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サーティワン、日本上陸50周年 貫く「アイスクリーム専門店」としての姿勢、“半世紀一強”の勝因とは

 1945年にアメリカで誕生し、1973年に日本上陸したサーティワン アイスクリーム。以来、“アイスクリーム専門店”と言えば、誰しも「サーティワン」を思い浮かべるだろう。この半世紀でスイーツのトレンドは目まぐるしく変化し、あらゆる専門店が生まれては消えていった中、同社は現在も全国に1000店舗以上を展開し、昨年には過去最高売上を記録した。今ではコンビニやスーパーでも贅沢志向のアイスが立ち並ぶ中、半世紀に渡り、人々がサーティワンに足を運ぶ理由とは? その勝因に迫った。

「ハードアイス」「チョコミント」を定着させた功績、現在に至るアイス市場拡大に大きく貢献

 アメリカで誕生した世界最大級のアイスクリームショップ「バスキン・ロビンス」が日本に上陸し、「サーティワン アイスクリーム」の名で目黒に1号店がオープンしたのは、昭和48年。マクドナルドなど、アメリカから様々なファーストフード業態が入ってきた時期だった。

「当時の日本にソフトクリームはあったものの、ハードアイスクリームはまだ珍しかった時代でした。市場に出回っているフレーバーと言えば、バニラ、チョコ、ストロベリーくらいしかなく、店頭に色とりどりのアイスクリームが32種並ぶ光景は、当初から驚きを持って迎えられたようです」(マーケティング部 ・御園生久美さん)
 50年前から今も変わらずラインナップされているフレーバーは、『バニラ』『チョコレート』『ロッキーロード(R)』『チョコレートミント』『チョップドチョコレート』『ジャモカコーヒー』『ジャモカアーモンドファッジ』の7種類。中でも大きなインパクトを残したのが、『チョコレートミント』だ。

 サーティワンの上陸によってハードアイスクリームが普及し、『チョコレートミント』に代表されるように、新たな味覚が日本人の舌にも浸透した。さらに、コーン、ワッフル、シングル、ダブル、アイスクリームケーキなど、多様な食べ方が定着。ソフトクリームと違い、テイクアウトができる点も、アイスクリームの消費機会を増やし、市場を大きく広げることとなった。

「ハーゲンダッツ」に「コールド・ストーン」も… 消えゆくアイス専門店の壁

 それから半世紀、アイスクリーム界のトレンドは刻々と変化してきた。80年代には、「ハーゲンダッツ」や「ホブソンズ」など海外の有名店が次々と日本にオープンし、長蛇の列を呼んだ。2005年には「コールド・ストーン」が上陸。歌いながら目の前でアイスをミックスして完成させるというスタイルがブームとなった。

 しかし、1994年に全国95店舗を展開していた「ハーゲンダッツ」の路面店は2013年に全滅。それと入れ替わるように一世を風靡した「コールド・ストーン」も、2014年に34店舗まで広げていたが、昨年残るは2店舗にまで縮小していた。

 街中には、クレープやタピオカ、パンケーキ、パフェ、ドーナツなど甘い誘惑に溢れ、当然これらは全て客を奪い合うライバルとなる。中でも、“夏”のイメージが強いアイスクリームを、年間通して提供する専門店のハードルは高いのだ。激戦を勝ち抜くために、流行りのメニューを随時取り入れ、“何でも屋さん”になっているスイーツ店も多いが、あくまでサーティワンは“アイスクリーム専門店”としてのスタンスを50年間守り続けている。

 当初はトレンドに敏感な若者をメインターゲットに据え、2000年までに400店舗にまで拡大。以降はスーパーやショッピングモールなどの商業施設へ出店し、ファミリー層へも訴求。毎年100店舗ずつの驚異的ハイペースで増大し、2010年に1000店舗を達成。現在もその規模を維持している。
 成長要因のひとつは、「フレーバーへの飽くなき追求」だ。同店は一年中常夏のカリフォルニアで生まれたが、上陸当初からの最大の課題は、四季のある日本でどうやって一年中売るのかという点。寒い冬でも食べてもらえるよう、また飽きさせないように、この50年間、“毎月”新フレーバーを世に送り出してきた。

「春はいちごなどの季節物、夏はシャーベットやフルーツ系を多くラインナップし、冬はキャラメル系や濃厚な味わいのアイスクリームを提供するなど、季節ごとに10〜12種類を入れ替えています。また、抹茶や大納言あずきのような日本オリジナルのフレーバーも取り入れながら、これまで全世界で1300種類以上のフレーバーを発売してきました」(マーケティング本部長・若林翌さん)
 開発に当たっては、世界中のサーティワン担当者が集まっての“フレーバー国際サミット”も定期的に開催。海外のトレンドも取り入れつつ、グミ入りやトマト味、ローズ&ハイビスカスティーなど、チャレンジングな味も発売してきた。中でも、爆発的なヒットを記録したのが、1999年から2000年に世紀が変わったタイミングで出された『ポッピングシャワー』だ。

 3ヵ月限定の予定が、凄まじい勢いで売れたために2週間で品が足りなくなる状態に。テレビCMも放映しておらず、SNSもなかった時代に、口コミで広がった。味への飽くなき追求が実を結んだ一例と言えるだろう。

過去最高売上の背景に男性シェア拡大? テイクアウト強化で“店に入りにくい層”も囲い込み

 2000年代に3400億円だったアイスの卸売市場は、現在5400億円に成長。アイス市場全体で贅沢志向が年々高まり、単価が上がったことで急拡大している。

 コンビニやスーパーでもプレミアム感のあるアイスクリームが立ち並ぶようになった一方で、小売市場は長年伸び悩んでいた。さらにコロナ禍で多くの企業が打撃を受けたが、サーティワンはこの窮地を逆手に取り、果敢に攻めの経営を見せた。
 テイクアウトの需要拡大をにらみ、従来販売していたテイクアウト商品『バラエティパック』を大幅リニューアル。新たに『バラエティボックス』を開発し、大ヒット商品となった。また、さらなるテイクアウト需要を捉える施策として、待たずに買える「サーティワン To Go」を展開し、三鷹には初のテイクアウト専門店をオープンした。
「それまで20%弱だったテイクアウトが、40%にまで伸びました。男性のシェアが広がっており、今まで店内には入りづらかった層を新たに獲得できたのだと思います。伸長したテイクアウト比率は営業自粛が緩和されてからも変わらず、定着を見せています」(若林さん)

 加えて、昨年度は新店舗デザインへの全面改装を243店舗実施。これらリニューアル店舗の売上増大やマーケティング施策などが後押しをして、昨年度は過去最高売上を記録。今年の上半期も売上高を昨年比12%伸ばしており、さらなる記録更新に向け邁進している。
 創業者・バスキンとロビンスの想いを真摯に受け継ぎ、“アイスクリーム専門店”としての姿勢は決して崩さず、味でも空間でも、客を飽きさせない工夫は惜しまない。5月に実施されたフレーバー総選挙では、2006年発売の『ラブポーションサーティワン』に続き、初期メニューの『チョコレートミント』が第2位にランクインした(『ポッピングシャワー』は殿堂入り)。新しい味と変わらない味、両方を31日間飽きずに選んで楽しめることも、“半世紀一強”をひた走るサーティワンの勝因の1つかもしれない。


(取材・文=辻内史佳)

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