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【コミックシーモア】『十億のアレ。〜吉原いちの花魁〜』“奢り奢られ論争”にも通じる?「男に救われることをゴールにするな」名言に反響

 NHK大河ドラマ『べらぼう』が話題を呼んでいる今、“現代に蘇った吉原”が舞台のマンガが注目を集めている。花魁が女優としても活躍しているという驚きの設定であり、昨今の芸能界事情とも共通するエピソードも…。示唆に富んだ女性の生き方を描き、2021年に『みんなが選ぶ!!電子コミック大賞』の大賞を受賞した『十億のアレ。〜吉原いちの花魁〜』(シーモアコミックス)。作者の宇月あい先生に話を聞いた。
『十億のアレ。〜吉原いちの花魁〜』(シーモアコミックス)/宇月あい

作品 『十億のアレ。〜吉原いちの花魁〜』(シーモアコミックス)/宇月あい

現代に再現された遊郭「吉原」。表向きは華やかな高級ショッピング街だが、その裏では金持ちや権力者たちが飽くなき欲望と快楽を貪っていた。主人公は、養父母の借金のカタに売られてきた少女。幾多の困難に直面しながらも、理不尽な扱いには毅然と立ち向かう反骨精神に溢れた彼女は、やがて男に“消費”されることなくトップ花魁を目指して成長していく――。

花魁や遊女の世界を再現、その内情は…「現状ではこの世界でしか生きる術のない女性も確実にいる」

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──もともと先生が吉原に詳しかったことから、本作を着想したそうですね。

 「たまたま椎名林檎さんの『茎 (STEM) 〜大名遊ビ編〜』のMVを観て、『こんな絵を描いてみたい!』と雷に打たれたような感覚になったんです。絵の資料として吉原や遊郭に関する文献も読み漁りました。ただ、花魁や遊女の暮らし、生涯を知れば知るほど、『私が本当に描きたいものは絵では表現できない』という思いが強くなっていったんですよね」

──華やかな見た目とは裏腹に花魁たちの運命がかなり過酷だったことは、大河ドラマ『べらぼう』でも描かれました。

 「ただ、一概に吉原を否定するのも難しいと思いました。本作を描くにあたって現代の性風俗についても勉強したんですが、現状ではこの世界でしか生きる術のない女性も確実にいて。とはいえ、心も体もすり減る職業であることは事実。“描き手がこの物語の世界をどのように捉えているのか?”という視点を決めるのが、一番苦労したところでした」

江戸時代の吉原を現代に置き換えると?「一番近いのは風俗街ではなく芸能界」

──花魁が女優をしていたりと、現代版吉原と芸能界が繋がっているという設定はどこから?

 「江戸時代の吉原に現代で一番近いのは、風俗街ではなく芸能界だと思いました。浮世絵などもそうでしたが、メディアと連携した流行の発信地であったり、花魁もファッションリーダーのように憧れられる存在でした。もう1つ欠かせない類似点として、富裕層や権力者にとって花魁は自分のステイタスを誇示するための“モノ”でもあると思いました」

──いわゆるトロフィーワイフですね。

 「嫌な言い方ですけど、連れて歩くことで自慢できる女性。もしかしたらお金で釣れるかもしれないと想像を掻き立てるような…。そんな存在を現代に置き換えると、このような形が一番しっくり来るなと思ったんです」

「消費されない」反骨精神ある女性を主人公に、“賢い生き方”では状況は変わらない

──主人公・アザミは花魁でありながら「男に消費されない」ことを強く誓う女性。そんな反骨精神に溢れた女性を主人公にしたのは?

 「吉原を舞台にマンガを描くなら、『嫌だ!』と言える女性を主人公にしたいと決めていました。私だったら嫌だと思ってしまうし、読者の大半もそうだと思うんです。もちろん仕方のない状況を受け入れて、したたかに器用にサバイブできる人も現状たくさんいるとは思いますが」

──本作ではアザミの同僚・つくしが、そんなタイプとして描かれていますね。

 「つくしは、うまく生きてしまえる人間として描きました。体を売る職業でなくても、女性の役割を押し付けられることに慣らされてしまっている人は多いと思うんですね。明らかなハラスメントをされても、場の空気を乱さないためにとりあえずニコニコしておいたり、なんとなく受け流したり。たしかに相手も嫌な気持ちにしないですし、賢い生き方なのかもしれません。だけど『それじゃ状況は何も良くならないんだよな』というモヤモヤもずっとありました」

──ただ、女性が声を上げると叩かれたりもしますよね。

 「被害に遭った側が叩かれる世の中は、あまりにもつらいと思います。また、“賢く”振る舞ってきた女性に対しても『お前たちが黙って受け入れてきたから、こんなことになったんだ』と責任をなすりつけるような言説もあって。いずれにしても今は、世の中が目を背けてきた歪みが大きな亀裂となって、そこから溜まりに溜まった怒りが噴出しているんだと思います」

──本作でも現実と似た問題が描かれますが、先生は予見されていたのでしょうか?

 「特に何かの事件をモデルにしたわけではないのですが、似たようなことを見かけると心が痛みます。女性が権利を獲得してきた過程には、『嫌だ!』と正面切って戦ってきた女性がいたわけで、アザミはその象徴として描いています。今は声を上げた女性に対する攻撃があまりにも激しいので、すべての女性に『戦え』とは言えません。でも、心の中に1つの可能性として持っておくだけでも何かが変わると思うんです。本作も、そんな女性が1人でも増えたらいいなという願いを込めて描いています」
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