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(更新: ORICON NEWS

新潟に移住した不動産マンが明かす“地方空き家”の実態と課題解決の道筋

「とにかく土地や家について、不動産会社に相談することをためらう人が多かったですね。“どうせ売れない”といった思い込みもあるようでした」。こう話すのは、新潟県三条市の『特命空き家仕事人』の熊谷浩太さんだ。1年半前、空き家問題の専門家として東京から着任した。

着任後、空き家の相談件数は約10倍、登録数は約4.3倍に急増

 新潟県のほぼ中央に位置する三条市は、人口9万1000人ほどの地方都市。キャンプ用品メーカーで知られるスノーピークや、アウトドア用品や生活用品製造メーカーのパール金属など、いくつもの企業が本社を構え、県内でも製造産業が発展している地域だ。そんな三条市においても空き家の増加は大きな課題となっていた。そこで、外部から専門家を招くことになり、『特命空き家仕事人』として就任を要請されたのが熊谷さんだ。
  • 『特命空き家仕事人』熊谷浩太さん。

    『特命空き家仕事人』熊谷浩太さん。

 総合不動産開発事業・ジェクトワン(東京都渋谷区)に勤める熊谷さんは、2016年に同社が始めた空き家活用事業「アキサポ」の担当者として、様々な自治体の空き家解決セミナーなどに協力してきた。この実績が買われた。

 任期は3年。2022年4月に東京から新潟県に移住し、1年半が過ぎた。

「まず始めたことは、空き家相談窓口の周知でした。三条市では、不動産会社への相談をためらうだけでなく、そもそも売買に消極的な所有者が多かった。背景には市場ニーズの低さや地価の安さがあり、“どうせ売れない…”という思いこみです。そのため、空き家バンクの登録件数は2021年度で12件しかなく、ほぼ機能しているとは言えませんでした。空き家の件数や状態など実態の把握ができなければ、解決もできません。そこで、市役所に相談窓口があること、そして専任者の私がいることを知ってもらうことからはじめました」

 こうした活動で、空き家相談件数は前年度と比べて約10倍の305件になり、空き家バンク新規登録数は、前年度の約4.3倍にあたる81件となった。だが、空き家の掘り起こしはプロジェクトのスタート地点に過ぎない。「空き家問題解決」の本質は、いかに空き家を再生・活用していくかにある。

「地方空き家に“移住者”は欠かせない。ミスマッチをいかに防ぐか」

「ひと口に“地方都市”と言っても、市街地と山村部では空き家の状況が全く違います。市街地の空き家でしたら、周辺住民による住み替え利用や地元民のコミュニティスペースにするなど、地域内での活用が期待できます。山村部は、人気観光地ならば古民家カフェなどで、空き家再生することも可能ですが、観光資源の乏しい山村部では活用そのものが非常に難しくなります」

 今、空き家は全国的な社会問題となっているが、都心部の空き家再生事例がそのまま地方に応用できるわけではない。人口規模や利便性、観光などの魅力度の違いなどでも、地方にいくほど活用・再生の難易度は高くなる。そんな“地方空き家”の解決策のひとつとして移住者施策があるが、近年では移住者と地元民のトラブルが報じられることも多い。

「三条もご多分にもれず、移住したはいいけど定住できず出ていくといったケースもありますが、『停滞は未来がない』のが地方の答えだと思っています。移住者が来ることで、地域住民の刺激になったり、新たな可能性が見いだせることもあります」

 トラブルと隣り合わせながらも、「移住者施策は欠かせない」と話す熊谷さん。三条市での空き家再生第1号としてオープンさせたのは、移住者住宅を併設した『複合交流拠点三-Me.(ミー)』だ。
  • 『複合交流拠点三-Me.(ミー)』1階。様々なショップが入るシェアテナント。

    『複合交流拠点三-Me.(ミー)』1階。様々なショップが入るシェアテナント。

  • 『複合交流拠点三-Me.(ミー)』3階。移住者の居住スペース。

    『複合交流拠点三-Me.(ミー)』3階。移住者の居住スペース。

 三条市神明町の商店街に建つ『複合交流拠点三-Me.(ミー)』は、今年2月にオープンした。元は鉄骨造の店舗兼住宅で、1階は約9年、2階と3階は15年以上も空き家となっていた。

「1Fをシェアテナント、2Fを移住者向けのゲストハウス、3Fを移住者住宅にリノベーションしています。移住や新規出店者のサポートを、移住の先輩やマーケティングができる会社が後押しする拠点です。移住者、定住者、仲介者の三者が交流する場を設けることで、地域とのミスマッチを未然に防ぐ、お試し移住により三条市のことをより知ってもらおうというわけです」

 移住後に仕事がなければ定住が難しい。また、移住者が地域社会にいかに馴染むかが移住成功のカギでもあるため、交流拠点となるような施設を目指した。

 この他にも、移住ニーズのあったエリアでは、築120年の古民家をリノベーションし、移住者に提供。移住やテナント活用が難しい山村部の築80年の古民家は、プライベートスキー場付きの農家民宿『Sanju〜燕三条古民家の宿〜』として、10月のグランドオープンを控えている。一時利用でも付加価値が高ければ、リピートも期待できる。
  • 築120年の古民家。古民家の魅力を活かした改修で、新たな居住者が決まった。

    築120年の古民家。古民家の魅力を活かした改修で、新たな居住者が決まった。

  • 古い居室や2つあったキッチン部分を「土間」に改修。入居者のアイデア次第で様々な用途に使えるスペースに。

    古い居室や2つあったキッチン部分を「土間」に改修。入居者のアイデア次第で様々な用途に使えるスペースに。

観光・利便性を強みに出来ない「地方空き家」は、“関係人口”をいかに増大させるかがカギに

 三条市のように積極的に空き家問題に取り組む自治体はまだまだ少ない。観光資源などの強みがない地方都市では、移住者を呼び込むことも難しく、空き家問題解消の手立てがなかなか見えないのが実情だ。『複合交流拠点三-Me.(ミー)』は、この問題にも応えられるのではないかと熊谷さんは期待を寄せている。

 1Fは地域交流ができる施設としてシェアテナントにしているが、ここに、プリン専門店やフリーラウンジ、古着の新しいプラットフォームを手がける事業が入り、それまでに三条市になかった事業店舗が創出され、新しい風を吹き込んでいる。

 このように起業家のインキュベーション拠点として周知されれば、近隣都市から買い物などで訪ねてくる人も増え、出店希望者なども視察に来るだろう。新しいビジネスのムーブメントが起きれば、それに触発されて来訪する人は県内外を問わず一定数見込める。そうすれば、移住者が増えなくても、年に数回訪れる人、毎月訪れる人など定期的に三条市を訪問する人たちを増やすことで、地域との関係人口を増大させることになり、移住者を募るよりも街の活性化や経済効果は大きくなる可能性もある。

「活用すらできない山奥の空き家も、意外と『趣味のための置き場に使いたい』『廃墟でも構わない』といったニーズもあるんですよ」

 最後に、いま取り組んでいることを熊谷さんに聞いた。

「空き家マップの作成です。行政が空き家マップを作成し、自治会と一緒に空き家を管理、流通させていく。地域で空き家問題に向き合うという狙いです」

 自治会単位で空き家情報を把握して管理できれば、よりスピーディーに空き家情報を集められ、流通にも活用できる。空き家問題を所有者だけの意識にとどめず、地域でも共有しようという発想で、その成果はこれからだ。空き家のある自治会地域にとっても空き家解消は、防犯上でも安心につながる。とはいえ、自治会が行政との連携でどこまで役割分担を果たせるかは未知数だ。

 地方都市の空き家問題の解決策には決め手はない。人口減少の時代にあっては、その地域との関係人口を増やす手法は解決のヒントになりそうだ。

 例えばテレワークがしやすくなったこともあり、職種によっては二地域居住もしやすくなって来た。また移住まではしない人でも、月に数回滞在したり毎年訪問する人が増えるようなまちづくりを進めることが、人とそのまちの関係人口を増やすことになる。流動する人口を増やすことで、空き家を住居や事務所、ショップや交流拠点に変換できるチャンスも生まれる。人が集まる場所には、集まれる空間が必要になってくるからだ。そういう意味で、心地よく人が滞留や滞在ができる場所づくりと、その仕掛けを併せて考えることが、地方の空き家問題の解消に直結するのかもしれない。

(取材・文/福崎剛)

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