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“アンダーヘア脱毛”に中高年男性殺到のワケ…9年で患者数が200倍以上、若年層だけじゃない意識高まる“男性脱毛”の現在地

かつて美容クリニックで行う「医療脱毛」といえば、女性のものというイメージだった。だが、近年「男性脱毛」の需要が高まり、2013年から9年間で脱毛を望む患者が212倍に増えたというデータもあるほど。その理由は、「男性だっていつまでも若々しくありたい」「ビジネス上の身だしなみ」といった男性美容ブームの流れを汲む“美の追求”から、介護を前提にした“将来への投資”など、さまざま。多様化する男性脱毛需要とその裏にある令和の男性の美意識の変化をさぐった。

男性の美意識の高まりで市場は右肩上がり「コロナ禍のなかで“映え”を気にする人が増加」

「2013年に開院して以降、医療脱毛の契約者数は、9年間で212倍増。2021年9月〜2022年8月の契約者数は前年比の1.4倍となりました」

 こう話すのは、全国で26院展開する男性の医療脱毛専門院「メンズリゼ」の理事長兼総院長の赤塚正洋医師。その増加について、「2018年ごろには確実に、男性脱毛市場が拡がったことを実感した」と振り返る。たしかにここ数年で脱毛関連の美容サロンやクリニック数は急速に増え、インターネットやSNSで男性脱毛に関する情報を得る機会も増えた。赤塚氏はその理由として、以下の4つを挙げる。

「1つは価格競争によって手頃な価格で脱毛施術が受けられるようになったこと。2つ目は医療レーザー脱毛の普及や脱毛機の改良により、スピーディーで痛みの少ない施術が可能になったこと。3つ目はサッカー日本代表選手や芸能人など多くの著名人がメディアやSNSで脱毛をカミングアウトしていること。4つ目は恋人や配偶者などパートナーに薦められるケースが増えたことです」

 これらの根底にあるのは、まぎれもなく男性自身の美意識の変化。かつては洗顔料とローション程度だった男性化粧品も、今は、乳液、美容液などさまざま揃い、市場は右肩上がりで成長。赤塚氏も男性の美容への関心の高まりを実感しているという。

「特にコロナ禍、マスク着用による肌トラブルや、リモート会議での“オンライン映え”を気にする男性が増えました。SNSの普及もあり、自分の見栄えを良くしたいというニーズも高まっていると感じています」

脱毛の理由が「コンプレックス解消」から変化「男性の美意識が変わり、ニーズも多様化」

 その需要の高まりは、年齢層の広さにも表れている。同院では、14歳から脱毛施術が可能となっているが、下は中学生・高校生から、主流となっている20〜30代、さらに上は70歳以上のシニア世代まで患者層は実に幅広い。なかには、84歳でヒゲ脱毛を希望する人も。残念ながら、白いヒゲは医療レーザー脱毛では効果がないため契約に至らなかったが、アンダーヘア脱毛では、現在83歳の男性が通院しているという。

「以前は、脱毛を希望する理由の大半は、『コンプレックスを解消したい』というニーズでした。しかし、最近は『美を追求したい』『男性だっていつまでも若々しくありたい』『ビジネス上の身だしなみ』『日々のお手入れ時間の短縮』『将来への自己投資』などさまざま。男性の美意識が少しずつ変化し、ニーズも多様化していると感じています」

 ニーズの多様化という意味で近年の大きな特徴といえるのが、デリケートゾーン(Vライン・肛門周囲・男性器周囲)の脱毛を希望する人が増えていること。同院では2017年に「介護が必要になったとき、排泄後の拭き取りや清拭時に介護者(第三者)に対し負担をかけないよう、毛が黒いうちにあらかじめアンダーヘア脱毛をしておく」ことを「介護脱毛」と命名。これをきっかけにアンダーヘア脱毛は広く知られることとなり、女性の間で希望者が増加。その後、男性にも需要が拡がり2017年から2021年の5年間でアンダーへア脱毛の契約をした40歳以上の男性患者数は5.8倍に増加したという。

「希望される一番の理由は、パートナーからの薦めやテレビなどのメディアを通して知ったことが挙げられます。『介護脱毛』については、今、新しい2つの傾向を感じています。1つは、“最期まで自分らしく生きたい”と考える方の増加、2つ目は“自分の身体と心のため”に希望する傾向が強くなってきていることです」

 この意識の変化は、介護脱毛のメリットを考えると容易に納得できる。そのメリットの一番は、排泄介助の際、「拭き取りがしやすく、清潔を保ちやすいこと」だ。

「排泄をしてもすぐに拭き取りができないと、排泄物が乾燥し、陰部にこびりついてしまうため、温かいお湯である程度柔らかくしてから拭き取るなど時間と手間がかかってしまいます。ただ、毛がなければ拭き取りは容易です。さらに、高齢者は抵抗力が落ちているため、汚れが残っていると尿路感染などの感染症を起こす可能性があり、介護者は汚れが落ちているか丁寧に確認する必要があります。毛がないと、確認しやすく、清潔さを保ちやすくなります。また、脱毛することで陰部の不快なニオイを軽減することもできます」

第三者への思いやりと自身のストレスの軽減のために中高年のアンダーヘア脱毛が増加

 赤塚氏によると、介護脱毛の概念が誕生してから最初の3〜4年は、「子供や介護士などケアしてくれる第三者に迷惑をかけたくない」という思いからこれらのメリットをとらえ、「日本人特有の相手への思いやりやマナーの一環」として介護脱毛を希望する人が多かったという。しかし近年は、「長いシニア期も快適に、衛生的に過ごしたい」「認知症になったときに備えて、あらかじめ少しでもキレイに整えておきたい」「最期まで自分らしく生きたい」など、自分の老後のストレスを少しでも軽減したいという思いから介護脱毛を選択する中高年層が増えているという。そしてそこには介護される側にとって、精神的身体的なこんなメリットもある。

「排泄介助を受けるとき、より簡単に、短時間で終わったほうが、恥ずかしさは少なく済みますし、拭き取りなどの処置による肌トラブルも軽減します」

 さらに赤塚氏は、患者とのこれまでのコミュニケーションを通して、「介護脱毛の最大のメリットは、アンダーヘアを整えるという自分をいたわる行為が、老後への安心感と自信につながること」と断言する。ではデメリットはないのだろうか。

「強いてあげるとすれば、介護脱毛に限らず医療脱毛には時間と費用がかかること。施術中、恥ずかしいと感じることくらいでしょうか」

 一方で、体毛はそもそも人間を細菌などから守るために生えてくるもの。美意識などの理由から、脱毛を行うことで、人体に悪影響はないのだろうか?

「かつて全身が毛で覆われていた人間も、進化し、頭部、脇や陰部など一部だけに濃く毛が残りました。頭には頭蓋骨があり、その中に大事な脳があります。脇にはその下に大事な太い血管が通っています。このように毛は大事な部位を守る役割をしてきたわけですが、これは太古の時代に布をまとって生活していたときの話。陰部ももちろん大事な部位。アンダーヘアは主に摩擦や外的刺激を和らげるため、また雑菌などの侵入をブロックするために残されたといわれています。
 一方で、服をしっかり着て体を守り、衛生も保ちやすくなった現代では必要性はほとんどなくなってしまったと考えてよいと思います。むしろ毛をなくす、または減らすことで、細菌の繁殖やそれによるニオイの低減の効果が期待できるなど、メリットの方が多い。医療脱毛後は肌への刺激が少ない衣類を選ぶことやスキンケアによって摩擦による色素沈着の予防も可能です」

エステ、サロンから流れてくる人が増加「医療機関で行う医療脱毛とは別物」

 近年は、美容脱毛を行うエステやサロンや、自分ひとりで脱毛を行う“セルフ式”など、需要の高さに呼応するようにさまざまな店舗が生まれている。だが、「医療機関で行う医療脱毛とは別物」と、赤塚医師は警鐘を鳴らす。

「使用する機器や担当する施術者、脱毛の効果がまったく異なります。医療脱毛は、医師または医師の監督・指示のもと、看護師が行う脱毛で、毛を生やすもととなる組織を医療用レーザー脱毛機を使用して破壊します。組織を破壊する行為自体が医療行為にあたるため、脱毛は医療機関でのみ可能です。エステやサロンには医師や看護師はおらず、資格のないエスティシャンが施術を行うので、医療用のレーザー脱毛機を使用することはできません。そのため、エステやサロンで使用する光脱毛器は出力が弱く、本来の脱毛はできないので、多くのエステやサロンでは制毛や除毛という言葉が使われています」

 「脱毛」への意識の高まりが需要を生み、拡大の一途をたどる市場ゆえに、しっかりとリサーチをしたうえで訪れることが必要と言えそうだ。では今後の男性脱毛市場はどうなっていくと予想されるだろうか。

「脱毛業界は数年前から活況にあり、エステやサロンでの経験者の増加、自宅で除毛ができる美容器や除毛剤を購入する男性の増加など、脱毛が消費者にとって身近な存在になっていると感じています。その中で、今ひとつ効果を実感できないと感じた方が、より確実な効果を求めて、医療機関での脱毛に流れてきています。ただ、体毛に関しては、“男らしい”と思う方もいれば、“むさ苦しい”と思う方もいます。価値観は個人によって異なりますので、体毛がないほうが良い、脱毛するのが当たり前といった認識を押し付けるのはよくないと思います。そのうえで、希望される患者様に対して、当院としては、正しい脱毛技術とより良いサービスの提供に努めることが大事だと思っています」
文/河上いつ子

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