討される方は珍しくありません。ご家族がいてもいなくても『自分らしい旅立ち方をしたい』と生前予約される方は近年ますます増えています」
終活の価値観が変わり、前向きに取り組む若い世代は確実に増えている。とはいえ、終活にまつわる暗いイメージが完全に払拭されたわけでもないという。
「特にシニア世代の方々には『死について考えるなんて縁起でもない』といった価値観がまだまだ根強くあるようです。しかし残された時間を生きているのは、年齢に関係なく誰もが同じです。弊社の終活イベントでも、限られた時間をよりよく生きるためのアプローチとしての終活を、もっと明るく前向きに伝えていけたらと思っています」
形式にとらわれない家族葬が主流に、柩は“故人らしさ”を表現する場所
カープ柩(ホワイト)(画像提供:株式会社サンセルモ)
「形式にとらわれず、故人さまやご遺族のご意向に沿ったスタイルで執り行えるのが家族葬の良さの1つです。中でも棺は故人さまとご家族や参列者が最期のご対面をされる場所。つまり葬儀を構成する要素の中でも、最も故人を表現するものの1つが棺なのではないかと私たちは考えています」
カープ柩に至ってはホワイトが25万円、カープレッドが88万円と決して安価ではない。それでも「この棺で見送ってあげたい」と、すでに複数の遺族がカープ柩を選択しているという。
「昨今、ご葬儀は2極化が進んでおり、安価さで訴求する葬儀社もあります。一方、弊社は長年にわたって地域に根ざして事業をしてきたので、故人さまのお見送りだけでなく、ご遺族が1日でも早く悲しみを乗り越え、日常に戻っていける葬儀のあり方を追求しています。カープ柩にも大切な方とのお別れの時間が、ご遺族にとって心の整理や前向きな一歩になってほしいというグリーフケアの発想が込められています」
最期の瞬間まで推しとともに自分らしくありたい。そんな願いを叶える新たな選択肢として、故人と遺族双方の心に寄り添う役割を担っている"推し棺"。その対象はスポーツチームに留まらず、故人の愛したあらゆる推しとのコラボ棺が登場するかもしれない。
(取材・文/児玉澄子)