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『サントリー烏龍茶』ヒットの立役者はホステス? 発売当初から他社追従を許さない理由とは
発売前は懐疑的な声も… ホステスの“お酒の代替品”から普及し、健康飲料としても浸透
「そんな時代に、お茶を缶入りで発売するのは、なかなかのチャレンジでした。社内でも『無糖にお金を出してもらうなんて、難しいんじゃないか』と懐疑的な声も多かったそうです。しかし、烏龍茶自体、日本ではあまり知られていなかった時代に、昔から中国で飲まれている万能茶で、健康にも良いイメージがある…それを日本に定着させようと、発売に至りました」(サントリー・ブランド開発事業部・三村啓祐さん/以下同)
「恐らくピンクレディーさんは茶葉から召し上がっていたのだと思いますが、この話題も烏龍茶の商品化に向けてプラスに働きました。当時、日本人の食生活がどんどん欧米化していったこともあり、健康や美容にアンテナを張られているお客様にとって、烏龍茶は非常に受け入れやすかった商品だと思います」
さらに『烏龍茶』を認知させる立役者となったのが、スナックやバーなどお酒を提供するお店だ。もともとウイスキーを飲食店に卸していたサントリーが、お酒の割材として烏龍茶も提供。たまたま色がウイスキーに似ていたために、あまりお酒を飲めないホステスたちに「場の雰囲気を壊さず、お酒の代替として飲める」との理由で重宝された。さらに、ホステス経由で店のお客にも「健康に良い飲み物」として、クチコミでじわじわ広がっていったという。
「中国との国交もまだ正常化されて間もない頃に、先んじて『未知の国から来た神秘的なお茶で、安心安全で飲めますよ』と訴求するコミュニケーションを行ったことで、多くの方に手に取っていただくきっかけになったと思います」
烏龍茶では競合なしの無双状態も、無糖茶市場開拓により、ライバル大量出現で窮地に…
「完全発酵」の紅茶に対して、烏龍茶は「半発酵」と非常に手間がかかるもの。中国でも、もともと皇帝に献上する“最高品質のお茶”として生まれたもので、発酵度合の見極めと発酵を止める火入れ調節の塩梅が極めて難しいという。
さらに茶葉を栽培するにも気候条件などが厳しく、どこでも作れるものではなかった。サントリーは調査を重ねた結果、烏龍茶の本場である中国・福建省が最適だと判断し、以後、一貫して福建省の茶葉を使用している。
製法は当初から大きく変えていないが、味については、世の中のトレンドを見据えながら、少しずつ茶葉のブレンドや焙煎の度合いを微妙に変化させている。こうした強いこだわりが、40年以上に渡って、他社が追従を許さない要因だろう。
日本の食卓に古くから馴染みのある緑茶は瞬く間に浸透し、各社が相次いで新商品を発売。04年には、同社の『伊右衛門』が空前のヒットを飛ばした。さらに麦茶やブレンド茶、ジャスミン茶など、お茶のラインナップが一気に増え、烏龍茶は厳しい状況に追い込まれていく。
日本の烏龍茶文化を背負った危機感と責任感「ダウントレンドでも無くさない」
「当時、世の中の健康志向がより高まる中、“なんちゃって健康飲料”というか、ちゃんとしたエビデンスがない健康飲料が乱立していました。『このままではお客様が迷子になってしまう。ちゃんとしたエビデンスを持った飲料を届けたい』という志の下、弊社の烏龍茶をトクホにする開発が始まりました。黒烏龍茶ができて“健康機能がある”と訴求できたことで、烏龍茶自体の健康価値が上がることにもつながりました。“脂っこい食事の時は黒烏龍茶”だと認知していただき、『少し値段が高くても、どうせなら健康に良いものを飲みたい』というニーズは今も変わっていないと思います」
“無糖の飲料にお金を出して買う”という新しい生活文化を日本に根付かせた『烏龍茶』。数々のヒット商品を生んだサントリーの中でも、ブランド名がカテゴリー全体を担っている商品というのはなかなか珍しい。目立った競合がないからこそ、同社が製造終了するようことがあれば、日本での烏龍茶文化は薄れてしまう危機感と責任感も背負っている。
「01年以降、ダウントレンドではありますが、ブランドを無くすという話は一度も上がったことがありません。昨年、機能性表示食品化したことで、お客様に改めて『健康につながるお茶である』と堂々と言えるようになりました。これをフックに、一人でも多くのお客様に手にとっていただくことを目指していきたい。味もおいしくて健康にもつながる、一石二鳥のお茶として飲んでいただけたらと思っています」
(取材・文=水野幸則)