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災害時にいのちと暮らしを守る「コンビニ」 3.11の教訓が生きる非常時の防災マニュアル
“指揮系統は本社から”は時間のロス「被災地で何をすべきか現場が一番分かっている」
「大きな災害が起こった際、弊社ではまず被災エリアを管轄する現地と東京本社に対策本部を設置します。主導するのは被災エリアの対策本部。これは東日本大震災を経験し大きく変わったことのひとつです」(ローソン専務執行役員・郷内正勝さん/以下同)
通常、多くの指揮系統は本社から現場へと向かう。しかし、圧倒的な脅威で襲い掛かる災害時において、それは「時間のロスでしかない」という。
「本社から指示をだすには現場の状況把握から始めなければいけません。大混乱の現場に倒壊や損傷状況の確認など何かを頼む、それ自体が更なる混乱を招きます。被災地で何をすべきか、それは現場が最もよくわかっています。東日本大震災で本社の対策本部はすぐに現地主導で動くべき、と判断し、現場からの要請を受けて本社がそれに従いサポート体制を作っていく形をとりました。迅速な対応を実現するため、主体はあくまでも“現場”です。それを大前提にしています」
対策本部の設置から物資供給・応援部隊の派遣まで、今回は今までにないくらい迅速な対応ができたという。
「リモート環境が日常化し、これまで本社に集合するなどで時間のロスが生じていた部分が大幅に削減できました。現地と本社がリアルタイムでつながり、これによって現地では何が起こっているのか、何が必要なのかが本社にもいち早く伝達されました。本社はそれに対応して必要な救援物資について全国から調達することができました」
レジ対応ができるか?トラック運転は可能か? 応援隊は“確実な支援”が可能なスキルを持つ人材で結成
ここでのポイントは“一方的な支援”にならないことだという。被災地へは食料や水をいち早く届けたいと気がせくが、被災直後の店舗では商品の片づけや整頓に追われ、物資受け入れの態勢が整っていないケースも多い。
「コンビニがライフラインと呼ばれるようになり、発災からいかに時間のロスなく店舗の営業再開ができるかということが我々にとっては非常に重要です。そのためには、供給・派遣の速さだけでなく、それが“確実な支援”になっているかどうか、見極めることも大切になってきます」
阪神・淡路大震災の際には、震災後、即座にバスで応援隊を現地に向かわせたが、瓦礫の山で目的地までたどり着けず、途中から歩いて現地へと向かったという経験があった。応援隊が疲労困憊の状態では本来のパフォーマンスが発揮できないだろう。また、店舗が必要とする応援とのミスマッチも少なからずあったと話す。
例えば、従業員が被災して物流センターから物資を運べない場合には、トラックを運転できる人材を送る。東日本大震災の際にはガソリンが不足する状況が起こった。この時は、タンクローリーを運転できる人材がガソリンを送り届け、物資供給が行えたという例もある。
「昨今では“通信”もインフラでいえば重要になりました。能登半島地震では大手通信会社が海上にアンテナ付きの船を出しました。そのおかげで通信によるトラブルや不便はほとんどなかったのではないでしょうか。ですが、今後も同じように通信確保ができるとは限りません。火山噴火などで噴煙、粉塵が宙を舞い飛ぶ中、通信が可能かわかりませんし、通信機器の充電などの課題もあります」
能登半島地震では広範囲の「断水」が人々を苦しめたが、今後は断水対策と「通信」への備えが必要ではないかと指摘する。
生活インフラとしての使命とこれまでの経験から生まれた「共助」への想い
大手コンビニ3社(ローソン、セブン、ファミマ)が担う『指定公共機関』としての役割は、災害時に国や自治体の要請に応じ、支援物資の調達・供給を行うことだ。『指定公共機関』は道路や運輸、エネルギー系が主で、小売業が指定されたということは生活インフラとしての認識が国にも認められた証しと言えるだろう。能登半島地震で要請を受けたローソンでは、食料品・水・日用品の救援物資を被災地に届けている。
「弊社では年3度の防災訓練に加え、東日本大震災を経験したオーナーさん、クルーさんのインタビュー動画の視聴を推進しています。これらの活動によって全国のオーナーやクルーの皆さんが、“なにかあった時は力になりたい”というモチベーションでいてくれています。能登半島地震での早期営業再開にも、皆さんのこうした思いがあったからだと思います」
使命感と善意で動く。災害時には自助、共助、公助が必要だが、コンビニの“共助”の精神は心身共に疲弊した被災者の方々に笑顔を取り戻させてくれる。
(取材・文/衣輪晋一)