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10年連続で売上伸長、韓流ブームとともに歩んだ「辛ラーメン」 推し活を楽しむためのツールにも…一過性のブームで終わらない理由
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農心ジャパンの三浦善隆さん、鄭永日さん
PROFILE 株式会社農心ジャパン 成長戦略部門 部門長 鄭 永日
2004年に株式会社農心(韓国)入社。5年間市場調査関連業務に従事し、その後は8年間外食事業の立ち上げに関わる。2015年からは株式会社農心ジャパンに駐在員として来日し、新商品開発や新規ブランド立ち上げ、海外営業などを担当。2022年からはマーケティング責任者を兼任。日本国内での辛ラーメンブランド売上を韓国内売上(5,000億ウォン※2023年実績)を超えることを目標に尽力。
PROFILE 株式会社農心ジャパン 成長戦略部門 マーケティングチーム 次長 三浦 善隆
2022年に株式会社農心ジャパン入社。販促支援会社で実務を経験後、10年来のクライアントだった農心ジャパンへ転職。2025年から成長戦略部門マーケティングチーム長として消費者調査・購買分析、流通販促、国内ブランディングを担当。特に韓国本社のPOPUPなどを基に体験型マーケティングに注力。
日本参入時にはなかなか売れずに苦労も…3食パック開発で状況を打破
「当時の韓国では、インスタントラーメンといえば、日本の味噌ラーメンやチキンスープベースの商品が主流でした。そんな時、韓国人好みの牛骨スープをベースに、韓国人が求める辛さを実現したインスタントラーメンが作れないかという声が社内にあがり、開発に着手、発売後すぐにヒット商品となりました」(農心ジャパン 成長戦略部門 部門長 鄭永日氏/以下同)
その後、1990年代に「辛ラーメン」は日本に上陸。最初は並行輸入品として一部店舗のみで販売されていたが、2002年に農心ジャパンが設立され、大手スーパーをはじめ販売網が一気に拡大。しかし、当初は「なかなか売れずに苦労した」と鄭氏は苦笑いする。
「輸入食品ということで関税の問題もあって日本のインスタントラーメンと比べて価格が高いことがまず一番の障壁でした。日本のインスタントラーメンは90g前後で、『辛ラーメン』は120gと量が多いという違いもあったのですが、どうしても割高という印象が強く、しかも当時はブームも起きていませんでしたから、パッケージがビビッドで強烈な見た目の『辛ラーメン』はなかなか手に取ってもらうことができませんでした」
「味には絶対の自信がある」。その思いから、「まずは食べて味を知ってもらうこと」を第一に考え、同社は試食イベントなどのプロモーションを積極的に展開。さらに日本に浸透させるべく奮闘した過程では、現在のインスタント麺ラインナップで増えてきた少量パックをいち早くスタートさせ、当時、大袋では5食パックが当たり前な中、辛ラーメンは韓国でも実施していない3食パックでのラインナップを実行した。
「3食パックにすれば手に取ってもらいやすくなるのではないかと考えてのことでした。韓国の本社からは設備投資が必要になるし、採算性が悪いということで反対の声もあがりましたが、結果、手に取っていただける機会が増えましたし、最近では少子高齢化や単身世帯の増加、物価高騰等を受け、受け入れられたことでその後も右肩上がりで売れ行きを伸ばすことができました」
人気のきっかけは韓流ブームながらも…一過性で終わらない秘密が圧倒的なリピート率
原宿にできた辛ラーメンポップアップストア
「韓国の文化や食に関心を持つ人が増え、初めて『辛ラーメン』を手にとってくださる方が増えました」
その後、日韓関係の悪化など外的要因を受けて一時は売上が停滞するものの、KARAや少女時代などK-POPヒットによる韓流ブームに乗って、2010年から売上は再び伸長。さらに大きな飛躍となったのが、2020年以降に訪れた第4次韓流ブームだったという。
「コロナ禍、Netflixなどサブスクリプションの配信サービスで、韓国ドラマを観たり、K-POPに親しむ人が増えたことが大きかったと思います。韓国ではインスタントラーメンは国民食です。ドラマや映画やバラエティでもインスタントラーメンを食べるシーンがよく出てくるので、それまでの『辛ラーメン』ファンに加え、初めて食べていただける機会にもつながりました。海外に行けない分、エンタメや食事で旅行気分を味わいたいという人にも手に取っていただける機会になったと思います」
しかし、エンタメの人気に牽引された売上伸長では、その都度ごとの一過性のブームで終わりそうなもの。「辛ラーメン」がこんなにも長く右肩上がりで売上を伸ばしているのは、どこに秘密があるのだろう。
「リピーターが多いということがまず一番だと思います。弊社で『辛ラーメン』を食べたきっかけを調査すると、『もともとお母さんが好きで家にストックされていて、一度食べてみたら美味しかった』『友達が好きで知って食べ始めた』『韓国文化や芸能人が好きになってドラマや動画を見ていたら、推しが食べていたから食べてみたらハマった』など、コアなファンから新規のファンに浸透していくことが一番多いです。一度食べたら、また食べたいと思っていただける。そこが私たちの一番の強みだと思います」
さらに鄭氏の発言からは「韓流ブーム等の追い風があっても、常に『調子に乗るな』をモットーとしてきた」という会社の姿勢も見えてくる。
「ブームが訪れても、味の特徴をしっかり伝えることのみに注力するというのが、創業当時からの方針でした」
あえてCMに注力しないのもその表れ。製品への強い自信から、プロモーションではK-POPフェスに参画したり、若者が集まる場所でポップアップストアを展開するなど、常にリアルな喫食体験の創出をメインに考えているという。
「韓国ではアレンジが当たり前」SNSで広がる自由な食べ方、一方で貫き通す“万国共通の味”
「国によって一部、輸入できない成分があるなどレギュレーションの違いはありますが、基本的には辛さやレシピはまったく同じです。もしも味が違うと感じられたとしたら、それはその国々の水質や調理するときの火力、お湯の温度、気候による感じ方の違いだと思います」
もうひとつ、「辛ラーメン」ならではの人気の特徴としてはずせないのが、SNSなどを中心にさまざまなアレンジが話題になっていることだ。「本場韓国ではインスタントラーメンをアレンジするのは当たり前」と鄭氏は微笑む。
「韓国人はパッケージに記載した作り方など読みません(笑)。水は目安でいれるし、唐辛子を足したり、チーズを入れたり、その日のコンディションや自分の好みでアレンジするのが韓国のインスタントラーメンの文化。それが逆に日本のお客さんに注目されたのかなと嬉しく思っています」
同社のマーケティングチームの三浦善隆氏は、「辛ラーメン」とアレンジの親和性をこう説明する。
「インスタントラーメンの中には卵すら合わないラーメンもありますが、『辛ラーメン』は味のバランスがとれているので、何を入れても絡み合いが良いのが特徴です。また、日本のインスタントラーメンと比べると2割から3割塩分が控えめなので、アレンジがしやすい。その受け皿の深さ、広さがまた『辛ラーメン』の面白いところでもあると思います」
ちなみに、日本では牛乳など乳製品を使ってマイルドにして食べやすくするアレンジが多いが、そんな中、三浦氏がSNSを見て驚いたというのが「油そば風アレンジ」だ。
「日本で流行の油そばを真似て、茹でた麺と粉末を混ぜ合わせて食べるのですが、これは韓国では出てこない発想で、逆に今、韓国でもウケています」
韓国の食文化を楽しむだけではない、推し活をさらに楽しむための“ツール”に
「韓国では、“辛い”を表現する言葉が16くらいあって、それぞれ日本語には訳せない微妙なニュアンスの違いがあるそうなんです。そんな韓国で、辛さのレベルを聞く時に皆さんが普通に使っているのが『それって辛ラーメンより辛い?』なんです。日本でもそんな風に『辛ラーメン』が辛さの基準として使われるくらいの存在になったらいいなと思っています」
「日本には美味しい食事がいっぱいあるけれど、韓国人はやはり辛さがちょっと欲しくなる。それを手軽に叶えるのが辛ラーメン」ということで、例えばK-POPアーティストがコンサートで来日した際にも、1泊2日の滞在でもスタッフの分も含めて何百と注文を受けることが多々あるという。
“推しが推している”「辛ラーメン」、好きなドラマの主人公と同じ気分が味わえる「辛ラーメン」…。「辛ラーメン」の人気は、韓国の食文化を楽しむだけでなく、「推し活をさらに楽しむためのツール」にもなっているのだ。
(文/河上いつ子)