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突然はじまった“親の介護”、彼氏との同棲は? 仕事は? 20代で経験した自宅介護のリアル
介護でより家族のつながりがパワーアップ
とはいえ、右も左もわからぬままスタートした介護。2時間おきに起こされ体力が削がれていったり、お母さんの意向をくみ取れず言い合いになったりと苦労も多かった。漫画では、お父さんと二人三脚でお母さんをお世話する様子が描かれているが、キクチさんは「うちは昔からドライな家族だった」と話す。お互いを干渉せず、個人の時間を尊重するような関係性だったそう。
でも、言葉通り“ドライ”なわけではなく、「ピンチのときや乗り越えなくてはいけない困難があったときは集合して一致団結するという、アメリカのヒーローみたいな家族」と振り返る。そのため、介護中は“これぞキクチ家!”という特徴が顕著に表れた。
「介護をきっかけに久しぶりに集まった家族は、私は一人暮らしを経験して人間力がアップした状態で、父もここ数年は母から家事の特訓を受けていたようなので、かなりパワーアップしたキクチ家として戻ってくることができました」
離れていても支えてくれたパートナーへの思い
これから2人の生活をスタートさせる、という時に訪れた最大のピンチだったが、2人の関係や気持ちの変化などはなかったのだろうか。
本書は主に介護や看取りの様子を丁寧に描かれているが、パートナーとのやりとりやお母さんとの初対面のエピソードも盛り込まれている。キクチさんが実家に長期滞在するための荷物を持って帰った際には、ドアを開けるといい香りが漂っただけで、泣いてしまう一幕も。日々気を張っているキクチさんに、少しでもホッとできる環境や時間を過ごしてほしいというパートナーの優しさが垣間見られた。
「どれだけ家を空けるかもわからない中で、パートナーは『家のことは任せろ〜!』と力強く送り出してくれました。関係性や気持ちに大きな変化はありませんでしたが、私個人としては『この人なら安心だ』という気持ちがより強まったように思います」
介護〜看取りを終え社会復帰、「嬉しい」の本音も
インタビューでも、介護で何かをあきらめたり我慢したことはあったか?という質問に対して「大きなセーブはありませんでした。しいて言えば、仕事でしょうか。パソコンも開かずメールも見ず、仕事から完全に離れたので、ちゃんと復帰できるのかという不安感や焦りは常にありました」と話していた。
20代で経験した親の介護や看取り。今気持ちもひと段落したことで取り組みていることはあるのだろうか。
「たいそうなことは全くしていませんが、今は日常をひたすらありがたく感じております。ただ、親の死を経験して、自分の人生をゆっくり見つめ直して、これからどんな風に生きたいか、有限の時間をどう使うかを考える機会は増えました」
後悔のない看取りになるよう「感謝や尊敬の思いを伝える」
お母さんが亡くなる直前、お父さんとお母さんの手を握り「お母さん! みんないるよ! ずっとありがとうね」と呼びかける。その言葉を聞いたように、お母さんは息を引き取った。
生前のお母さんについて、キクチさんは「他者をとても大切にする人で、それを常に行動で私に教えてくれました」と教えてくれた。
「そんな母に育てられたので、『どうしたら人のためになるのか、喜んでもらえるのか』というのは私の人生でとても大事な軸としてありました。最期まで母の希望が叶えられていたのかはわかりませんが、自分なりに母から学んだことを、母に返していこうと行動したつもりです」
「母から一生分の愛と思い出をもらった」
「実は高校生の頃まで本気で漫画家を目指していた時期がありました。現在はデザイナーとして働いていますが、漫画は趣味で描き続けていたので、『書籍を出せたら夢みたいだ』という憧れはありました。書籍化の話を父にしたとき、『小さい頃からの夢も叶えてすごいな!』と言ってもらえました。きっと母も同じことを言ってくれていると思います」
手に取ってもらいたい人を聞いてみると、「同世代で、身内の死を身近に感じて不安に思っている方に届いたら嬉しい」とキクチさん。介護から看取りまでのステップをコンパクトにわかりやすくまとめられているため、ハウツー本としても話題を集めている。
発売後、Instagramでの連載とは異なる世代にも届いており、「とある読者さんがお子さんにも読ませてくれたそうです。子どもでも読みやすいのか、サクサクと読み進めていたとのこと。今まで考えもしなかった“親の死”を意識するきっかけになったそうです」と思わぬ反響を明かしてくれた。
「子どもにとってはショッキングな内容でもあるかもしれないですが、『親を大切にしなきゃ』というポジティブな気持ちに繋がってくれていれば嬉しいなと思いました」
最後に、改めて親の介護・別れについて今の気持ちを聞いた。
「これから私が長生きをすればするほど、母と過ごした時間よりも母がいない時間の方が増えていきます。もしかしたら他の人よりは母と一緒に過ごす時間は少なかったかもしれません。それでも、一生分の愛と思い出をもらったと思っています。いま前向きに生きられているのは、間違いなく母のおかげです。20代で看取ろうが、50代で看取ろうが、この気持ちはきっと変わらないと思います」
■キクチさんX @kkc_ayn(外部サイト)
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